第11話 戦前の名作時代小説に挑戦してみたの巻(中里介山『大菩薩峠』篇2)

文字数 960文字

 時代小説の元祖とも称される偉大なる超大作『大菩薩峠』。
 この作品は複数の新聞に連載されたのですが、連載期間が大正二年(1913年)から昭和十六年(1941年)まで、合計28年にも渡るというのですから気の遠くなるような長さです。

 しかも、未完で終わった理由は作者・中里介山が亡くなってしまったから――ライフワークとは正にこのことですね!

 この作品には「序文」が付いているのですが、僅か数行ながら、なんかもう半端ない感じがびんびん伝わってきます!
 以下に引用してみましょう。

 この小説「大菩薩峠」全編の主意とする処は、人間界の諸相を曲尽(きょくじん)して、大乗(だいじょう)遊戯(ゆげ)の境に参入するカルマ曼荼羅(まんだら)の面影を大凡下(だいぼんげ)の筆にうつし見んとするにあり。この着想前古に無きものなれば、その画面絶後の輪郭を要すること是非なかるべきなり。読者、一染(いっせん)好憎(こうぞう)(しゅう)し給うこと(なか)れ。

 うーん、すごすぎてよくわからない(はは!)

 まあ、なーんとなくわかるのは、この作品は大乗仏教的な思想に基づいて描かれているらしいということ、それから……

「この着想前古に無きものなれば、その画面絶後の輪郭を要すること是非なかるべきなり。読者、一染の好憎に執し給うこと勿れ」の部分は、すごく格調高い文体で書かれていますけど、思い切って意訳すれば要するに――

 この作品のアイデアは文学史上空前のものであるから、その内容も絶後のスタイルを必要とするのは当然の話である。だから、ところどころ拾い読みした印象だけで、「クソつまんねえ」とか決めつけたりしないように‼

 みたいな意味ですね、たぶん。

 実はこの格調の高すぎる、あるいは意識超絶高い系の「序文」を見ただけで、はやくも心が折れかけたわたしだったのですが、こわごわ第一頁を読んでみると――

 大菩薩峠は江戸を西に()る三十里、甲州裏街道が甲斐国東山梨郡萩原村に入って、その最も険しきところ、上下八里にまたがる難所がそれです。

 えっ、まさかの「です・ます」体!
「序文」における、断崖絶壁を仰ぎ見るような格調の高さに比べ、ずっとくだけていて読み易い!

 そして冒頭すぐ、おそらく『大菩薩峠』全編中最も有名な場面が出てきます。
 この場面のインパクトが強烈で、読者はいきなり心を鷲掴みにされるのですが……

 続きは次回にて!(お前は講談師かとセルフツッコミ)
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