第41話 例えば例文にして準える

文字数 2,756文字

 東地区のフラワーショップは特売日で、腐葉土を好きなだけ負けてくれる。但し勿論それは、花を買えば、である。惑星に衛星、特典付録に見合う雑誌、太平洋戦争の泥沼にシェルビウス暗号とチューリング・マシン、うまい海老には残る尻尾、波打つ電波には誤解得意の動かない目耳の有利である。

 磁気テープにエズラ・パウンドの演説、捕縛されたスパイ容疑のベラドンナ独白マクベス、艶艶しい沖縄にはカーネーションなぞ必要なく、資料にしてパリは燃えなかった。自由恋愛市場は詩人ファシズムに依りパントマイムを覚え、マルセル・マルソーに憧れる若い男女は互いに恋の苦悩を、こころ悶えて音なく静かに伝えた。開演前に市場の恋が完結してシェイクスピアは苦悩している。

 ポケット・ラジオで音楽を聴いている、絡まったイヤフォンコード解くうち更に複雑になり、接続不十分から衛星よりのチャンネルが右ひだり混線を前後する。「アーアー、そちらには都合の良い情報が届いていますか?こちらは平常通りです」いくつかの旋回に於き安全且つ支障のない航路は既知と石置きし、街角交叉点の映画撮影がスケジュールまま一箇所で2グループの撮影隊で行われる。

 17番街はドリンクホルダーで芋を洗い、優雅な身なりの撮影スタッフとドーラン塗りのクプールはファッション個性に逆さま街に埋ずもれる。僕は僕の日常に横たわれカメラに興味津々かき消しながら、ふと横目に、買い物の紙袋を冷えた腹に抱えたまま、気遣いもあり、普段通りにアパルトでの余暇ティータイムを頭に浮かべ、サンダル軽くラジオでフランス語を耳みみ学習を続ける、ぽかぽかした初夏に二時間前のワインが少し、鼻先に気だるい酔いを残していた。


シノプシス①

Tロール・スタンドイン{(ゼルダ)と(スコット)}

 
挙式30分前、カフェパラソルの下では一組の男女がストローと会話を巧みに交互している。タキシード革靴、純白のドレスにヴェール、後方に教会の小鐘が上空の強風に暖簾腕と傾斜し、付け足しの音を時刻にし、街通りのパリジャンもパリジェンヌも興味あと片もなく、背景に困ることのない古い街並、テーブルで向かい合ったクプールが腕時計を気にしながら、撮影の合間に白昼夢に罹かっている。

「先に確認しておくけど、」
「なあに?(本をテーブルに置いて)」
「僕が風邪で病める時、君は何処で何をしているんだろうか」
「仕事をしながらも貴方を心配して、し過ぎてうっとり、それがまるで病気みたいになるわ。(グラスを持ち上げてまじまじと覗いて)青い顔に見られるかもね」

「もし健全な精神と肉体を保つとき、恋文に宛てど、君へ僕は迷うかもしれない。患う勇気を以ってしてコウモリと同じように赤い顔で君を愛るすかもしれない。(顔をのぞき込む)」
「食事に睡眠、接吻に、生きている限り時間は限界なんて数えられない筈よ。あの鐘の数と同じ(指を差す)憂鬱ね」

「ポーカーに負けて暮らそう貧しき時、君は銀の燭台を灯すだろうか」
「暗くても怖れないように貴方の首筋に息を吹きかけるわ(フッ)。小皿の蝋燭の小さな明かりに隠れてずっと傍にいるわ、約束よ」

「僕が世界一の大富豪だ、そう君に自負する時、君は僕と大西洋や地中海、カリブ、インド沖、荒れた太平洋を渡航するに、迷子に成らないで、僕の傍にいてくれるか」
「本当に想像力が豊か、財産、でも北極星はひとつ(ため息)、コールが掛かったら眠るのよ。海にレコード針を落とすわ。その間に世界を何周もしているに違いないの。そういうの、好きよ」

この版画家たちは20分後に既に風化した化石となる。

「『戦争』ってどこか英雄的な響きがないかい?」
「そうね。ラ・マルセイエーズはそう、確かにそう聴こえるわ」
男は鼻をポリポリ掻いてアイスティーを含むと、小さな氷を飲みこんで雑踏に耳を澄ます。
「その曲(指さして)あのマンホールから聴こえる」
「あのカセドラルからじゃないの?見て」
「そうかい?いや、地面から聴こえる。間違いない」
「ばかね。日曜日よ、今日は」
「そうか、そうかな」
「お腹すいたわ。バゲットの欠片を持ってない?」
「いいや。(テーブルの上に目をやり)おかわりはいるかい?」
「けっこうよ。今から撮影に入るのに。あなた頭どうかした?」
いいや。
大丈夫?
ああ、君の顔色を眺めてた。
結婚式のシーンなんて聞いてなくて、セリフは何も覚えてないの。でもどれも同じようなものでしょ?違うの?
ああ、そうかもしれないな。
でしょ。声もアフレコだし、落ち着いたわ。

「君、その本は?」
「ユゴーよ。最近買って、まだ途中なの」
「へえ、どんな内容なの?」
「それが、わからないの」
男は道路をゆく自動車を目で追って向き直る
「ほんのちょっと、どんな雰囲気の小説なんだい?ちょっとだけ」
「だから、それが、わからないの」
教会の鐘がひっきりなしに続けざまに鳴って、女はストローでグラス残った氷をカラコロ掻き混ぜる。雑踏に酔ったように本に手を当てうつむいて
「まだ、途中なのよ」


仮説extra.1 

神話が磊落した時、人もって神を信じるか、人々は何を信じて生活するのか。人間が人間として逞しく健康で在らんは自らを迷羊と化し、シープドッグや牧柵の云やうことを頑な、内なるリビドー代理人をゴート・グループに隠す事、あづま光の庭、バベル崩壊神話、然して、崩壊神話及び神話を永息することと肺器官に繰り返し見明める。土地を借りるに保証人が必須、忘れるほど永い間、然し誰も其れ拒む当然ト世迷ヒ告別ト為ス。


「『ねえ、聞いてる?』もし私が白雪姫よろしく目の醒めない病気ずっと夢を見て愉しくて、でもそれだけで身体は依りにも依ってすこぶる健康で、病院代はやたら掛かるけどブレッドには困らず、裕福の意味を態と履き違えて貴方に愛されていること、其れは私にとってとっても幸せなとき、となりの貴方はどうする?睡眠姫でも、電車のうたた寝、(小声で)デッサンのモデル時給の居眠り稼ぎでもいいんだけど」

(君に誓います、誓うよ、家の鍵に誓う。外出は極力控えて寝顔に落書きして起きるのを百年待つよ。百は余計なんだけど。大凡大概の人間はその間に見も知らない人も、君に対して必ずそうするよ。JAZZって、間違えてもテークを修正しないんだ)

カラン、勘定は割り勘、氷が落ちて未練にその糸を切って、二人は着々と一歩ずつ、教会へ向かいながら言葉噛みしめ、ひとときの別れを互いに忍んだ。閉じ込められた悠久の安息日と、ニ匹の羊と、群れ従う羊達は毛皮を被って、自らを憂いて共有し「群れ」それ自体を、我が帰り至る家ならんとする。

「ほら、見てみろよ。あんなに大勢がから騒ぎして。ばかばかしくってやってられねえよ」
「まったくもって同感。あいつらアブサンで脳ミソ逝っちまってやがる。嫌な夏だわ」




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