1 東欧革命と市民社会

文字数 2,105文字

デンケン先生、こんちわ~

市民社会公共性について、オレに教えてくれませんか?

ふぁい???

先週、研修に行ってきたんです。

したらさぁ、市民社会がどうの、劇場の公共性がどうのと、もうわけわからんくて・・・・・・

え?

研修って、朝倉君、文化会館に勤めてるんだよね?

なんで市民社会とか、公共性の話題がでてくんの?


それが、なんでか知りませんけど、でてきたんですよ。

もうわけわかんないから、とりあえず帰ったらデンさん(デンケン先生)に訊こうって・・・・・・

ふ~ん。

ま、市民社会と公共性についてなら、それなりに語れなくもないけど・・・・・・

教えてちょ
少しは自分で勉強したら?
オレ、耳学問派だから
誰かさんと同じだなぁ・・・・・・
ン?
いや、なんでもない
とりあえず、市民社会について語ってみて
平凡社新書からね、植村邦彦『市民社会とは何か 基本概念の系譜』(2010)ってのがでてるんだけど、コレ1冊読んだらさ、基礎的なことはバッチリ理解できるよ。超オススメ
だからぁ、オレは耳学問派って言ったじゃん
内容を解説しろと?
もち
これだから・・・・・・
なに?
いえいえ、わかりましたよ、はい
じゃさっそく、まずはね、いきなり植村さんの言葉を引用しておく
<civil society>という言葉は、16世紀末から18世紀にかけてイギリスで使われた後、その意味を他の言葉に取って代わられて、長い間死語となっていた。それが社会科学における基本概念の一つとして英語圏で再び広く使われるようになったのは、それほど古いことではない。そのきっかけは、1989年の東欧革命によって東欧諸国の「社会主義」政権が連鎖的に崩壊したことであった。[P12]

え? <civil society>の訳語が市民社会ですよね?

死語?

もっと古くからある、それこそ息の長い言葉だったんじゃないんですか?

「日本には市民社会が育ってない」とか何とか、なんかそういうセリフ、昔、シェアハウスで一緒だった中田さんっつう奇人から聞かされたような記憶が・・・・・・


少なくとも西洋では、つい最近まで死語だったみたいね
そうなんだ・・・・・・

東欧革命でね、デモなどの市民運動が注目されたんだよ。

でね、市民運動が共産党の独裁体制を打破し、民主化への道を切り開いた、と評されたわけ。

ただ、実際のところはね、こうした見方はとても一面的だ。

背景には何よりもまず、ソ連の国力低下にともなう「ブレジネフ・ドクトリン」(社会主義陣営全体のためには、東欧諸国への武力をともなう内政干渉も辞さず、とする方針)の否定があった。

民主化や市場経済の導入へ向けて舵切りした途端、背後からソ連に斬られるとあっては、政権側の態度は軟化しなかっただろう

また、各国が民主化(及び部分的な市場経済の導入)へ至った経緯というのも、それこそ様々だ。

むしろ共産党自身が自己反省的に一党独裁を廃止しようとしていたハンガリー、

反体制的な自主管理労組「連帯」が民主化運動を牽引していったポーランド、

知識人グループの活動が影響力をもっていたチェコスロバキア、

市民運動というよりは共産党内部の政権争い的なニュアンスが濃いルーマニア、

ハンガリーがオーストリアとの国境を開放したため、そこを経由して東ドイツから西ドイツへ脱出しようとする市民が絶えず、歯止めがきかなくなり、いわばなし崩し的に倒壊していった東ドイツなど、

街頭デモといった市民運動が民主化へ向けての大きな要因であったことは事実であるにせよ、それがすべてではなかったろう

とはいえ、この一連の東欧革命の過程でね、国家の横暴(独裁)と立ち向かい、民主化を切り開く市民運動(=市民社会)という構図が浮かび上がってきた。

でね、まさに植村さんが指摘するように、死語だった市民社会という言葉が復権してきたんだ

だったら、もし東欧革命がなかったら、市民社会はずっと死語のままだったかもしれませんね?
ありえなくはないね

いずれにせよ、ここでいう市民社会の定義はハッキリしてるよね。

それは、

①国家(政府)の横暴と闘い、

②民主主義の拡充を求める、

言論や、デモなど街頭民主主義を駆使した市民運動である、とね

日本でいうと、安保法制に反対したSEALDsとか、定義に合致する?
する
じゃ、日本には市民社会がないとか、育ってないとか、そういう言い方ってヘンじゃない

その背景には長い長い屈折した歴史があるんだよ。

市民社会という概念に、過剰な、規範的な意味が込められちゃってる。

まぁとりあえず、順番に語っていこうか

ちなみに、デンさんは、SEALDsについて、どう思います?

あの頃は、べつにSEALDsだけではなしに、全国各地でね、デモとか集会とかあったよね。

うちの両親も電車に乗って移動してね、はるばる参加しに行ってたよ。

親からも知り合いからも誘われたりしたけど、ぼくはね、動いていない

そうなんだ・・・・・・なんで?
理由を話すと、とてつもなく長くなるからね、またいずれ・・・・・・

[参考文献]

・植村邦彦『市民社会とは何か 基本概念の系譜』平凡社新書、2010

・三浦元博、山崎博康『東欧革命 -権力の内側で何が起きたか-』岩波新書、1992

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登場人物紹介

デンケンさん(49)・・・・・・仙人のごとく在野に生きることを愛する遊牧民的活字ドランカー。かつては大学院にいたり教壇に立ったりしていたが、その都度その都度関心があることだけを考えていきたい、という専門性を磨こうとしないスタンス、及び『老子』の(悪)影響があり、アカデミズムを避けた・・・・・・がゆえに一介のサラリーマンである(薄給のため独身、おそらく生涯未婚)。

朝倉恭平(30)・・・・・・ご近所の鷺ノ森市文化創造センターに契約職員として勤務。

(チャットノベル『毒男女ぉパラダイス!!』の登場人物・朝倉5年後の姿)

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