第2話 トイレを中心とした家
文字数 1,214文字
江東区の湾岸エリアのタワーマンションの賃貸広告だった。錦糸町の家賃相場に叩きのめされ断念した我々だったが、このタワーマンションはギリギリ我々の予算内の賃料だった。
おかしい。
面積からすれば1LDKでいいはずなのにワンルーム。
相当広い仕切りの無い空間なのかと思いきや、メインルームが驚異的に狭い。
原因はトイレだった。
間取り図で見るとトイレが異常に広い。
殿様が使うトイレなのかもしれない。
築10年、駅からはやや遠いがきっと景色は良い。狭さには耐性がある。
我々は内見を申し込んだ。
前住人が転勤で出ていくとの事で、彼の退去を待って内見に出向いた。
内見の立ち合いにきたお兄さんはくりくりの茶髪でこれまでの仲介業者さん達とは明らかに雰囲気が違っていた。
タワーマンション専門の賃貸仲介会社の方だった。
マンションの前でマンションを見上げると最上階は雲に潜り込んでいるのか、霞んでよく見えなかった。
エントランスをくぐると受付の女性がおかえりなさいませ、と会釈をした。
私はドギマギして
「あ、どうもこちらこそ」
と訳のわからない返しをしてしまった。
このやり取りは必要なのだろうか…??
異世界に迷い込んでしまった様な気がした。
我々が見に来た部屋は3階の隅っこの部屋だ。部屋の横は非常階段。
3階なのも値段が安い要素だろう。
タワーマンションに住む方々はとにかく上階に行きたがるそうだ。
私からすると上層階は空気が薄くなりそうだし、エレベーターでの気圧変動も激しいし、あまり気が乗らないのだけれど。
2階は駐輪場なので階下の住人に気を使う必要がないのも良いと思った。
階段で移動出来るから非常時にも安心だ。
ホテルの様な廊下を潜り抜け、
目的の部屋に入る。
玄関は大変に豪華な設えだった。
分譲マンションだけに施工会社の気合いを感じられる。
玄関の床はキラキラと光る石造りで美しい。
しかし、、入ってすぐ横にあったドアを開くと、
そこが問題のお手洗いであり、
便器が部屋の遥か遠く奥の方にちょこんと鎮座していた。
大人が布団を敷いて寝ても余裕がある。
枕元灯と本も置ける。
とにかく真っ白な広い部屋にトイレがあるだけの空間だった。
洗面所とお風呂はいたって普通のサイズだった。
メインルームもこれまた問題だった。
なんて狭いんだ…
あのトイレからは考えられない。
寝床とちゃぶ台を置いたら終わりじゃないか。
狂った間取りとはこの事だ。
しかし、この狭い部屋にはおよそ不似合いな巨大な窓が付いている。床から天井まで、端から端まで。一般家庭では見たこともない巨大な窓だ。
綺麗に磨き上げられているので外との境が無いのかと思った。
仲介業者の男性「どうですか?すごい物件ですよね」
この
どうにも手が付けられない感じが妙に自分と重なり、ここに住みたいと思った。夫はこの狭いスペースにどうやって住むか腕が鳴ると言った。
窓の外に広がる湾景も部屋の一部と思い込めば、何とか住めるのではないかと考え…
私達はその日、契約をした。
おかしい。
面積からすれば1LDKでいいはずなのにワンルーム。
相当広い仕切りの無い空間なのかと思いきや、メインルームが驚異的に狭い。
原因はトイレだった。
間取り図で見るとトイレが異常に広い。
殿様が使うトイレなのかもしれない。
築10年、駅からはやや遠いがきっと景色は良い。狭さには耐性がある。
我々は内見を申し込んだ。
前住人が転勤で出ていくとの事で、彼の退去を待って内見に出向いた。
内見の立ち合いにきたお兄さんはくりくりの茶髪でこれまでの仲介業者さん達とは明らかに雰囲気が違っていた。
タワーマンション専門の賃貸仲介会社の方だった。
マンションの前でマンションを見上げると最上階は雲に潜り込んでいるのか、霞んでよく見えなかった。
エントランスをくぐると受付の女性がおかえりなさいませ、と会釈をした。
私はドギマギして
「あ、どうもこちらこそ」
と訳のわからない返しをしてしまった。
このやり取りは必要なのだろうか…??
異世界に迷い込んでしまった様な気がした。
我々が見に来た部屋は3階の隅っこの部屋だ。部屋の横は非常階段。
3階なのも値段が安い要素だろう。
タワーマンションに住む方々はとにかく上階に行きたがるそうだ。
私からすると上層階は空気が薄くなりそうだし、エレベーターでの気圧変動も激しいし、あまり気が乗らないのだけれど。
2階は駐輪場なので階下の住人に気を使う必要がないのも良いと思った。
階段で移動出来るから非常時にも安心だ。
ホテルの様な廊下を潜り抜け、
目的の部屋に入る。
玄関は大変に豪華な設えだった。
分譲マンションだけに施工会社の気合いを感じられる。
玄関の床はキラキラと光る石造りで美しい。
しかし、、入ってすぐ横にあったドアを開くと、
そこが問題のお手洗いであり、
便器が部屋の遥か遠く奥の方にちょこんと鎮座していた。
大人が布団を敷いて寝ても余裕がある。
枕元灯と本も置ける。
とにかく真っ白な広い部屋にトイレがあるだけの空間だった。
洗面所とお風呂はいたって普通のサイズだった。
メインルームもこれまた問題だった。
なんて狭いんだ…
あのトイレからは考えられない。
寝床とちゃぶ台を置いたら終わりじゃないか。
狂った間取りとはこの事だ。
しかし、この狭い部屋にはおよそ不似合いな巨大な窓が付いている。床から天井まで、端から端まで。一般家庭では見たこともない巨大な窓だ。
綺麗に磨き上げられているので外との境が無いのかと思った。
仲介業者の男性「どうですか?すごい物件ですよね」
この
どうにも手が付けられない感じが妙に自分と重なり、ここに住みたいと思った。夫はこの狭いスペースにどうやって住むか腕が鳴ると言った。
窓の外に広がる湾景も部屋の一部と思い込めば、何とか住めるのではないかと考え…
私達はその日、契約をした。