第3話 戦国武将

文字数 2,449文字

我が家はねこを飼うのが初めてで、一体ねこなるものがどんな生態なのかよくわからぬまま飼い始めました。

イメージとしては
・くねくねしている (体がやわらかい)
・きまぐれ (犬のような反応をしない)
・抜け毛 (飼い主の洋服は毛だらけ)
・散歩をしなくてもいい (飼いやすい)
・爪を研ぐ (柱や壁はきずだらけ)
なぁ~んて感じでしたかね。

実際に飼ってみて今までの自分たちのイメージがかなり違うことがわかりました。
きまぐれはきまぐれですが「おいで」 と呼べば来るし、名前を呼ぶと振り向いて返事をする こともあります。抜け毛は確かにありますが季節によって多少違いがあるし、爪を研ぐのも決まった場所でやるので我が家の場合、家の中に被害はほとんど無く、彼は床にあるものは踏まないように避けて歩くし、テーブルや棚の上に乗っているものを落としたりいたずらしたりすることもあまりないので、家の中はほぼ今まで通り特に困ることはありませんでした 。

でも飼い始めた頃はそういうことがよくわからなかったので、リビング以外のところには行かせないようにしました 。
うちはリビングとキッチンがつながっているので、その境目に水2㍑ペットボトル6本入りのダンボールを2段に積んでキッチンに入り込めないようにしました。
ところが・・・2か月ほどしてねこはその箱の上にヒョイッと登れるようになってしまいました。
「え!どうしよう・・」
と様子を見ていたのですが、まぁ危険はなさそうだったのでキッチンに行くことをOKとしました。彼は予想通り悪さをすることもなく、よくキッチンスツールの下などに丸くなって寝ていました。

しかし成長する彼は、だんだんリビングとキッチンだけでは気が済まなくなってきました。うちのリビングのドアはガラスがはめ込まれているのですが、そこからじぃーと廊下をみつめ、にゃおーにゃおーと鳴くようになりました。
私たちがリビングを出て廊下を歩きながらふと振り向くと・・・

じぃー

何とも言えない視線を感じ、だんだん耐えられなくなってきました。
「廊下くらいイイんじゃない?」
誰からともなく、家族で意見が一致しリビングのドアが解放されました。

水を得た魚のように・・

彼は大喜びで廊下や二階へ続く階段を走り回るようになりました。
「うちのねこは外へは出さない完全室内猫として飼うつもりだから、やっぱりこのくらいの動きをさせないとかわいそうだよね。」
と家族で納得。

しばらくするとある扉の前で・・
リビングを出た廊下の突き当たりに洗面所とお風呂があるのですが、その引き戸の前でお座りをして扉をみつめるように。
特に、家族がお風呂に入っていたりしたら

にゃーにゃー

そしてその人がお風呂から上がって出てくるまで
扉の前でねそべって待っているのです。

「入れてあげようか。」

またまた家族で合意。

どうせ悪さもしないんだし

そして彼は洗面所に入ることもできるようになりました。時には風呂場にも入りましたが、こちらの方はあまりお気に召さなかったらしく、今ではほとんど入ることはありませんが。

この頃になると気が付くと家の好きなところで寝そべって、おなかがすくと餌を食べにリビングへやってくる。寝ているところに家人が通りかかるとついてくる、なんて毎日。

ねこらしいな~
のんびりしてるな~

私はそんな空気感がなんともいえず好きでした。

1階の和室は座卓があるだけで家具らしいものはなく板の間に私の仕事道具をおいてあるだけで、私はその和室で仕事をしていました。そこで、仕事の準備をしているときには部屋に入れてやるようになりました。私が座卓で書き物などをしていると、座布団の上で眠ったり、座卓の下で毛づくろいをしたり。時には紙をくしゃくしゃにまるめて投げると駆け回ってじゃれついたりしていました 。
この時点で1階で彼が入れないのはトイレだけとなりました。

やがて気が付くと、彼は二階で鳴くようになりました。見に行くと長男と次男の部屋のドアの前で鳴いています。

「入りたいの?」

私が聞くと、彼は私の顔とドアをかわるがわるみつめ訴えているようでした。

「開けてよ~入れてよ~」

不憫に思った私は、二階に洗濯物を干す3畳ほどの部屋があるのですが

「じゃあママとお洗濯干そうか。」

と乾燥室に入れてやりました。
それからは私が「洗濯物干そう」と言って二階に行くと、走ってついてくるようになりました。
しかし――――
そうしながらも気が付くと息子たちの部屋の前で彼は鳴いたりねそべったり・・・    

ある日2人の息子に言いました。
「あんたたちの部屋の前でず~と鳴いてるの、よく平気ね 。」
「だって、部屋汚いから入れられないんだもん。」
息子たちは口をそろえて言いました。
「じゃあ片づければいいじゃない。」
「・・・うん、そうなんだけど。」

それからしばらくして次男が部屋を片付け、入れてやるようになりました。するとねこは毎日足しげく次男の部屋へ通いだしました。
見当たらないな~と思うと次男の部屋のベッドの上で寝ています。寝ほうけて餌を食べる量が減ったくらいです。どうやら彼はふかふかしたところで寝るのが好きらしく、毛布ではなく掛布団の上で寝るとか。次男もかわいいねこにご満悦 という感じでした。

私はねこを【王子】と呼びました。

ところが3週間ほどすると、今度は長男の部屋の前で鳴くようになりました。

「片づけて入れてあげなさいよ。」
私が言うと
「A(次男)の部屋に入れてもらってるんだからいいじゃん。」
「あんたの部屋に入りたいのよ。早く片付けなさい。」
「うん。。」

来る日も来る日も長男の部屋の前で鳴き続け・・
そしてとうとうねこは長男の部屋にも入ることを許されました。
あれだけ部屋の前で鳴かれたら、ね 。

こうして我が家のねこは自分の勢力を家じゅうに広げていったのであります。
家の中の部屋をひとつひとつ落としていって・・・残るは主人の部屋とトイレだけ。
主人の部屋が落ちるのも時間の問題でしょう。

私はねこを【戦国武将】と呼んでます。









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