第47話 夫婦の問題はその夫婦にしか分からない

文字数 1,217文字

正人はソファに座り、目の前にあるテレビを見ていた。
ニュースが流れている。
明美は正人の隣に座った。
正人の隣に座り、正人の手を明美のお腹に当てた。
あの時も本当はこうしたかったのだ。
言葉じゃなくて感じてほしかった。
明美のやり方はいつもそうだった。
大事なことほど言葉で表そうとすると嘘になる。
どうしても言葉では足りない感情があるのだ。
でもそれは明美の場合だった。
正人にとって明美のやり方はいつも強引だった。



「何?」




正人は自分でも思っていた以上によそよそしい声が出たことに少し驚いた。
正人はまさに一人にしてほしかった。
勇が自分の子どもであるということをいよいよ現実の問題として向き合おうと思っていた。
そんな時に明美はまた自分の都合で正人に問題を突き付けてきたのだ。
正直腹が立った。




「赤ちゃん」




正人は驚くことしかできなかった。
動作だけで気づくと思っていた明美はわざわざ言わされたことに驚いているようだった。
でも正人は今でさえ問題が山積みで頭が痛いところだったのだ。
そんな正人に明美は容赦なく自分の感情をぶつけてきた。






「どこにも行ってほしくない」





なぜ今なんだろう。
正人はいつも明美のそのマイペースさに頭を悩まさせられてきた。
正人はどうすればいいか分からなかった。
自分にこれ以上どうすればいいというのか。
正人は明美の都合でいきなり父親にさせられたような気さえしていた。






「どうすればいいか分からない」







正人はまず率直に自分の今の現状について話した。
言葉にして自分でもまずいことを言っているのが分かった。







「ひどい」




「ごめん」




正人は相変わらず言葉が浮かばなかった。
明美は今にも泣きだしそうだった。
正人はどうすべきかは分かっていた。
でもその泣き出しそうな明美を受け止められる程、正人は気持ちの余裕がなかった。
今まさに明美は部屋から出ようとしていた。
正人はもしかしたらもうこれで二度と会えなくなるかもしれないと思っていた。
それくらい明美はいつもと違った。
でもそう思っていてもどうしても身体が動かなかった。
その時、明美は止まった。
振り向き、正人を見た。
正人は別れの言葉を言われるかと思った。




「母に好きな人がいて、それを父が知っている関係をどうして続けていると思う?」




なぜこんなことを聞かれるか正人は意味が分からなかった。
でも明美は真剣だった。
正人はまた正直に自分が思っていることを伝えた。




「そんなの分からないよ」




確かに腹は立てていたけど、答えたくなかったから答えなかったわけではない。
正人は夫婦の問題はその夫婦にしか分からないと思ったのだ。







明美は部屋を出て行った。
正人はいつもの喧嘩であることを信じていた。
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