第9話 二等兵 志村菊次郎 その3

文字数 677文字

 志村二等兵が発見されたという報告は、何故か北京の連隊本部にはもたらされなかった。

    つまり、本部は、誰からかわからぬ実弾射撃と、行方不明者捜索の二点を元に中国側と交渉したのである。

日が変わった7月8日午前3時頃

再び 数発の銃声


今度は、はっきり竜王廟からの射撃であった。

 午前4時23分 連隊本部は攻撃命令を発出した。

 時の連隊長は、後にインパール作戦を指揮する、あの悪名高い牟田口廉也である。

 結果として、清水大尉の言った通りこの事件を契機に、日中戦争は泥沼化していくのである。


 謎は残る。

 そもそも、実弾を発射したのは誰?

 中国軍、或いは、日本軍の謀略か?

 または、八路軍(共産軍)の仕業か?

 

 何故、志村二等兵は排便に20分も掛かったのか?

 公衆便所を探していたわけでもなく、

 夜間の荒野での野グソに20分も掛かることはないだろう。

 或いは、彼は道に迷ったか?

 銃撃が収まるまで、退避していたか?


 さらに何故、志村二等兵無事帰還の報告が遅れたのか?


 志村二等兵が、排便をしなければ・・・


 タイミングよく、実弾射撃が発生しなければ・・・


 本部への報告が遅れていなければ・・・


 連隊長が牟田口でなかったら・・・






   


幾つものタラレバを重ねながら、歴史は、進行していくーーー
しかしながら、志村菊次郎の名前は、盧溝橋に吹く薫風とともに、歴史の一頁に黄金色に刻まれることになった。


それが本人にとって幸せであったかどうかは、また別の問題である。

                          この項        了
参考文献    三好徹 『興亡と夢』
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登場人物紹介

土方歳三  新選組副長

沖田総司   新選組一番隊組長

三浦啓之助(佐久間格二郎)

芦屋 昇  新選組隊士 

前首相

元首相

仙人

プリンセス

婚約者

山田浅右衛門

婚約者の母

伊庭八郎

伊庭想太郎

看守

伊勢屋質店 店主

久佐賀 義孝 高利貸し

森 林太郎 

一葉

くに       一葉の妹

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