20 ダンジョン探索

文字数 3,468文字

 ダンジョン生活(せいかつ)、3日目。

 今日(きょう)からいよいよオブライエンさんの手記(しゅき)参考(さんこう)にしながら、脱出(だっしゅつ)()かって洞窟(どうくつ)に入るようだ。
 洞窟(どうくつ)の入り口でオオカミたちが(さび)しそうに()ている。

 わかってる。あなたたちも(そと)()たいわよね。……無事に脱出(だっしゅつ)したら、転移(てんい)でやってくるから、それまで()ってて。

 (わたし)はそう(おも)いながら、オオカミたちの見送(みおく)りを()けて、ヒロユキとコハルと一緒(いっしょ)洞窟(どうくつ)に足を()()れた。

――――
 不思議(ふしぎ)洞窟(どうくつ)のなかは、ところどころの(かべ)がうっすらと発光(はっこう)していて、まったくの()(くら)というわけじゃなかった。
 (わたし)(くら)くても()えるけど、ヒロユキとコハルもだんだんと目が(なれ)れてきたようだ。
 コハルが緊張(きんちょう)しながら、
 「(かべ)(ひか)っていると、かえって不気味(ぶきみ)だね」
 するとヒロユキが、
 「ふん。……たいまつがいらないから、かえってよかったさ」
(つよ)がっている。

 ふふふ。二人とも今から緊張(きんちょう)しっぱなしだと、出口(でぐち)までもたないわよ?

 まわりの気配(けはい)(さぐ)りながら、二人の(まえ)(ある)いていると、目の(まえ)洞窟(どうくつ)二手(ふたて)()かれている。
 その手前(てまえ)でコハルがカバンから手帳(てちょう)()()した。
 魔法(まほう)で小さな(ひかり)照明(しょうめい)()して手帳(てちょう)確認(かくにん)している。
 「(ひだり)だね」

 うん。そうだね。手帳(てちょう)だと。……でもね。コハル。ここは(みぎ)に行きましょう。

 (わたし)は、一人でさっさと右の方へと(ある)き出した。
 「あっ。ユッコ! そっちじゃないって!」
 あわててコハルが()いかけてきて、その(うし)ろをヒロユキが、
 「おい! ()てよ!」
と言いながらついてくる。

 オブライエンさんは、(みぎ)通路(つうろ)が少ししたら()()まりって()いているでしょ?
 でもね。その()()まりに(かく)通路(つうろ)(かん)じられるわよ。

 (わたし)感知(かんち)能力(のうりょく)なら土中(どちゅう)空洞(くうどう)も、この洞窟(どうくつ)のすべての通路(つうろ)もわかる。
 さっきの()かれ(みち)は、(ひだり)に行くと上に行く通路(つうろ)(みぎ)に行くと下に行く通路(つうろ)。……そして、下にはあと一階層(いっかいそう)しかないわ。
 オブライエンさんはわからなくて左に行っちゃって苦労(くろう)した。左に行くと、ここから地上(ちじょう)に行くまで二〇階分(にじゅっかいぶん)(あが)っていかないといけないし、途中(とちゅう)(ちゅう)ボスの部屋(へや)(みっ)つもある。
 右? 右はね。ここの下の階層(かいそう)がボスのいる階層(かいそう)。たぶん、さっきまでいた草原(そうげん)森林(しんりん)のある広間(ひろま)は、ボス戦前(せんまえ)回復(かいふく)ポイントなのよ。
 ボスって言ったって、(わたし)がいれば問題(もんだい)ないし。その(おく)に行けば、地上(ちじょう)への転移(てんい)魔方陣(まほうじん)があるはず。

 「ちょ、ちょっとまってって。ユッコ! そっちは()()まりよ」
 ふふふ。わかっているわよ~。

 そうやって(いそ)(あし)(すす)んでいくと、すぐに()()まりが見えてきた。
 (うし)ろからヒロユキとコハルがやってきて、
 「ほらね? ()()まりでしょ?」
 (すこ)(いき)をあらげながらコハルがそういうと、ヒロユキが、
 「まったく。なにやってるんだよ。お(まえ)は」
(どく)づいている。
 (わたし)は二人を見上(みあ)げ、(くび)をかしげると、(かべ)(ちか)づいていく。……見つけた!
 わからないように設置(せっち)されている小さなボタンを、前足(まえあし)でポチッと()した。

 ガコンっ。

 (なに)かが(うご)(おと)がする。
 ヒロユキとコハルがあわてたように、
 「な、なんだ?」
 「トラップ?」
 少しずつ振動(しんどう)が大きくなり、天井(てんじょう)から(つち)ほこりが()ちてきて……。

 「「な!」」

 二人が(おどろ)いた(こえ)を上げる。()(まえ)()()まりの(かべ)()()ぐすき()ができると、左右(さゆう)(ひら)いていった。
 (わたし)は どや(がお)()(かえ)り、二人を見上(みあ)げると、二人とも(おどろ)いた(かお)のままでかたまっていた。

――――
 「すっごーい! ユッコ」
 ()()きを()(もど)したコハルが、(わたし)()()げて(ほお)ずりしている。
 ヒロユキも感心(かんしん)したように、(あたら)しい通路(つうろ)(さき)をのぞき込んでいる。
 「本当(ほんとう)だな。よくやったぞ!」
 
 興奮(こうふん)している二人だけど、そろそろ()ちついた方がいいわよ。……ほら、(おく)からアイアン・ゴーレムが(ちか)づいているわ。
 残念(ざんねん)だけど、あれは二人には()(おも)すぎるわね。訓練(くんれん)にもならないから、(わたし)がやっちゃおう。

 二人に気がつかれる前に、気配(けはい)感知(かんち)をたよりにゴーレムに灼熱(しゃくねつ)魔法(まほう)仕掛(しか)ける。
 熱風(ねっぷう)がここまで()()せてきて、ヒロユキが、
 「なんだ? ……もしかしてこの(おく)って火山(かざん)か何かか」
()いながら、()()()めた。

 ううん。大丈夫(だいじょうぶ)よ。ただゴーレムを()かしちゃっただけだから。
 つづいて、こっそり冷却(れいきゃく)魔法(まほう)(はな)ち、もとゴーレムだったはずの()けてドロドロした液体状(えきたいじょう)(てつ)急激(きゅうげき)()やす。そうしないと(とお)るとき(あぶ)ないもんね。

 今度(こんど)冷気(れいき)がここまで()いてきた。
 コハルがぶるっと(ふる)えながら、
 「なんか(つめ)たい(かぜ)()いてきたよ。なんだろう?」
 なにも状況(じょうきょう)()らない二人は、(くび)をかしげている。
 素知(そし)らぬ(ふう)をよそおいながら、(わたし)はさっさと通路(つうろ)()()んだ。

 それから500メートルほど(すす)んだところで、見た目が泥沼(どろぬま)のように(ひろ)がって(てつ)(かた)まっていた。そのその真上(まうえ)にはゴーレムのコアだったらしき(あか)い石がある。
 ヒロユキが、
 「気をつけろ。(わな)があるかもしれない」
といいながら、()けた(てつ)(かたまり)を見つめている。
 大丈夫(だいじょうぶ)なのにね。
 (わたし)はトトトッと()えた(てつ)の上を(ある)き、前足(まえあし)無造作(むぞうさ)に赤い石を()みつぶした。
 ベキッという(おと)を立てて、あっけなく石はくだけちった。
 「……大丈夫(だいじょうぶ)そうね」
 コハルはそういいながら、足を(すべ)らせないように、おっかなびっくりで(てつ)の上を(ある)きはじめた。
 ヒロユキもそれにつづき、5メートルほどの(てつ)(ゆか)(わた)りきる。

 それを見届(みとど)けると、(わたし)はふたたび二人を先導(せんどう)するように(まえ)(ある)く。下におりる階段(かいだん)はもうすぐそこよ。
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登場人物紹介

神獣である九尾の狐。仲間を大切にする心優しい性格で、今はとある事故に巻き込まれてコハルという少女の召喚獣となっている。

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