倒産の危機
文字数 2,139文字
こんなことは初めてだった。
1年前から大々的な宣伝を行ったのに、2週間でサービスが終了するなんて。
……なんの話かって? 自分の会社が開発したソシャゲが大爆死したんだよ!
ゲーム制作も運要素が絡むガチャなんだなぁと背筋が寒い想いだが、そんな悠長なことを言ってられるはずもなく、会社は日頃の平穏な様子から一転して倒産の危機が囁かれ始めた。
俺はソシャゲ開発部の陽キャ体質が嫌いだ。「この会社を支えているのは俺たちだ!」と言わんばかりに、買い切り型アプリ開発する自分の部署を見下す態度が気に食わなかった。
そんなソシャゲ開発部は、会議での新規キャラクターのアイデア出しで、尻がどうだの太ももがどうだのエロで釣ることばかり考えている。そしてガチャが回り続けてユーザーのお金が溶けるのだから、開発者にとっては笑いが止まらないだろう。
……しかし試練は突然やって来た。
今までYoutubeやTwitterのインフルエンサーを巻き込んで人気だったソシャゲが、ある時期から急に売り上げを落とし始め、そろそろ新規のゲームを開発する必要があると、社運を懸けて1年前から取り組んでいたのだ。
結果は大爆死である。
運営の見直しという名目でサービスを2週間で終了させ、アプリはストア上から削除された。
日々配信され続けるソシャゲにユーザーの目が肥えたのか、露骨な金儲けの匂いがする運営は切り捨てられる傾向にある。その点を開発部の連中は理解していないか、はたまた求められるニーズを無視したのかは分からないが、新規ゲーム配信直後にTwitterで大炎上が起こった。
まずゲームとして快適に遊べないどころか、ガチャを回させようとする魂胆を見透かされ、「二度と遊びません」というコメントがネット上で溢れたのだ。
「ざまあwww」と言いたいところだが、ソシャゲの失敗は自分にとっても他人事ではない。このまま会社の経営が傾き続ければ、いずれ転職を視野に入れる必要があるだろう。
そんな俺に白羽ならぬ黒い羽根の矢が飛んで来た。
社長から買い切り型のゲームアプリを開発しろと命令が出たのだ。
聞けば株主から睨まれないため、「新しいゲームアプリは現在も開発しています!」というスタイルだけでも見せておきたいらしい。もともと社長は買い切り型のゲームアプリで会社の売り上げを伸ばそうとしていた人だが、「ガチャ」の旨味を知ってしまったが故、ズブズブと沼に嵌ってしまったとのこと。
そんなお茶目な社長が開発を希望するゲームはサウンドノベルというジャンル。
1994年に発売された『かまいたちの夜』のようなものを作ってくれとお願いされた。
……また古いゲームを引っ張り出してきたなぁと溜息が出たが、色々聞くとそれなりに理由があるらしい。まず短期間でゲームを制作する必要があるため、核となるシナリオは機械学習(AI)のシステムに任せるとのこと。
「えっ、シナリオを全部AIが書いてくれるの?」と驚きの声が出たが、業界の関係者によるとすでにプログラムは組まれており、簡単なノベルゲームくらいはすぐに作れるのだそうだ。ソシャゲの爆死で社内の人員も割けないし、苦肉の策であると言えなくもないが……。
また、何故『かまいたちの夜』にしたのかと聞いたら、30代以上の購買層をターゲットにするらしく、いわゆる「おっさんホイホイ」を狙っているらしい。
そもそも、このゲームアプリはあくまで「開発している」という姿勢を世間に見せるためのもので、会社を支えるほどの売り上げは期待されていない。おっさんホイホイだと皮肉られようが痛くも痒くもないため、ある意味、気楽な仕事ではあると思う。期待されていない部署にはお似合いの案件だろう。
……とは言え、AIによる自動シナリオ制作には俄然興味が湧いた。すぐにプログラムを提供してくれる関係者と連絡を取り、仕様を一通り教えてもらった。サウンドノベルは物語の進行によってゲームブックのように分岐が現れるのだが、それも自動で生成してくれるため、人間側で簡単な校正を行うだけで済みそうだ。これなら短期間で完成できるかもしれない。
後は題材探しである。
かまいたちの夜はクローズドサークル型のミステリーなので、俺はアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』や綾辻行人『十角館の殺人』、有栖川有栖『孤島のパズル』、東野圭吾『ある閉ざされた雪の山荘で』、森博嗣『すべてがFになる』などを読んだ。
もちろん、かまいたちの夜の原作者である我孫子武丸の『8の殺人』、『殺戮にいたる病』も読んだ。しかし、これらの作品を読めば読むほど、俺は頭を抱えることになる。
(これはおっさんホイホイのゲームアプリなんだよなぁ……)
つまり、ユーザーが求めるのはオリジナルの作品ではなく、昔を思い出させる『かまいたちの夜』のような作品なのだ。亜流作品……と言えば聞こえは良いが、実態はパクリに近いものを作る必要がある。先にも述べたように、例えTwitterで炎上しても痛くも痒くもないため、パクリだと罵られようがダメージは少ないのが幸いではあるが。
「まあいいや、作りながら考えよっと」
そんなお気楽な感じでゲームアプリの制作が始まった。
1年前から大々的な宣伝を行ったのに、2週間でサービスが終了するなんて。
……なんの話かって? 自分の会社が開発したソシャゲが大爆死したんだよ!
ゲーム制作も運要素が絡むガチャなんだなぁと背筋が寒い想いだが、そんな悠長なことを言ってられるはずもなく、会社は日頃の平穏な様子から一転して倒産の危機が囁かれ始めた。
俺はソシャゲ開発部の陽キャ体質が嫌いだ。「この会社を支えているのは俺たちだ!」と言わんばかりに、買い切り型アプリ開発する自分の部署を見下す態度が気に食わなかった。
そんなソシャゲ開発部は、会議での新規キャラクターのアイデア出しで、尻がどうだの太ももがどうだのエロで釣ることばかり考えている。そしてガチャが回り続けてユーザーのお金が溶けるのだから、開発者にとっては笑いが止まらないだろう。
……しかし試練は突然やって来た。
今までYoutubeやTwitterのインフルエンサーを巻き込んで人気だったソシャゲが、ある時期から急に売り上げを落とし始め、そろそろ新規のゲームを開発する必要があると、社運を懸けて1年前から取り組んでいたのだ。
結果は大爆死である。
運営の見直しという名目でサービスを2週間で終了させ、アプリはストア上から削除された。
日々配信され続けるソシャゲにユーザーの目が肥えたのか、露骨な金儲けの匂いがする運営は切り捨てられる傾向にある。その点を開発部の連中は理解していないか、はたまた求められるニーズを無視したのかは分からないが、新規ゲーム配信直後にTwitterで大炎上が起こった。
まずゲームとして快適に遊べないどころか、ガチャを回させようとする魂胆を見透かされ、「二度と遊びません」というコメントがネット上で溢れたのだ。
「ざまあwww」と言いたいところだが、ソシャゲの失敗は自分にとっても他人事ではない。このまま会社の経営が傾き続ければ、いずれ転職を視野に入れる必要があるだろう。
そんな俺に白羽ならぬ黒い羽根の矢が飛んで来た。
社長から買い切り型のゲームアプリを開発しろと命令が出たのだ。
聞けば株主から睨まれないため、「新しいゲームアプリは現在も開発しています!」というスタイルだけでも見せておきたいらしい。もともと社長は買い切り型のゲームアプリで会社の売り上げを伸ばそうとしていた人だが、「ガチャ」の旨味を知ってしまったが故、ズブズブと沼に嵌ってしまったとのこと。
そんなお茶目な社長が開発を希望するゲームはサウンドノベルというジャンル。
1994年に発売された『かまいたちの夜』のようなものを作ってくれとお願いされた。
……また古いゲームを引っ張り出してきたなぁと溜息が出たが、色々聞くとそれなりに理由があるらしい。まず短期間でゲームを制作する必要があるため、核となるシナリオは機械学習(AI)のシステムに任せるとのこと。
「えっ、シナリオを全部AIが書いてくれるの?」と驚きの声が出たが、業界の関係者によるとすでにプログラムは組まれており、簡単なノベルゲームくらいはすぐに作れるのだそうだ。ソシャゲの爆死で社内の人員も割けないし、苦肉の策であると言えなくもないが……。
また、何故『かまいたちの夜』にしたのかと聞いたら、30代以上の購買層をターゲットにするらしく、いわゆる「おっさんホイホイ」を狙っているらしい。
そもそも、このゲームアプリはあくまで「開発している」という姿勢を世間に見せるためのもので、会社を支えるほどの売り上げは期待されていない。おっさんホイホイだと皮肉られようが痛くも痒くもないため、ある意味、気楽な仕事ではあると思う。期待されていない部署にはお似合いの案件だろう。
……とは言え、AIによる自動シナリオ制作には俄然興味が湧いた。すぐにプログラムを提供してくれる関係者と連絡を取り、仕様を一通り教えてもらった。サウンドノベルは物語の進行によってゲームブックのように分岐が現れるのだが、それも自動で生成してくれるため、人間側で簡単な校正を行うだけで済みそうだ。これなら短期間で完成できるかもしれない。
後は題材探しである。
かまいたちの夜はクローズドサークル型のミステリーなので、俺はアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』や綾辻行人『十角館の殺人』、有栖川有栖『孤島のパズル』、東野圭吾『ある閉ざされた雪の山荘で』、森博嗣『すべてがFになる』などを読んだ。
もちろん、かまいたちの夜の原作者である我孫子武丸の『8の殺人』、『殺戮にいたる病』も読んだ。しかし、これらの作品を読めば読むほど、俺は頭を抱えることになる。
(これはおっさんホイホイのゲームアプリなんだよなぁ……)
つまり、ユーザーが求めるのはオリジナルの作品ではなく、昔を思い出させる『かまいたちの夜』のような作品なのだ。亜流作品……と言えば聞こえは良いが、実態はパクリに近いものを作る必要がある。先にも述べたように、例えTwitterで炎上しても痛くも痒くもないため、パクリだと罵られようがダメージは少ないのが幸いではあるが。
「まあいいや、作りながら考えよっと」
そんなお気楽な感じでゲームアプリの制作が始まった。