第九話 魔王があまりに強すぎる

エピソード文字数 2,121文字

みなさん……役に立たない私で、本当にゴメンなさい……。すべて私のせいでした……。
勇者、踏み台の上で首を釣るのを躊躇していた。
……はうっ……やっぱり、できない……。
待てーい! 何してくれてんだよぉ!
ひゃあ!?
勇者は驚いて台から足を踏み外し、自分の首に縄が巻き付く。
黒魔法エアスラッシュ!
魔法使い、斬撃魔法で縄を断ち切る。
そして3人は、床に落ちた勇者を取り囲む。
ちょっと! 何があったっていうの? 説明しなさい!
アタシら仲間じゃないのか? 悩んでることがあるなら、どうして相談してくれないんだよ。
怒らないから、言ってくれ。
ううう、皆さん……。
実は――
うち沈む勇者は、ぽつりぽつりと語り始めた。
その予想外の成り行きに、取り囲む3人は息をのむ。
――ま、まさか魔王が、魔境銀行の頭取だったなんて……。
世界三大銀行の一つじゃないか。まだ創設20年でしかない銀行なのに、グレーゾーンの取引に手を染めることで瞬く間に頭角を現し、各国に支店網を築き上げて巨大化するに至ったという……。
裏取引、麻薬取引、政治家の買収、国際外交上で禁止されている非人道的武器の売買、それから海賊組織支援まで、耳に入る噂は悪いものばかりの銀行だぞ。
とてつもない大金持ちじゃないの。もしかすると国王なんかよりも遥かに……。
どうりで魔王は私たちに、1000億Gを約束してきたわけね。国家予算を超えたレベルのお金だって、そりゃ本当に払えるわけだ。
魔王さんって、そんなに強大だったんですか……? 私、どうすればいいんでしょう……?
知能犯には暴力で立ち向かうのが一番よ。ぶっ飛ばしてやりましょう。そのあとで、しっかり1000億Gを回収させてもらう。
そう簡単な話でもないぞ、これは。だって魔境銀行の頭取だろ? だったら、あらゆる政治家や社会階層に食い込んでいるはずだ。
魔王さんはこの国で、健全な市民生活を送っているそうです。だから、借りたお金を返せないからっていう理由で自分を少しでも傷つけるようなことがあれば、重犯罪者になるのはお前だって言われて……。
たしかにな。
ダンジョンの奥深くに籠もって山賊まがいのことをしている相手なら、こっちも暴力で叩き潰すしかないだろう。だが社会的身分がちゃんとしている相手を、軽々しく襲うわけにもいかない。
ましてや、大銀行の頭取を街中で打ち倒すなんてできるわけがない。それじゃ私たちは暗殺者みたいなものだ。
仮に暗殺したあと永遠に雲隠れするつもりなら、おそらく追っ手からは逃げ延びられるだろう。だがその後の俺たちはもう公衆の面前に出られず、官憲に追われて暗がりで生き延びるだけの生活を余儀なくされるだろうな。
王や宰相に許可を取ればいいじゃない。アイツが魔王だって言えば、止めたりしないでしょ。
いや、そもそも王や宰相は、魔王の正体が魔境銀行の頭取だったなんて知らないんじゃないのか?
そうだよ、魔界の城に居座っていた魔王の姿を直に確認したのはアタシらだけだ。こっちが勝手に騒いだところで、王国側としては、証拠もないのに判断を下すことなどできねーだろうな。
何をノンキなこと言ってくれてんのよ。
だって魔王よ? 私たちが必死で足取りを追っていた魔王が、ようやく見つかったのよ?
アタシらは王じゃない。しょせん、魔王の封じ込めのために派遣された使いっ走りのようなものさ。
魔法使いに、俺も同意せざるを得ないな。俺たちにはそこを判断する権限はない。兵士は兵士らしく、王国の方針に従うしかないんだ。
じゃあ本当に、私たちには何も手は打てないということなんですね……。魔王さんの言っていたことは正しかったということですか……。
別に魔王の言いなりになれと言いたいわけじゃねーぞ。だが、アタシらだって無法者じゃないんだから、法律や社会の仕組みには従わざるを得ないだろうよ。
やっぱり、借りたお金は返さなくちゃ……なんですね。もちろん私が借りたわけじゃないですけど、武器屋『ドリームアームズ』がちゃんと銀行と契約を交わして背負った借金ならば、代表になってしまった以上、支払わなくてはならない義務がある……。勇者を任されている私としては、社会の決まりを反故にすることなんてできません……。
むうう……。
そういえば……いま冷静に思い返せば、魔王の王城って、見たこともないほど豪華絢爛だったわね。教皇庁の至宝と言われるリスティア大聖堂なんか目じゃないくらいのスケールだったし。
そうだな。魔界にはいささか似つかわしくない秀美な景観と、城としての防衛機能が見事にマッチした、とんでもない巨城だったのは間違いない。
魔軍が籠もったあの城を、大軍で攻めても落とせないだろうな。アタシらはゲリラ部隊みたいなものだったから、裏口から進入できただけで……。
考えれば考えるほど、魔王さんがあまりにも強すぎます……。私たちなんかが打倒できるような相手じゃなかったのかも……。
ひとまず色々悩む前に、武器屋『ドリームアームズ』と、魔境銀行の間で締結された契約書を確認させてもらえないか? まずは現状を把握しないと。
わかりました。
帳簿とか法律文とか、膨大な書類が奥の倉庫にしまわれてます。ご案内しますので、そちらに移動しましょう。
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登場人物紹介

勇者

剣技・魔力ともに秀でた有数の戦闘技術の持ち主。幼いころからその力は有名で、王国政府から懇願されて魔王討伐の旅に出た。
心優しく、単純な性格。誰に対しても丁寧で、魔王にすら謙虚な姿勢で臨む。

魔法使い

まだ年若いにもかかわらず、王国魔法協会で最高の魔力の持ち主。勇者を護衛するメンバーとして王国魔法協会から派遣され、最も早くからパーティーに参加した。ギャンブル好きで、大都市にくるとカジノに入り浸る。

僧侶

教皇庁の特殊工作員。教皇庁の思惑から勇者パーティーに派遣され、魔王軍攻略に参加している。
ゾンビ30体を同時召還し使役することができるほどの驚くべき魔法力を秘め、その実力は魔法使いを上回る。タイマン勝負でも、愛用の聖鉄製大型ジャッジガベルを振り回し、戦士を圧倒する実力をみせる。表向きは清楚な女性に見えるが、パーティー内での戦闘力は、実のところ僧侶が最も高い。

戦士

ツワモノ揃いのパーティーメンバーのなかで、唯一の庶民的能力。
苦学生で、生活費を稼ぐために、冒険者ギルドに所属して時々バイト活動をしていた。あるときダンジョンに挑む勇者パーティーにポーター(鞄持ち)として雇われる。最後に加わったメンバー。
正式には今でも冒険者バイトだが、数字や法律に強く、パーティーの知能を担っている。すでに古株になってしまっており、最後まで同行しそうな雰囲気である。

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