第12話

文字数 1,547文字

鏡をじっと見る。

どうしよう。

類が帰ってくるなんて思わなかったから、私はすっかり油断していた。

来年会えるとして6年ぶり。
6年ぶりに会う類に今の私がどう映るのか、そのことばかりを考えていた。

髪型、服装、どうしよう?
メイク…は、やりすぎ?

夏休み、完全に舞い上がっていた私の耳に、驚きの出来事が飛び込んできた。


類のおばあちゃんが、亡くなった。


思いがけず、類と会える日が早まった。
けれど、こんな形で…。


私が楽しみに思ったからだろうか。



類のおばあちゃんが亡くなったことを知った町の多くの人たちがお別れや手伝いに集まった。

お母さんといっしょに行った、おばあちゃんのおもちゃ屋さんに、類はいた。

5年ぶりに会う類は、あの時のままの美少年だった。

目が合う。

そんな場合じゃないことはわかっていても、ドキドキが加速して止まらなかった。

何て言ったらいいのかわからず、その場で声をかけることはできなかった。

おもちゃ屋さんを出ると、類が追いかけてきた。

「あすみ。来てくれてありがとう。こっちには2週間くらいいるんだけど…その間に、会える?」

「うん……うん、もちろん!」

「じゃあ、またね」


背が私よりぐんと高くなり、声が低くなっていたことを除けば、類は変わっていなかった。
それが何より嬉しかった。



類のおばあちゃんの葬儀が終わって2日たった頃、家に迎えに来た類といっしょに神社へ行った。

歩いている途中も、なんだか夢の中のような気がして、類の方をまともに見ることができずにいた。

神社の石段を上りきり、やっと類が口を開く。
「…僕、ずっと、あすみに会いたかったよ。」

私も、と言いたかったけれど、恥ずかしさで全身が硬直してしまい、うつむいてうなずくことしかできなかった。

「会いたかった。あすみに会いたすぎて、その想いが強すぎて、おばあちゃんが叶えてくれたのかなって…」

「…えっ」

類は昔のように微笑んだ。

「…私、も…会いたかったから…。だから、類のおばあちゃん、死んじゃったのかなって…」

「えっ?」

「私が類との楽しみをもつと…いつも悪いことが起きたから…。類が山で迷ったり、町から出ていくことになったり…だから、私のせいなのかなって。」

「…ふふっ…そんなこと、考えてたんだ?」

類の笑った横顔を見て、今でもやっぱり綺麗だと感じた。

「この町を出てから…父さんが休みの日には、いっしょにいろいろな土地をまわったんだ。それでも、ここほど澄んだ空気には出会えなかった。たくさんの人に出会ったけれど、あすみほど守りたいと思える人には出会えなかった。」

「え…」

守りたい?
類が、私を?
私が、類を守りたいと思っていたはずなのに。

でも、そう。

類は、確かに私を守ってくれていた。

「あすみを守りたいと思っていたから、僕はここで一人でも平気だった。守りたいものがあるって、人を強くするんだって、初めて知った。」

ああ。私の存在は、ちゃんと類の助けになっていたんだ。
ほっとして、涙がじわっと込み上げてきた。

「来年、ここに来てあすみに言うつもりだった。…いっしょに、生きていきたいって。」

「えっ!?」

「…けど、おばあちゃんが亡くなって、あの家は人手に渡るか取り壊されることになると思う。そうなったら…僕がここで暮らしていくのは難しいと思うんだ。ここに来てわかったけど…ずいぶん町は寂しくなってしまったんだね。」

「うん…類がいた頃とは全然違うよね」

「…だから、僕がここにいる理由はもう、あすみしかないんだよ。」

「え…」

「この町を、出ない?高校を出たら、いっしょに。」

「え…わ、私…」

あまりに急なことで、何て答えたらいいのかわからない。

類とはいっしょにいたい。
いっしょに、生きていけたら…。

けれど、私がここを出る理由。
それがあるとするならば。

それは、類。
類しかないのだ。








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