魔女サマの美しさときたら

文字数 1,151文字

 いつものさわやかな朝。魔女とレイモンドの暮らす家には、今日もやわらかい木漏(こも)()が降りそそいでいる。
魔女サマ~!
 本日の当番である朝食(ちょうしょく)支度(したく)を終わらせ、手持(ても)無沙汰(ぶさた)になっていた魔女の(もと)へ、外出(がいしゅつ)していたらしいレイモンドが玄関(げんかん)(いきお)いよく開け、()けよってきた。その表情(ひょうじょう)は、うれしそうに上気(じょうき)している。
! レイ! どこへ行っていたんだ? 早くしないと、朝ごはんが冷めてしまう
ごめんごめん。


……あのね、魔女サマ、これあげる! 朝一番で()んできたんだ!

 そう言ってレイモンドが差しだしたのは、一輪の赤いバラだった。

 その(くき)には、真っ白なリボンが結んである。

……! あ、ありがとう……

 とろけるように甘い香りが(ただよ)うそのバラは、ルビーのように(あざ)やかな(くれない)色が、(じつ)見事(みごと)だった。

 丁寧(ていねい)に結ばれた、(ふち)繊細(せんさい)なレースがあしらわれている純白(じゅんぱく)のリボンとの対比(たいひ)に、ただただ見とれてしまう。

えへへー、(がけ)っぷちにあったのを数日前に見つけてね、満開になった今日、ついに『()ったどぉおおー!!』してきたんだー♪


ロッククライミング中、ちょっと死ぬかと思った☆

何、朝からファイト一発しているんだ!!?


ケガをしたらどうする!!?

ふふ、魔女サマに喜んでもらうためなら、ボクにはどんな困難(こんなん)だってご褒美(ほうび)なんだ♪
 よく見ると、レイモンドの身に()けている服は、ところどころ(どろ)(よご)れ、ほつれも見られた。
(こんなにボロボロになるまで……)
……たとえ、君にとって幸せなことであったとしても。私のために危険(きけん)真似(まね)をするのはやめてくれ。……私にとっても、君はかけがえのない存在(そんざい)なんだ
魔女サマ……♡♡
ただ、このバラは素直(すなお)にうれしい……、ありがとう。


本当に……私などにもらわれてしまうにはかわいそうなほど、美しいバラだな……

は……?
 刹那(せつな)、レイモンドの表情(ひょうじょう)一変(いっぺん)する。
魔女サマの超絶(ちょうぜつ)絶対的(ぜったいてき)な美しさに比べたら、そんなバラの(うつく)()なんてウジ虫の排泄物(はいせつぶつ)レベルだから~!!!
う、うん……? レイ……??
 その後、『魔女サマがいかに(とうと)くて美しくて最の高か』というテーマでレイモンドが()りひろげたスピーチは5時間にも(およ)び、当然ながら朝食は、食材がかわいそうになるほどに冷えきってしまったという。
☆☆おわり☆☆
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登場人物紹介

魔女


 魔族と人間の間に生まれた女性。生まれつきその目に宿る強大な魔力を恐れられ、人間たちに迫害され、左目を失った。今は森の奥深くでひっそりと暮らしている。


 性格はちょっと天然だが、心があたたかい気遣い屋さん。

 読書がとてもすきで、むずかしい本ばかり読んでいる影響からか、口調は堅い。


 言葉も知らず森でさまよっていた幼い人間の子ども・レイモンドを放っておけず、拾って育てることにした。


 そして十年後、大人になったレイモンドが積極的にアプローチしてくるようになったが、魔女本人は恋愛にうとすぎるため、よくわからないまま、ぽえぽえっと同居を続けている。

レイモンド(養い子)


 十年前に森で魔女に拾われ、知識に恵まれた環境で育った人間の青年。愛称は“レイ”。一見クールで神秘的な容姿のイケメンだが、実際は魔女が愛しくて愛しくてたまらない情熱家で、よく暴走する。


 魔女に対しては人懐っこいわんこのような甘えん坊だが、その他の存在には基本的に無関心で、当たりさわりのない対応をすることが多い。ただ、近所の猫には気を許しているのか、彼の前では、本音である魔女へのヤンデレ要素たっぷりな発言を、引くほど口にしている。

近所の猫


 魔女とレイモンドが暮らす家の近所に住んでいる猫の獣人。結構な遊び人で、さわやかなクズとして辺りでは有名。


 獣耳だのしっぽだのいろいろなオプションがついているので、クズ発言をした際はそれらを、レイモンドによくひきちぎられそうになっている(『いやー、オレ、そーゆーときは脱兎もビックリの逃走能力があるから、レイに命ごと狩られそうになっても、改心する気とかまったくないんだよねー』 by 猫)。

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