第6話 残念美少女、シカを獲る

文字数 1,565文字

 おじさんたち四人と一緒に、私とヌンチは町はずれの森の中に来ている。
 森のかなり深くまで入った所だ。
 ここに来るまでに、小型の魔獣を何匹か見た。
 その度にヌンチに魔獣の名前を確認した。
 ウサギやタヌキに似た、比較的おとなしい魔獣ばかりだった。

 おじさんたちの歩みが遅くなる。
 先頭のおじさんが、木についた傷を調べている。

「でかいのがいるな。
 角も大きいぞ」

 おじさんから、木についた傷の読み取り方を教えてもらった。
 最初はめんどくさそうだったおじさんも、私が質問するうち、真剣に答えてくれるようになった。

「しっ」

 先頭を行くおじさんが手で合図する。
 私たちは頭を低くした。
 おじさんの指さした方を見ると、二頭のシカが角をぶつけあっている。
 シカの体は日本のものと同じくらいだが、まっ直ぐ伸びたその角は、長さが五十センチほどありそうだった。
 ギリシャ神話の挿絵で見た、ユニコーンを思いだした。

 おじさんたちが、音を立てないよう動きだす。
 背中に大きな盾を背負っていたおじさんが、それを構え前に出る。
 その後ろに剣を持ったおじさんが二人、一番後ろは短い木の棒を持ったおじさんだ。

「よし、いいぞ」

 グラントさんの合図で、木の棒を持ったおじさんが呪文を唱え始める。
 木の棒から少し離れた所に、にぎり拳くらいある水の玉ができる。
 おじさんが棒を振ると、水玉が勢いよく飛んでいった。
 ヌンチから聞いてたけど、本物の魔術だ!
 すげーっ!

 水玉は、一頭の角ジカに命中した。
 体勢を崩した角ジカが、もう一方の角に刺された。 
 
 ケーンっ

 そんな鳴き声を上げ、角ジカが倒れる。
 刺した角ジカが、こちらに向かってきた。
 角が盾にぶつかり、カーンという音がした。 
 
 木の棒を持ったおじさんが、再び呪文を唱える。
 それを振ると、剣を持ったグラントさんの体が一瞬白く光った。
 グラントさんは一歩前に出ると、剣を振りおろした。
 角ジカの首が深く切り裂かれる。

 ケーン

 一声鳴いたシカがグラントさんに角を向けるが、彼はすでに盾を構えたおじさんの後ろに下がっている。
 剣を持ったもう一人のおじさんが、シカの背後からその後ろ脚に切りつけた。

 ケーン

 シカは声を上げるが、まだ倒れない。
 しかし、盾のおじさんが、その盾をシカに強くぶつけた。

 ゴーン

 盾がそんな音を立てると、シカが倒れる。
 グラントさんが剣先でシカを突くと、その動きが停まった。

「よっし!」

 四人が手をぶつけ合う。
 さすがに銀ランクだけあるわね。連携がとれたいい動きだった。
 おじさんたちは、みんな笑顔だ。

 グルルルルっ

 何かの唸り声が聞こえると、彼らの笑顔が凍りついた。
 木立から出てきたのは、体長がニメートルほどある虎のような魔獣だった。

 ◇

「フォ、フォレストタイガー……」

 おじさんの一人が言葉を漏らす。
 横でドサリという音がしたのは、ヌンチが腰を抜かしたようだ。
 彼から聞いた情報では、フォレストタイガーは金ランクの魔獣のはずだ。
   
 そいつは、ゆっくり近づいてくると一声咆えた。

 グゥオゥっ

 盾と一緒に、それを構えていたおじさんが後ろに倒れる。他の三人も地面に腰を落としてしまった。
 虎はまるで怖がりもせず近づいてくると、グラントさんの目の前で口を大きく開け、もう一度咆えた。

 グゥオゥっ

 グラントさんが、ぱたりと後ろに倒れる。
 気を失ったようだ。

 虎はゆっくりこちらに近づいてくる。

――――――――――――――――
ツブテ「カニの次はシカかいっ!」
作者「そんなことより、命の心配しようよ」
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