第28話 突っ走ったらロクな結果を残さない
文字数 7,922文字
泣きそうな顔をし、その上ボロボロになり帰宅した凛さんの姿を見て、あたしと伴はすぐさま傍に駆け寄った。
手まで隠れそうな程長い袖のぶかぶかの白いパーカーは泥で汚れ、愛らしい凛さんの頬にはかすり傷が出来ていた…
あの凛さんにここまでのダメージを負わせるとは…!!ストーカーめ…中々手強いな…!
しかしあたしは男よりも逞しく、一人で生きて行けるだろうと男子達から太鼓判を押されリスペクトまでされた女…。変態ストーカー如きにビビッて泣き出すか弱い乙女では無い!!
ふふ…このあたしを怒らせたからには覚悟するが良いわ!変態!!見つけ次第ボッコボコにして千石さんに突き出してやるんだから!!
「ってお前全部口に出てんぞ…怖すぎだろ!!」
「おっと…いけないあたしったら…。つい溢れ出る逞しさと漲る闘志が出てしまったわ…」
「抑えろよ!!お前はちょっと抑える努力して!頼むから!!」
「…それはちょっとなぁ…孫悟空の輪っか的なもんが無いと…」
「そんなレベルまで…恐ろしい女だぜ…」
「死にたい奴から掛かって来な…って何言わせんのよ!!」
「目がマジだったぞ…」
ついつい伴に乗せられてしまったが…
いかんいかん…女の子がこんな発言しちゃ駄目だ。凛さんに怒られちゃう。
「もう!!今漫才やってる場合じゃないでしょ!!」
『すみませんでした!!』
と、やっぱり凛さんに怒られたあたしと伴…
当然即謝った…
そうだ、今はこんな事している場合じゃなかった。凛さんにもついに本格的に身の危険が!!早く犯人を追っかけてぶっ飛ばし…いや、注意しなくては!!
「という事で!あたしちょっと犯人をぶっ飛ばし…いや、捕まえに行ってきます!!」
「ちょっと待て!!それ駄目!!」
「そうだよ!!つーちゃんに何かあったらどうするの!?」
せっかく人が意気込んでいたと言うのに…。伴と凛さんは二人してあたしの腕を押さえ、慌てて椅子に座らせたのだった。
もう…心配性だなぁ…
「蕾…お前なぁ…。何でもドロップキックで解決出来ると思ってない?いいか?紫乃さんも言ってただろ?『暴力では何も解決しないよ』ってさ…」
と、何故か改まって言い聞かせる伴…
あたしの肩を叩き、深いため息までついて…
「…でもあんた池に落ちて改心したし…」
「落とされたんだよ!ってそれはもう良いの!!」
「はぁ!?落ちたんでしょ!?勝手に!!」
「お前にドロップキックされなけりゃ落ちなかったよ!!」
「ちょっと…落ちた落ちた連呼しないでよ!?あたし受験生なんだからね!!」
「いや、初めに言ったのお前だから…!ってそれも今は良いんだよ!!お前がどうしても今犯人をぶっ飛ばし…いや、捕まえに行くって言うならこっちにも考えがある…。」
「な、何よ?」
あたしの肩をがっしり掴んだまま、伴は真面目な顔をして真っすぐあたしの目を見た…
そして一言……
「紫乃さんに言う。」
「そりゃ勘弁してくれませんかねぇ…旦那…」
「……お前、何だかんだ言って紫乃さん怖いんだろ?」
「そりゃ怖いよ!あの人あんな爽やか好青年のにこやかイケメンの癖に怒ると本当……いや、いい!思い出したくない!!」
「…い、一体お前何したんだよ?あの人を本気で怒らすってよっぽどの事じゃ…」
「ちょっとオイタしたら……てへっ♪」
「ブリッコやめろ!……ちょ、ちょっと可愛いけども!!何か腹立つ!!無性に殴りたくなる!!」
「…え~?凛さんてへっしてみて下さい!!」
「なんで急に凛さんなんだよ!?けどお願いします!!」
あたしは話をどっかに反らす為、とりあえず適当な話題を凛さんにそのまま投げた。
結果…凛さんは…
「な、何言ってんの?俺の今の状況分かってる!?」
『す、すみません…』
あ…やっぱり怒った……
頬を膨らませ怒りを露わに腰に手を当て、あたし達を見る凛さん…
やっぱり可愛い以外の言葉が出て来なかった…
「なぁ~んてね…てへっ♪」
そしてそこからのこのラブリーポーズ…!!
舌をペロッと出し、頬に人差し指を当て首を傾げ…ちょっと肩をすくめる仕草がまたなんともラブリーだ。
ああ…これで二十の成人男性だなんて……
あたしと伴はその可愛さに暫し悶絶した。
勿論、こっそりと……
「も~!!二人とも真面目に聞いてよ!!つーちゃん、今度突っ走ったら本当に紫乃ちゃんに言っちゃうからね?」
「は、はい…それは勘弁してください…」
ひとまず落ち着き一同リビングのソファーに…
凛さんは人差し指を立て、あたしの前に突き付け頬を膨らませそんな恐ろしい脅し言葉を言い放った。
勘弁してよ…本当……。
こんな事話してたら本当にご本人登場しそうじゃん…!!
「…でも凛さん、一体何があったんですか?」
「凛さん強いんだろ?それなのにその有様って…相当の手練れってことっすか?」
「あたしの敵では無いけどね!!」
「威張るな黙れよ。」
「つーちゃんしっ!」
え…え~……??
なんでいきなり怒られてんのあたし?しかも凛さんまで…。
しって…可愛いけど…
何か紫乃さんが懐かしいなぁ…
あ、でもこの場合同じ対応されるのか?やっぱり。
「ここ最近、特に何もなかったから俺も油断しちゃってたんだけど…」
話は反れたが…今度こそ本題に…
何があったのか凛さんが語り始めた。真面目な顔をして。
「俺、最近つーちゃん家にいるじゃん?だからストーカーも諦めたのかと思ってたんだけど…」
「…確かに、ここ最近凛さん平和そうでしたよね。よく眠れるとも言ってたし…」
「うん!そうなんだよね!!でもさ…忘れた頃に何とやらって言うでしょ?まさにそうだったわけ!!」
どうやら凛さん、ここ最近ピタリと収まっていたストーカー行為の数々…それに安心しきって油断していたらこうなってしまったらしい。
確かに、警戒体制の彼がこんなかすり傷を負うなんてヘマはしない。凛さんの中身は男前なのだから。
「いきなり後ろから抱きつかれて…俺も抵抗しようとして肘打ちしたら交わされちゃってさ!でも何とか逃げようとしてもがいてたら…」
『もがいてたら…??』
「足踏み外して段差からゴロゴロって…落ちちゃったの!それで犯人は慌てて逃走して、俺は無事だったって訳。」
「落ちちゃったって…凛さん…」
「一体どっから落ちたんすか?かすり傷で済んだのは良かったけど…」
襲われかけてピンチだったと言うのにこの笑顔って…
「…う~ん…どこだっけ…?ああ、河原の土手から!こう、ゴロゴロって!!びっくりしたぁ~!!」
『こっちもびっくりだよ!!』
「あはは!俺が変態なんかに襲われて擦り傷なんて作る訳ないじゃん!!」
た、確かにそうなんですけども…!!
そうか…でも…犯人は凛さんを襲った拍子にまさかの攻撃を受け…それを交わしたのは良いが、バランスを崩して凛さんごと土手からゴロゴロ転がったって訳か。
凛さんのかすり傷と服の汚れはそのせい…か…
なんなんだ…もう!!ちょっと本気で心配して損したよ!!
伴の方を見たら、どうやら彼もあたしと同じことを思ったらしい。『なんだよもう…!!』と言いたそうな顔をしてため息を吐いていた。
ああ…本当人騒がせなんだから…!!
「…ん?でも凛さん泣きそうになってませんでした?」
「そ、それは…ちょっとびっくりしちゃったから…!!それにこのパーカー下ろし立てで…汚れちゃってショックだったし…」
「はぁ……」
「服が汚れて落ち込んでたんすかぁ?気持ちは分からなくもないけど…」
万年オフ時ジャージのあんたが何を言う?
今もまたジャージ姿に近い、緩すぎるオフ恰好の伴を見ながらあたしは心の中でのみ突っ込んだ。
しかし…早く解決しないと…
いつまでも宮園家で凛さんを預かっている訳にもいかないし…母は大歓迎だろうが、このまま
それに何より…やはり心配なのは凛さん自身だ。油断していたとは言え犯人は後ろから急に抱き付いてくるような変態なのだ…
しかも凛さんの使用済みのブリーフまで盗む様な…。
ああ…!!な、何か想像したら気持ち悪くて寒気がして来た…
「一応、千石さんに連絡します?」
「え?正ちゃんに?何か嫌なんだけど…」
「ま、まぁ…あの人も一応警部さんですから…ゆるふわでも刑事ですし…」
「仕方ないなぁ…正ちゃん関わると面倒臭いんだよねぇ…」
凛さん…そんな露骨に嫌そうな顔しなくても…
確かに千石さんはゆるふわでうざいけどさ……
「あ!じゃあ代わりに紫乃ちゃん呼ぼう?」
「何故に紫乃さんが…?」
「だって紫乃ちゃんの方が頼りになるもん!優しいし、ちゃんと俺の話聞いてくれるし!」
「…千石さんだって真面目モードになればちゃんと話聞いてくれますって…多分…」
あれ?凛さん…もしや千石さんの事嫌いなんじゃ…
誤解しないで欲しい。千石さんは星花町民からの人望が薄い訳では無い事を。ちゃんと近所の方々に頼られる警部さんだ。ゆるふわだけど。
ただ、凛さんは…紫乃さんに懐いている節がある。珠惠もそうだ。というか金木犀の人間が紫乃さん贔屓なのだ。聡一郎さんを覗いてだが。
「じゃあ俺連絡するよ!」
「…その前に何か察して来たりして…」
「あはは!何それ紫乃ちゃん凄すぎ~!!」
だって本当にそんな人だから……
あたしの真実の言葉を笑顔で笑い飛ばし、凛さんはパーカーのポケットからスマホを取り出そうとした…
が……。ポケットに手を入れたポーズのまま固まった…
「スマホ…落としちゃったんですね?」
「う、うん…ど、どうしよう!!もしあのストーカーに拾われたりしたら!!」
「じゃああたしちょっと見て来ますから…」
「それは駄目!!つーちゃんがうっかり襲われちゃったらどうするの!?」
と、当然止める凛さん…
しかしこんな可愛い顔でそう言われても、迫力ないなぁ…
「…じゃあ俺が行きますよ。男じゃそんな襲っても来ないだろうし…」
「それはもっと駄目!!」
と…これは凛さんでは無くあたしの台詞。
冗談じゃない…こいつはオーラ無しのジャージ男でも本業はアイドル様なのだ。もし何かあって、傷物にでもなったら…色々な人に申し訳ない。
黒沢さんだってきっと無理して伴がここへ来ることを黙認しているんだろうし…九条さんだってそうだ…
それを『事件に巻き込んで怪我させちゃいました!てへっ♪』なんて言った日には…本当…。考えただけで恐ろしい。
「何?お前俺の事そんなに心配して…」
「当たり前だ!!あんたね…ちょっと…あ!凛さん、お風呂どうぞ?服も汚れて大変だったでしょ?」
伴の腕を掴み、つい大声で『あんたアイドルって言う自覚あるのか!?』と言いそうになるのを堪え…凛さんを半分強制的に入浴させた。
危ない危ない……あたしとしたことがついうっかり…
「…ちょっとこっち来なさい。」
「え?俺何か怒られる感じ?」
「そんな感じです…」
あたしは伴を引っ張り、とりあえず誰にも話を聞かれない部屋…今は物置化しているピアノの練習部屋へと連れて行った。
この部屋はピアノ、歌嫌いになったあたしの思い出の練習場所…つまり中学時代までの青春が詰まった場所でもあり、同じくらい苦く嫌な思い出も詰まった場所でもある。
パタン…
部屋に伴を押し込み、静かにドアを閉める…
「…こんな所まで連れて来て…お前…さては…」
「何勘違いしてんのよ…あんたは馬鹿か?」
おふざけモード全開の伴を冷静な態度で制すると、あたしは部屋の電気を付け、腰に手を当てる…
真正面から伴を見据えて…大きく息を吸い込む…
「…あんた本当どこまで馬鹿なの!!アイドルだって自覚ある訳!?」
この部屋は防音効果がある…。音漏れの心配はない。
「…協力は有り難いけど…あんたに何かあったらどうすんのよ!?」
「…え?あ、ああ…そっか…俺アイドルだっけ…?」
「本人が忘れんな馬鹿!!本当あんた…馬鹿!!」
「…ご、ごめん…けど俺も何かお役に立てるかと……」
「アイドル様は黙って見てなさい!!代わりにあたしが頑張るから!!」
「それはそれで俺心配なんだけど…」
「あたしは大丈夫よ…見ての通り逞しくて強いから。」
「うん、知ってる。」
「なら黙って見てなさいって言ってるの!!」
「いや…だってそしたらさぁ…俺…」
「なに?」
「…俺だけ除け者みたいで嫌だもん!!」
「だもんじゃないわよ…こらこら、隅っこでいじけない!!戻っておいで!!」
あ~…面倒臭いアイドル様だ…!!
あんな隅っこで体育座りなんかしちゃって…
いとうざし…!!ってなんか古語用語出て来ちゃったよ!!
……よし。放置しよう。そうしよう。
「…分かったらちょっと大人しくしてなさい。」
「え~!!」
「え~じゃない!飴ちゃんあげるから!みかん飴!!」
「…仕方ねーな…」
良かった…。こんなことがあろうと、紫乃さんからみかん飴を貰っておいて。
とある日に紫乃さんに『きっと君の役に立つ日が来る』と素敵スマイルで渡されたまま、ポケットに入れっぱなしだった奴だけど。
「…じゃあ、あたしはちょっと行ってくるから。大人しくお留守番してるのよ?」
「行くって…何処へ?」
「凛さんのスマホ回収しに決まってるでしょ?今行かなくていつ行くのよ?」
「今でしょ…っじゃねーよ!!それちょっと古いからな!!」
「相変わらずノリが良いなぁ…」
「関心すんな!!」
あたしの期待通りの返しをしてくれた…さすが有沢伴…
ノリの良いアイドル…!!恐るべし!!
「…じゃあ、そう言う事で…凛さんには内緒だぞ?」
「『内緒だぞ』じゃねーよ!!なんでそこだけブリッコした!?」
「男子の憧れはタッ〇のみ〇みちゃんだって…」
「いつの話だよ!?」
「え!?違うの!?紫乃さんも聡一郎さんも深く頷いてたのに!?」
「マジで!?…ってもうそれいいよ!気になるけど!!」
「…ちなみあたしの憧れは演歌界のドン事藤岡…」
「新ちゃんもどうでも良いんだよ!!」
「新様を馬鹿にするな!!制裁キック!!」
「ごふっ…」
ふぅ…やってやった……
あたしの新様を馬鹿にするからこうなるのよ…
制裁キックをまともに顎に食らった伴は、その後本当に大人しくなったと言う…
心なしかちょっとだけ気絶したように眠っていたけど…ま、気のせいだよね?気のせい。
「…さてと…行くか…」
煩く騒ぐ奴が大人しく寝てくれたところで…
あたしはそっと伴に毛布を掛け、ついでにうさぎのぬいぐるみ(キャプテンバニーのジャック)を添え写メを撮ってその部屋を出た。
よし…なんか満足…。スッキリした。
外はやはり冷えていた…
九月は秋…夏と比べれば当然気温も下がり、少しだけ肌寒い。
凛さんがゴロゴロ転がった土手は……
「…ここね…あ、何か転がった後がうっすらと…」
懐中電灯で照らしだしたその土手の一部だけ、生えている草が僅かに乱れている…
えっと…こっから転がったとしたら…
スマホが落ちているのは…やっぱり河原付近か…?
「…何かこうしてると…ちょっと探偵になった気分になるな…」
ただ凛さんの落とし物を探しているだけなんだけど…
ちょっと気分が上がって来たあたしは、調子に乗り探偵が良くやる『考えるポーズ』を取ってみた。実際には何も考えていない。
「…さてと、雰囲気出たところで…この辺りかな?」
土手を降り、砂利の河原付近を捜索する…
ちょっと前まではここで花火を楽しむはた迷惑な浮かれた若者達の姿もあったが、さすがに今はもう誰もいない。
「…そう言えば…水辺って何か出るのよね…」
嫌な事を思い出してしまった…
あれはそう…夏休みの出来事。久しぶりに如月邸へお泊りをした時(別名、受験勉強合宿とも言う)だ…
『夏の夜をより一層楽しめる様に、お兄さんとっておきのお話しを用意してあげたよ!』
と…紫乃さんがそれはもう楽しそうに嬉しそうに言いやがったのだ。そして妹もそれに乗っかり嬉々として語り始めた。
それが…水辺に関する事が多く…。あたしはその夜、一人で風呂にも入れなかったし、トイレにも行けなかった。終始緋乃に付き添ってもらい、終いには紫乃さんに『ただのお話しだから』と宥められた。
「…さっさと探して戻ろう!」
不良、ストーカーは別に怖くはない…。けどお化けは怖い。宮園蕾十七歳。不良は平気だがお化けは怖い年頃なのだ。
「…あ!見つけた!!」
凛さんのスマホ…それは河原の近くで発見された。
川ギリギリ…流されなく良かった…
「ふ~…とりあえずストーカーにお持ち帰りされなくて良かった。よいしょっと…」
安堵し、河原の近くまで歩いて行くとそれを拾い上げる…
あたしもこの時ばかりは油断していたのかもしれない…
それとも…探すのに夢中になって周りの気配に全く気付かなかったのかもしれない…
---ザッ…
立ち上がった瞬間、背後に感じる人の気配。
当然あたしは振り返ろうとしたのだが……
振り返ったその直後…何かが煌く…
「…きゃっ!?な、何!?」
それはあたしの目を目がけて振り下ろされたが、寸でで交わし思わず乙女っぽい悲鳴を短く上げていた。
はぁ…反射神経は良いんだよな、あたし…
「って感心してる場合か!?」
「…ふーふー…り、凛たんの携帯…返せ…」
な、何こいつ……?
自分にツッコミを入れ、体制を立て直し振り返ると…そこには絵に描いたようなオタクっぽい男性が一人…鼻息荒くあたしの前に立ち尽くしていた。
声もくぐもった様な………
申し訳ないがはっきり言おう…キモイ!!
「返せよぉ~…り、凛たんの…」
「え!?だ、駄目だってば!!お兄さん!!」
あたしは殴るより先にツッコミを入れた。性分だから仕方ない。
そのオタクなお兄さんは、取り憑かれた様にあたし…では無く、あたしの右手に握られている凛さんのスマホを見つめ、目を血走らせていた。
ひぃ~…!!な、何か怖いんですけど!!色んな意味で!!
バシャッ…
「わっ…と…」
相手の迫力に押され、思わず後ずさる…その後ろが川である事をすっかり忘れて。
つ、冷たい…しかもクロックスだから水染みてるし!!
懐中電灯で照らすと、オタク男(もうこれでいいや!!)の右手には果物ナイフが握られている…
な、何こいつ…あたしを殺すつもり!?
い、いやぁ~!!宮園蕾!崖っぷち受験生の上、今まさに生命の危機!?