第1話 桜は激怒した

文字数 989文字

わたしは激怒した

 学校の帰り道。

 唐突に桜が吐き出した。長い黒髪の毛先は内側に軽くカールされており、自然な感じでオシャレを演出している。

わー……。

激怒したなんて台詞、メロス以外で初めて聞いたかも

 隣を歩くのは友人のエレナ。

 明るめの髪色だからか、肩に触れるほどの長さでありながらも可愛らしい。

馬鹿にしないでよ、エレナ!

わたしは本当に怒ってんだから!

えー、そなの? 

じゃぁ、何処の暴君に?

絶対馬鹿にしてるしー

あー、ごめん。

で、何処の江本さんに怒ってるの?

そりゃ尻みたいな胸を付けて、男子としか仲良くしようとしない――
桜ちゃん。えもは私の友達でもあるんだけど?
エレナ唯一の欠点ね

あー……うん。

面倒くさいから先進めて

 かれこれ十年来の付き合い。

 高校生になった今ですら、二人の関係は変わらなかった。

 相変わらず桜はエレナにべったりで、絶対の信頼を置いているようだった。

あいつ、わたしを差し置いてお兄ちゃんの部屋に出入りしてやがるの
……

えーと。

確か桜ちゃんの義理のお兄さんが、えもの本当のお兄さんなんだっけ?

わたしだって本当だもん!

ってかズルくない? わたしは部屋に入れて貰えないのに!

 これだけ喧しければ当然だろう、と道行く人たちは思ったが誰も口にはしない。
血縁と義理の差だね。それにお兄さんが高校生の頃から一人暮らしさせられたのって、桜ちゃんに悪戯したのが理由でしょ?
あれは一人暮らしがしたかったお兄ちゃんの策略だったの。幼気なわたしをお菓子で釣って、疑われるようなこと言わせただけだもん!

桜ちゃんって、本当に馬鹿だったんだね

当時のわたしは八歳だったんだよ? お菓子とか超好きじゃん

あっ、ごめん。そっか昔だよね。

なんか、勝手に最近だと思い込んでいた。というか、今でも引っかかりそう……

わたしだってそこまで馬鹿じゃないもん!
あー、うん。そこまで、ね

もうっ、腹が立つ。ねぇ、エレナ。

悪いんだけど、今から江本を呼び出してくんない? 

がつんと言ってやらないと気が済まなくなっちゃった

……
別にいいけど?

えっ、ほんと? 

今日、彼氏とデートとか言ってなかった?

そうだけど、まだ時間あるから
 そう言って、エレナはスマホを弄り出す。

ありがとう。エレナはほんと優しいな~

会ったことないけど、彼氏さんは幸せ者だよ

……
なんか、えもも桜ちゃんに言いたいことがあるからすぐ来るってさ
上等。返り討ちにしてやんよ!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

メロスの如く激怒している義妹、桜。

高校生で発育不良。たぶん馬鹿。

蔑称は鶏ガラ鳥頭。

幼い頃、お菓子に釣られて義兄に悪戯されたと嘘を吐いた経験あり。

義憤に燃えている妹、えも。

高校生で発育良好。たぶん良いコ。

蔑称は尻軽尻乳女。

桜の所為で兄が孤立したと思い、それを許せないでいる。

共通の友人、エレナ。

高校生で彼氏持ち。たぶん性悪。

デートを控えていながらも二人を引き合わせ、その現場に立ち会う。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色