この物語があなたを包みこめますようにーーギブス

文字数 2,139文字

 ノベルデイズ第2作目の「ギブス」がこの度最終話となりました。
 …ということは? そうなのです、無職はついに就職する運びとなりました。皆さま、ありがとうございます!

 思えばコロナが始まり留学が2年からたった半年になり、卒業式にすら出ることは叶わず、しかも在学中に就職していた企業(海外の企業)から解雇を食らい、もう人生どん底の頃。そんな時にギブスを始めました。実生活で居場所を無くしたわたしは偽名を使って書き始めたこのエッセイ。拙い箇所も多々ありますが、皆さんの言葉に励まされて「楽しい!」っていう気持ちで約1か月間ずっと続けられました。面白い事が書けていたかどうかはわかりませんが、「楽しんで書いてんな、こいつ」ってことはにじみ出ていたんじゃないでしょうか。

「何でギブス?」
 そう、骨折したわけでもないのにこの謎のタイトル。これはあるすごい作品から拝借した名前でした。椎名林檎の「ギブス」からとった名前なのです。


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 初めて聞いた時、なんでこんなに切実で、鬼気迫ってきて、胸を苦しくさせる歌なんだろうと思った。息ができなくなるような、そんなメロディなのだ。
 
 そこで歌詞を見たら耳で聞いた印象と全く違うことに気づいた。

 ♪あなたはすぐにいじけて見せたがる
  あたしは何時も其れを喜ぶの
  だってカートみたいだから あたしがコートニーじゃない
  
  Don't U θink?  i 罠 B wiθ U

 ラブラブなカップルの曲だ。しかもあなたをカート、あたしをコートニーって言っていて、カートはニルヴァーナのボーカル兼ギタリストのカート・コバーンを、コートニーはその彼女であるコートニー・ラブのことを指している。なんとなくサブカルっぽいカップルなのかな。
 この歌詞に出てくる「あたし」は猫のようで、ちょっと天邪鬼みたいな独特の感性持ってて、とっても可愛らしい。またいじけて見せる男性もたいそう可愛い。

 Don't U θink?  i 罠 B wiθ U =Don't you think?  I wanna be with you(そう思わない? あたしはあなたと一緒にいたいの)
 独特の歌詞の書き方。いいよなあ、こういうの。林檎嬢ってことがにじみ出る言葉遣い。

 ♪傍に来て
 もっと もっと もっと
 昨日のことは忘れちゃおう
 そしてぎゅっとしててね
 ぎゅっとしててね ダーリン

 また四月が来たよ
 同じ日のことを思い出して

 「傍に来て~」からはサビで、こんなにも甘くてメンヘラっぽい歌詞が狂おしい。そして、この「四月」が何を指すのか。メロディからすると出会ったというより、お別れしたような気がしてならない。ここにこの歌の歌詞の中では唯一寂しさを感じさせる。

 そして、この曲の最後はギターの音が点滅するような音が入る。それがバイタルサインモニターから出される音のような、通信が切れた音のように聞こえ、どことなく“終わり”を予感させる。そしてこの歌はどこかへ吸い込まれるように終わる。

 歌詞が明るくて、メロディがちょっと寂しげなせいか、いつの自分の気持ちにも寄り添ってくれる。耳の空洞に林檎嬢の歌声が入る度にじんわりして切なくなる。

 さてこの歌の最大の疑問。「なんでギブス」なのか? これは長年この曲を愛する人たちも疑問になっていた話で、なぜかと言えば、歌詞のどこにもギブスや骨折のようなことは書いていないからだ。恋人たちの歌につけられた歌が「ギブス」。だからこの歌を愛する人たちは自分たちでこのギブスの意味を解釈していた。それがこの歌の魅力の一つとなっていた。

 そう、今回わたしが書いたギブスも初めに意味を書かなかったのは、この林檎嬢の“ギブス”にあやかったから。そして、この題名にして、色んな物語の感想を書いていくうちに気づいた。あ、わたしって心を複雑骨折したけど、いつの時も変わらずに物語は寄り添ってくれてるんだって。
 仕事をすると、人の態度が移ろうことは普通のことだ。同級生だって、その人の状態によって態度を変える人はいる。けれど、物語は変わらずにわたしに接してくれる。

 そしてここ。誰かに文章を読んでもらうことがこんなにもうれしいことだなんて思わなかった。もっと早く出会いたかった。

「どこ行っても地獄じゃない?」
 実は就活決まった後もその会社でいいか迷っていた。その時、母親に言われた一言。それで逆に吹っ切れた。確かにどこへ行っても、どこで仕事してもたぶん地獄だ。でもわたしにはここがあるし、何が起こってもネタになる。いいや、ネタにする。タダでは起き上がらないぞ。

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 ギブスは終わりますが、今後もエッセイを続けていくつもりです。新しい仕事には9月から就く予定で、どういうリズムで更新していけるかわかりませんが、更新していなかったら読み専に徹する予定です。
 
 暑い上に、雨も続く残暑ですが、どうぞお体に気を付けてお過ごしください。
 それでは、読んでくださいまして、ありがとうございました! あなた様にとってこの文章が少しでもギブスのように包み込めますことを願いまして。一宮けいでした。
 




 
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