今井 奈々《いまい なな》 二

文字数 866文字

「奈々って、可愛いよね」
 …ん⁉︎ さおりん! その可愛いは、一体全体どういう意味だ⁉︎
 二人、夕暮れに照らされた路地を歩いていると、さおりんがとんでもないことを言い出した!
 お、女の子に、か、可愛いなんて言うってことは、そ、それは、つまり、さおりんは私に好意を持っていて、そ、そしてそれはつまりこのまま二人は手を繋いで夕暮れの公園で二人きりになって一気にさおりんの唇を奪ってシャツの中に手を入れてさおりんの柔肌(やわはだ)をそっと触ってそのお胸をこの手で優しく包んでついにはスカートの中に手をぉぉぉぉっ‼︎
「おーい、奈々?」
 …はっ!
「お、おす」
 さおりんが不思議なものでも見るように、私の顔を覗き込んでいた。
「おすじゃないよ。なに宙を見ながら、はあはあ言ってんの。怪しい人じゃん」
「そんなんなってた?」
「うん。そんなんなってた」
 夕暮れ。空が茜色に染まる。さおりんの顔を、夕陽が鮮やかに照らし出していた。
 可愛い。素直にそう思った。
 足が無意識に止まっていた。
「ねえ、さおりん」
 私が呼びかけると、さおりんは振り向いて首を傾げた。
「なに、どうしたの? おーい?」
 さおりんが手を振ってくる。
 ぎゅっと、拳を握る。なんだか、変な汗が出てきた。
「私、さおりんが好きだよ」
 言ってしまった。わかっている。言えば、何かが壊れてしまうだろうって。さおりんの表情が崩れて、まるで化け物(モンスター)を見るみたいに私を見る。そんな未来が映った。
「私もだよー。だって奈々は一番の

だもん」
 夕陽を背に、さおりんが笑う。愛しくて、抱きしめたくて、このまま、時間が停まって、さおりんと二人だけの世界になればいいのに。
「…そっか、

だもんね」
「そうだよー、当たり前じゃん。…あれ、奈々、泣いてる?」
 手で目をこする。
「ゴミが…入った」
 違う。ゴミなんか、入ってない。
「え〜、このタイミングでー?」
 さおりんが、くすくすと笑う。
 ダメだ。この笑顔。失いたくない。
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