第2話(10)

エピソード文字数 2,862文字

 チーン。どこからか、こんな音が聞こえてきました。

「『チェンジ・マナ』の気配が、平凡な人間先生に移ったきにゃぁ。レッドデス族先生は――きっと他の種族先生も、強奪しようとしゆうがよ」
「ぁ、ぁぁ……。ぁぁぁ……っ」
「だからワシはレミア先生の母親先生に、えーと……。えーと…………。『あの子は良い子だけど色々迷惑をかけそうだから、もしそうなってたらやんわり連れ戻して欲しいの』って頼まれてるけど、ここで撃退せんといかんがよね」
「………………僕、理解しました……。速攻こっちをロックオンしてたのは、そーゆーことだったのね」

 ザコだから、ではない。俺が目当てだったんだ。
 よく考えたら英雄は別格なんで、独りになっても狙いませんよねー………………。

「……レミア、貴様……っ。なんてことをしてくれたんだよ……!」

 契約解除ができるようになったら、解除する意味がなくなった。もしかしたらボクだけ別の世界に飛ばされて襲われる場合があるかもなので、むしろ解除をしてはいけなくなってしまった。
 もーやだぁ……っ。

「ご、ごめんなさい……。お詫びを、したくて…………ぐすっ……」
「ま、まー、そっちに悪意はないもんねっ。も、もういいよ」

 俺は魔王の頭を撫で、背中をサスサスする。
 目の前で泣かれちゃうと、それ以上は追及できない。わたくし、こういう涙に弱いんだよ。

「ぇぅ……っ。せめても、おわびに、ねっ……。ぜったいぜったい……ゆーせー、くん、を、まもりますっ……。しんぱい、しない、でね……っ」
「暫く返り討ちにしよったら、敵先生は無理だと思って手を引くはずぜよ。念のためワシも滞在するようにしたき、安心してやっ」
「おっ、英雄2人態勢は心強い! とは、言い切れないんだよなぁ」

 この人達は、基本的に阿呆。いつか何かしらヘマをしそう。

「俺は防御力が低くて、一発でも攻撃が当たればアウトだ。確実に護ってくださいよ?」
「そういえば師匠は地球人先生やき、打撃や魔法魔術に耐性がないがやね。……それなら、これをあげるぜよ」

 フュルは、金色の飴玉を差し出してきた。
 ぁ。これ、なんか見覚えある。

「……ねえ。それは?」
「勇者の究極奥義、『金硬防壁(きんこうぼうへき)』。これは体表を膜のように覆うシールドを作れる力先生で、このバリアーはワシの能力の中で最も頑丈ながよ」
「へぇ。ちなみにその『頑丈』って、どのくらい?」

 破壊は死を意味する。ここは詳しく知りたいのです。

「そうやにゃぁ。この世界の最強の武器先生は何で、威力はどのくらいあるが?」
「ん~、詳しくは知らないけど…………核兵器が強いと思う。大きいのだと、一発でこの辺りが焼け野原と化すんじゃないかな」
「一発で、焼け野原かえ。だったら、連続で100000000000000発は防げるにゃぁ」

 核を、100兆かぁ。いつもながら、この子達は桁がおかしいです。

「『金硬防壁』があれば、あたしたちに不手際さんがあっても死なないねっ。ゆーせー君、宿そーよっ」
「これがあれば、まず無事だもんね。しかしこんな貴重なモンをもらっていいの?」

 能力は一度あげたら、返せない。彼女は普段戦闘があるだろうに、平気なのかな?

「ワシに差し障りはないぜよ。伝説の魔法使いは、強固なシールド魔法先生を持ってるきね」
「そっか。ならば頂戴します」

 俺は、飴玉をパクンチョ。それはサッとお口の中で溶け、右手の甲に五芒星が浮かんで消えた。

「うし、これで安心安全だ。あとはゆっくり敵を殺していけば――」


                  あ


 あ。大事なことを、忘れてた。
「にゅむ?」「師匠?」
「しまった。明日、母さんが帰ってくるんだ……」

 我が母は、完全なる一般人。家に、自分以上に無力な者が加わってしまう。

「弱い人がいたら、相手は当然目を付ける。人質にでもされたら一巻の終わりだぞ……」
「ゆーせー君ゆーせー君、そーはならないよ。大昔にとある神様さんが、脅迫(きょーはく)で奪おーとした力は移動(いどー)しないよーにしてるからー」
「昔は強い先生の恋人とかを誘拐して、力を得る事件が多発したそうなが。その対策として神先生が、純粋なバトルでしか奪えないようにしたがよ」

 どっかの神様、グッジョブ。できれば奪い合えないようにして欲しかったけど、この際これでも充分だ。
 もう、贅沢は言いません。

「ふぅ、それなら母さんがいても――やっぱいけない! 帰宅は不安だ!」
「あたしたちクラスにならないと、『戦場空間』以外だと力を使えないの。街さんが壊れて、偶然(ぐーぜん)負傷(ふしょー)する心配もないよー?」
「それは嬉しい誤算だが、俺が危惧してるのはソコじゃない。その空間には、直視すれば一般人でも引き込めるのが厄介なんだ」

 人質にできなかったら、こちらを動揺させるために命を奪うかもしれない。これはあくまで想像だが、ないとは言えないよね。

「あそっか! ゆーせー君は賢いねー」
「やるにゃぁ。師匠は一味違うぜよ!」

 魔王と勇者が、万雷の拍手を送ってくれる。
 やっぱこの2人、大バカだ。使い慣れてるアンタらが先に気付けよ。

「レミア、フュル。俺から離れてたら、両親が狙われることはないんだよね?」
「身近にいなかったら、関係性(かんけーせー)は掴まれないよ。ねーフュルちゃん」
「その人の家族先生を捜す魔法魔術は、存在しないきね。おまけに師匠の両親先生は力を持たない人やき、感知すらできんがよ」

 思った通りで何よりだ。俺は十六年の人生の中で初めて、平凡万歳と叫びたくなりました。

「そしたら、母さんが帰ってこないようにすりゃいいんだね。心配かけたくないんで、内緒にしたいから…………フュル、戻りたくなくなる魔法ってのはない?」
「師匠、魔法は万能じゃないが。そういうのは持ち合わせてないがぜよ」

 ん~む。やっぱ、都合よくはいかないか。

「攻撃用なら、風変わりなのが仰山あるがやけどねぇ。約束を破ったら細胞が爆弾に変わって、大爆発するのとか」

 俺は何も聞いてない、何も見ていない。大男がいた場所で爆炎が上がってるのなんて、知らないよ。

「魔法(まほー)はバッテンだし『あの方法(ほーほー)』も無理だから、他のを考えないといけないねっ。でもでも三人寄れば文殊の知恵さんで、きっと何とかなるよー」
「レミア先生、良いこと言ったっ。師匠、これから皆で捻り出すぜよ!」
「……そうするより、他ないね。なんでか敵が作った『戦場空間』が解けたから、食材を買って家で話し合いましょう」

 細かいことは気にしないようにして、出発進行。茜色に染まり始めた道を、3人で進みだしたのだった。


 ところで――三人寄れば文殊の知恵、ねぇ。
 これってさぁ。ある程度まともな人間が、3人集まった時の話ですよね?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

空霧雲海 16歳の少年


頼れる兄貴系の容姿と性格を持つ優星の同級生であり、悪友であり、重度のオタク。

作中に登場する名曲(迷曲)を作った人。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み