第4話

文字数 1,411文字

 途中何度か休憩をはさみ、太陽が沈みかけたころ、四人は山頂近くのバンガローに到着した。宮本は疲労の色を隠せず、両手で膝をつきながら肩で息をした。
 伊丹が鍵をあけてバンガローに入ると、真壁明菜と西村かなえもそれに続いた。しんがりの宮本は三人に気づかれないよう、除菌シートでドアノブを素早く拭いて中に入ると、一直線にトイレに駆け込んだ。途中、伊丹と真壁明菜がソファーにぐったりと座り込んでいるのが視界に入った。
 シャワーを浴びたい気持ちが込み上げるが、それをグッとこらえ、全身を除菌シートで拭き上げて再び下着を着替えると、奥のベッドに倒れ込む。西村かなえは一人で散歩してくるといい、バンガローを後にした。宮本も一緒に行きたい気持ちがあったが、身体がいうことを効かない。ただ、虚ろな目で微かに手を振る事しかできなかった自分を情けなく感じた。
 ソファーで微動だにしない伊丹たちの足元には缶ビールの空き缶が転がっていて、やがて寝息が耳に入ってきた。

 小一時間が経った頃、管理人のおじさんが約束の食材を持ってきた。それを期に元気を取り戻した宮本は、埃の気になる洗面台でしっかりと手を洗うと、表に出てバーベキューの準備に取り掛かった。
 いつの間にか散歩から帰って来ていた西村かなえは炊事場に立っていて、鼻歌を唄いながら野菜を切り分けている。伊丹と真壁明菜は火おこし担当になり、煉瓦で組み立てられたコンロに墨を入れていた。
 手持ち無沙汰の宮本は、手伝うよとかなえの横に立ってみた。だが他人の握った包丁に抵抗がある宮本は、ポケットからこっそり除菌シートを出し、包丁の取っ手を拭く。そしてピーマンをまな板に載せ、四つに切り分ける作業に入った。
 やがて伊丹たちの呼び声が聞こえると、宮本とかなえは切り分けた食材をトレイに乗せてコンロに運び、肉を中心にトングで網の上に並べる。
 食材に程よく火が通り、香ばしい匂いが漂ってくると、みんな一斉に缶ビールを開け、伊丹の音頭でバーベキューディナーが開始された。もちろん宮本は事前に自分のビールの口の部分にしっかりと除菌シートを当ててある。
 時々、肉の油が滴り落ちると火花が飛び散る。一斉に歓声が上がり、一人テンションの低い宮本は舞い上がる灰を避けるようにコンロから遠のく。
 草むらの影に紙皿に乗った肉や野菜を捨てると、宮本は楽しげな表情を作って三人の輪に戻り、はしゃぎ声を上げた。

 夜もすっかりふけたころ、バーベキューが終わりを告げる。と、伊丹が花火に火をつけた。闇夜に浮かぶ赤や黄色の煌めきは、宮本の胸を揺すった。

 バンガローに戻ると、伊丹が持参していたワインと焼酎を並べ、二次会(?)が始まった。
 山手線ゲームからスタートし、王様ゲームになりそうな気配を何とか阻止し、代わりにジェスチャーゲーム、モノマネ大会と続き、やがてババ抜きになったところで宮本に冷や汗が流れた。他人の触れたトランプを取るのは抵抗があったからだ。だが、折角の楽し気な雰囲気を台無しにするのは、さすがにはばかられた。少しの我慢だと、宮本は無理に笑顔を作り、震える手でカードを持つ。そんな宮本の心をよそに、ババ抜きは意外と盛り上がり、気が付くと時計は十二時をとうに過ぎていた。
 すっかり酔いが回った伊丹と真壁明菜はベッドへと潜り込むとやがて高いびきが聞こえてくる。残された宮本と西村かなえは、彼女の誘いで散歩に出かける運びとなった。
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