3.小さな会議・兼ティータイム

文字数 2,533文字

お待たせ致しました、お嬢様。
リリーアの私室の小さなテーブルに、並べられたのは手焼きのクッキーと三人分の紅茶。

椅子もきちんと三人分添えられている。

はい、では早速頂きましょうか。

では頂きます、お嬢様。

―――うむ、美味い。

(ぼりぼり)

―――ああ、こら、アンタが真っ先に食べてどうすんの!

お嬢様が先でしょうが!

良いですわよ。

ラクトンは、エミリーのクッキー大好物ですものね。

うん、美味いぞ、エミリーナ。

(ぼりぼり)

そ―――そんな、真顔で褒めないの!

なんか、恥ずかしいじゃないの!

今日も仲良しですわね、二人とも。

ふつうですよ、ふつう。

―――さて、それよりもリリーア様。

先ほどの話の続きをどうぞ。

なに、お仕事の話?

だったら私は席を外しましょうか?

―――いや、お前にも協力を頼むことになるかもしれん。

一緒に聞いていてくれ。

(ああ、いつもの・・・また何か、お嬢様の思い付き?)
(ああ。だが、いつものとはわけが違う。「当主代行」としての思い付きだからな)
聞こえてますわよ、二人とも。
ええ、心得ています。
同じテーブルで面と向かって、内緒話もあったもんじゃないですからね。

なら宜しいですわ。


―――さて、それでは話を進めて行きましょう。

先ほどラクトンが言ったとおり、エミリーにも聞いて頂きたいのですが・・・

はい、もちろん!

私でお役に立てることがありましたら何なりと!

では、エミリーナにも話が分かるよう、まずは俺の方から事の経緯をまとめて説明させて頂きましょうか。
宜しくお願い致しますわ。

ラクトンは、先ほどの大広間での執事たちとのやり取りから、ここリリーアの私室に戻ってエミリーナが扉を叩くまでのことを簡潔に話した。



はー、なるほど。

スパイですか。

ええ。

これから、そのスパイをどのようにして炙り出すかを話し合いたいと思います。

何か意見がありましたら、どんどんおっしゃってくださいませ。

俺としては、スパイがいることを前提に話を進めるべきではないと思いますが・・・

確かにそうですわね。


まず話し合うべきは、スパイがいるならどの役職の者の可能性が高いか、そして、実際にスパイがいる可能性がどれほどあるのか、ですわね。

あら、意外とすんなりですね。

もっとこう、「今からスパイ狩りだ!」みたいなノリで行かれるのかと・・・

遊びではありませんからね。

・・・もっとも、私はスパイは「いる」と確信を持っておりますわ。

根拠は何か?
もちろん、姉様がそうおっしゃっていたから、ですわ。
・・・まぁ、根拠としてはあながち間違ってはいませんね。

こと人心に関することについては姉姫様の眼力、とんでもないですものね。

あら、姉様は他のあらゆることに於いても完璧ですわよ?

確かに粗という粗は見当たらない方ですが・・・

(さすがに言い過ぎでは?)

お嬢様、姉姫様のことを敬愛されてますものね。

ええ、それはもう。


さて、本題に戻りましょう。

執事とメイドの立場から、何か有益な情報はありませんか?

ん~~~、そうですねぇ・・・

こちらで働いているメイドについては、スパイが紛れてる可能性は薄いんじゃないですかねぇ。


数こそ多いですが、基本的にはオルトランド家直下の四貴族から分かれた、分家のお嬢様方が務めに来てますから。

素性はハッキリとしてるんですよね。


仮にそこにスパイが紛れ込んでるとしたら、その分家の血筋まるごと裏切っていることにもなりかねませんので・・・


さすがに、そのような事態を姉姫様が見過ごすことはないものかと。

基本的にというと・・・例外もあるのか?

あるわよ、私。

どこの馬の骨とも分からない拾われっ子じゃない。

ああ、お前か・・・

出自はともかく、エミリーは私と一緒に育って来たんですもの。

オルトランド家の一員ですわ。

それはさすがに勿体無いです、お嬢様・・・

メイド側の命令系統がいまひとつ分からんな。


執事長のように、一人がまとめ役をしているのではなく、十二分家から来ている十二名が合同で取り仕切っているんだったか。

そうね。

抜け駆けしないよう、公平を期すために、それぞれの分家が一名ずつ自分の娘をメイドとして出しているそうよ。


特に役職が決まってるわけじゃないんだけど、取り仕切ってるのはその十二人。

それ以外のメイドは十二分家から更に分かれた、市民階級の人たちね。

当然、市民とは言っても血筋はしっかりしているわ。

そこを言われると、執事については危ういな。
執事については、メイドと同じような出自の決まり事はないんですの?

現在オルトランド家に仕えている執事は、俺を除いて20名。


うち8名は先々代―――リリーア様の御爺様の「血を与えられし者(ディヴァイデッド)」。

それ以外の12名については、四貴族からそれぞれ3名ずつ差し出された者たちです。

血を与えられし者(ディヴァイデッド)」―――

私達、吸血鬼から血を与えられ、吸血鬼となった方々ですわね。


執事は全員、元々は人間種の「血を与えられし者(ディヴァイデッド)」ということでしたかしら?

基本的には全員「血を与えられし者(ディヴァイデッド)」ですね。

ただ、人間種かどうかは断言しかねます。

基本的には?
俺を執事に含めるか、だな。
ああアンタ、「血を与えられし者(ディヴァイデッド)」じゃないものね。

リリーア様付きという特例中の特例で執事扱いになっているに過ぎんからな。

傍からから見れば、「お嬢様の執事ごっこ」だ。


執事の中には快く思っていない者も多いし、その気持ちもまぁ分かる。

ああ確かに。

「庭師の息子風情がうまいこと取り入りやがって」みたいな悪態、よく聞くわね。

言いたい者には言わせておけば良いのですよ。

私の執事にはラクトンが相応しい、それは姉様にも認めて頂いております。

御信頼に応えられる様、努めます。

さて、話を戻しまして。


今の話ですと、執事については四貴族各々が用意してきた者たちではあるが、素性は分からない―――

こういうことでしょうか?

―――いえ、さすがに採用時に執事長がチェックしているはずです。

おそらく、経歴書のようなものがあると思われます。

―――なるほど。

では、次にすることが決まりましたね。

あ・・・
ん?
まずは、その経歴書を見せて頂きに参りましょう。
・・・どちらへ?
もちろん執事長に、ですわ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

リリーア・オルトランド


オルトランド家当主代理。13才の女の子。
現当主である姉が海外へ人材発掘に向かったため、代わりに領地を守る。が、実務は全て執事長に一任されているため、名目上のただの御飾りである。
本人もそれは分かっているため責任感は一切ない。

エイドリッヒ・ラクトンブレッド


オルトランド家に仕える庭師の息子。
幼少の頃からのリリーアの遊び相手であったため、専属の執事として採用された18才。
こちらも名目上の役職であり、一部からは「ごっこ遊び」と揶揄されているが、本人はいたって真面目な性格であるため、執事の職務を全うするための努力を怠らない。

エミリーナ・ミーアキャット


捨て子。リリーアの姉に拾われ、リリーアと共に育ってきた吸血鬼。メイドとして育てられた16才。
ラクトンと3人合わせて幼馴染み。
生い立ちをものともしない能天気。

シュタインリッヒ・アルバトロス


執事長。当主不在のオルトランド家を切り盛りする影の功労者。その人望は厚い。

ウォルス・バーゼラルド


オルトランド家の平執事。若造がコネで出世したのが気に食わない。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色