キミは、それで素晴らしいんだよ。(タイトルは立派)

文字数 2,226文字

ガチャ、と玄関をあけた音が思ったよりも大きく、響いた。
俺にも、多分二階いる樹太郎くんにも、開戦の合図のように聞こえた。


樹太郎くんの部屋は、二階の奥だった。
コンコン。
ノックをしてみたけど、返事はない。
・・・・
いない、とか?
でも、扉の奥で、息をひそめている、気配がする。
・・・・・  
えーと。
・・・・・・
「じゅーたろーくーん、キャンプいこー」
ズルっと、扉のむこうでずっこけた気配がした。
だよねー。
俺も、もう少しまともなこと、言えないものかっておもったもん。
でも、たしかに、この部屋に樹太郎くんがいるのはわかったぞ・・・!
そのまま、ドア越しにはなしかける。

「・・・今日さ、カレー、食べたんだけど、すっごい、
 うまかった。あんなに旨いカレー、久しぶりっていうか・・・」

 ・・・・・・・・。

「今日さ、ひょんなことから、教会でキャンプしようぜ、ってことに
 なったんだけど・・・すごく、面白そうなんだ。」

 ・・・・・・・・。

 「樹太郎くんも、来ないか、、、ってか、きたら、カレーとか、つくらされそうだ けど、みんな、期待してるっていうか・・・」


 ・・・・・・・・。

「それくらい、あのカレーうまかったっていうか、あれどーやったらあんなに旨くなるのって女子たちも言ってたし・・・」

 ・・・・・・・・。

俺はアホか。
カレーの話しか、してないじゃないか・・・・!!!

「あのさ、学校、いけなくても、キャンプ、きたら楽しいだろうし・・」

・・・・・・・・・・。

ええと、ええと・・・

俺は、悟った。
俺は、アホです。
全世界で、今、俺ほど神に助けを求めている人はいないんじゃないかしら。
    
「と、トラじーちゃんたちも心配してるし、そろそろでてこいよ!」

・・・・・・。

ほんまに、俺はアホやー・・・・・!
自己嫌悪にひたっていると、扉のむこうで、ぼそぼそ、と声がした。
「~かに、~かに」
  かに?
「ごめん、もう少し、大きい声でいってくれないかな?よくきこえなくて・・・」

・・・・・・・・・・。

漫画にしたら、“・・・・ぶちっ、”ときこえそうな間があった。
「お前なんかに、なにがわかるんだよぉおおおおおお!」
    

久しぶり?にきいた、樹太郎くんの声は、メッチャきれてた。
「お前なんかに。」
「女の子いっぱいでリア充かよぉ」
「おれのことなんか、ほっとけよぉぉお」
ばんばんばん!とドアが叩かれて、・・・ちょっと、怖い。
「おれのきもちなんか」
「うるせーんだよぉおお」
ばんばんばん!
・・・うん、怖いし、帰りたくなってきた。(無責任)
・・・どれぐらい、そうしてただろうか。
疲れてきたのか、中の樹太郎くんの声がかすれて、おとなしくなってきた。
「どうせ、どうせ、おれなんか、いなくなったほうが、」
・・・気持ちがどんどん落ち込んできたようだった。

「そんな、こというなよ、、、じーちゃんたち、心配してたぞ・・」
「おれなんか、いなくなるから、いいんだよ・・!
 おれなんか、なんの価値もないし、いないほうが幸せなんだ」
    
 ―それをきいたとき、一瞬、頭が真っ白になった。
   
数年前の、俺。
親父もお袋もいなくなって、教会で、ひとりぼっちだった自分。
本当は、教会のお荷物だって、知ってた。
誰も、俺の、急に一人になった気持ちとか、、、
俺なんか、いないほうが、
俺も、あの事故で、いっそ、一緒に、

ドンッ!!!!
「樹太郎!!!!!
お前、ふっざけんなよ!!!!!」
扉を蹴破った…・つもりが、扉が固くて蹴とばしただけだった。
いい、かまわない。
「樹太郎、お前、すげぇ、勝手だよ!
 いじめでも、お前には、逃げたら、受け止めてくれるじーちゃんたちが
 いるだろ!お前のために、毎朝、涙をながして祈ってくれるばーちゃんたちが
 いるだろ!!
 お前が、人とかかわるのがこわくなったからって、お前を大事にしている
 人がいるのに、いないほうがよかったとか、軽々しく、いうなよ!」
そうだ。
俺はずっと、言いたかったことがある。
「お前は、生きてるんじゃなくて、生かされてるんだよ!
 まだ地上でできることがたくさんあるのに、価値がないとか、
 お前が勝手に決めつけるなよ!
 お前が、ダメでもアホでも無価値でも、お前をあんなに愛してくれる、
 家族がいるだろ!!!」
まだなんか、言い足りないことがある。
頭が沸騰しそうに、あつくなっている。
「お前が価値がなく思えても、俺の目には、すごく高価で尊いんだよ!
  だから、」
だから?
「俺はずっとこのドアを叩きつづけるし、お前をまってるし、
 イエス様もそうだろ!!!!」
しゅわっ・・・!!!
いきなり、恥ずかしさが、おそってきた。
な、なにいまの。
ちょ、ちょっと、タンマ・・・・・
一人で、恥ずかしくて転げまわりそうになっていると、
ドアが、開いた。
「よ、よしゅあ、ぐん・・・・・!」
涙と、鼻水と、もろもろの体液で顔中をくしゃくしゃにした、
樹太郎くんが、でてきた・・・!
髪の毛がのびっぱなしで、ちょっと太った?樹太郎くんは、
その両手で、俺をつかんでハグし・・・
ぐいぐいと、顔をおしつけてきて、わんわん泣いた。
・・・・いいけど、たまに、俺の服で顔ふいてるよね?
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