終章 示された欠片

文字数 991文字

 それより更に幾年か過ぎた。オーダーは各国の軍産複合体に年々投資し、その利潤で更なる軍拡を進めていった。その利潤は循環の様に増大して行き、我々は世界経済の一角を占めるところまで来ていた。世界は憎しみと悲哀で満ちており、我々はその背中をほんの少し励ますだけで憎悪は鎖の様に繋がれていった。戦争は戦争を呼び、国々は除々に荒廃していった。中華帝国が栄華の極みに到達しようとする中、我々は衰退して行く同盟国に眼を付けた。中華帝国に対抗出来る軍の創設である。即ち、圧倒的物量による軍隊、オートマータ軍の軍拡である。
 ある日、手紙が届いた。珍しくインクとペンで書かれたであろうそれは「親愛なる兄弟、子冬へ。君の兄弟ミカエルより」と流暢に書かれており、その中にコロサイの信徒への手紙の幾節かが丁寧に書かれていた。

『神は、御心のままに、満ち溢れるものを余すところなく御子の内に宿らせ、その十字架の血によって平和を打ち立て、地にあるものであれ、天にあるものであれ、万物をただ御子によって、御自分と和解させられました』

「何と言うことだ……」
 思わず呟く。
 これは『全てに救い』の根本に係わる部分ではないか。如何に自分が聖典を読んでいなかったのか思い知らされる。
 灯台下暗しとは正にこのことだ。
 自分の心が闇に覆われていて何も見えていなかったと言うのか?
 しかし、疑問が残る。この文章は原語では如何なる意味を持つのか? そもそも聖典にそう書いてあるのであれば、イザヤ書とも繋がってくる。

『私の目には、あなたは価高く、貴く、わたしはあなたを愛し』
 そして、これがヨハネの手紙第一とも係わってくる。

『神は愛である』

「何故だ。少年よ。何故神の御言葉そのものを贈ってきたのだ」
 喪った後に喪った命題を立証しつつある。
「善い、この疑問の解決する方法は私の内にはない」
 もし、これを原語で解こうとする者が居れば止めることも出来ない。
 これは畏怖か? 『全てに滅び』を選択しようとする私に対する神から啓示だとでも言うのか?

 解けぬ。解けぬ。解けぬ。
「少年……」
 世界が黄昏に落ちる時代にこれらの言葉が示された。
 我々は変わるのだろうか? 世界は新しいシステムを築き上げるのだろうか? この混沌たる『秩序』の中で。

                     ―了―
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登場人物紹介

ジ・オーダー……『秩序』にして『命令者』、『注文』の『騎士団』とも揶揄される存在。

子冬……少年と共に『全てに救い』を探求する者。気弱で病弱、心の病んだ者。 

少年……子冬に『全てに救い』を指し示し、共に道を歩む者。(アイコンはあくまで参考用イメージ像です。読者様のお好みの姿で物語をお楽しみ下さいませ)

ウォリアー……同盟国の重要人物にして『使徒』でもある。(アイコンはあくまで参考用イメージ像です。読者様のお好みの姿で物語をお楽しみ下さいませ)

毛……中華帝国の建国時のメンバーの一人。穏やかな性格で理想主義者でもある。(アイコンはあくまで参考用イメージ像です。読者様のお好みの姿で物語をお楽しみ下さいませ)

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