プロット

文字数 2,427文字

【起】
ラファエル学園高等部一年の八釼颯天(やつるぎそうま)は、物心ついた頃からヒトの抱える心の闇を感じ取る力があった。時としてそれは心の病として現れ、その病を感じ取り視覚化する事も出来た。当時、それは誰しもが持ちえるものだと思っていた颯天だが、大人たちや友達の周りの反応から、それが決して歓迎される力ではない事を体感する。その苦い経験を通して、何も知らないふりをする事が波風を立てず平穏に日常を過ごせる事を覚えた。そんな颯天の趣味は、タロット占いだ。少女と見紛うような愛らしい容姿も手伝って、友人界隈からは当たると評判の腕前。幼稚園から大学院までエスカレート方式のラファエル学園高等部の入学を目指したのは、都内近郊で唯一『占い研究部』があるからだった。部には、部長の藤堂さやかが人相と手相占い、副部長の三澤昴が風水、二年の松波俊郎は気学、迫田杏子は夢占いとオラクルカ-ド、園部遥斗は西洋占星術、一年の日下佐保はル-ン占い、……それぞれ占いの得意分野を生かして日々切磋琢磨しあっている。
 部室には、主に生徒達から様々な悩みを抱えて訪れ、部員たちはそれぞれ得意な分野の占いを駆使してアドバイスや相談にあたっていた。口コミでその評判は外部へと広がりを見せていた。毎月第四土曜日は、校外の相談者も引き受けるべく公開占い相談会を開催している。また、インターネットでも相談を受け付けていた。

【承】ある日の明け方、颯天は夢を見る。広い野菜畑に一匹の薄茶色のモルモットが箱座りしており『ボクを助けて』と語りかけるのだ。妙に気になった。その日の部活帰り、自宅近くの最寄り駅で仲間と別れて一人帰路に着く途中、背後から声をかけられる。フルネームで名を呼んだのは若い女性だった。訝しげに振り返る颯天に、『警察秘密組織、警視庁公安部シークレットスピリチュアル部門』の者だと名乗る。荒みきった人々を内密に癒し、浄化して穏やかな世の中に導く部門らしい。未だ立ち上げて8年目ほどの、文字通り秘密の組織なのだという。報酬は……まだ学生な為、お金や物品ではなく、運気が上がる事を支払うという。注意点は謙虚であること。謙虚さを失うと途端に運気が下がるという。中二病を拗らせたおかしな大人に違いないと足早に立ち去ろうとするが、彼女の右肩に乗る薄茶色のモルモットに気づく。夢で見たモルモットにそっくりなのが気になった。更に、河原詩織と名乗ったその女性は『あなたには他人の心の闇や病を視覚化できる力があるはず』と指摘され驚愕する。メンバーは日本全国、中学生から101歳の老若男女887名が密かに活動しているという。半信半疑ながらもお試しに引き受けることにした。普通に相談にくる人に闇や病を感じ取った時、癒されるように祈りながら鑑定するだけで良いというので。報酬が運気アップ、てなんだよと思いつつ。

翌日から、言われた通り鑑定すると……。朝の漢字や英単語の小テストの山勘が当たったり、行き帰りの電車の乗り換えがスムーズになったり、何人かの女の子に告白されたり……と、ちょっとしたラッキーが起こるようになった。だが、ちょっといい気になると……友達と喧嘩したり、占いの相談者から言われなきクレームがきたり、とついてないことが起こることも体感。謙虚の大切さも知る。

気をよくして、正式に引き受ける事にした颯天に、詩織からあの薄茶のモルモットが貸与される。モグという名らしい。困った時の導き手らしい。しかも人語まで操るのだ。どうやら颯天とスピリチュアル部門の人にしか見えないし聞こえない存在らしいのだ。

かつして世の中の平和に役立つべく、密かに奮闘をする日々が始まる。

【転】半年くらい経って慣れてきた頃、モグに悩みがあるらしい事に気づく。モグは以前、本物のモルモットだったらしい。その頃の飼い主、姫宮千咲がペットロスで未だに立ち直ってないという。颯天と同じ学年の少女らしい。現在引きこもり中との事。彼女は小説投稿サイトで小説を書くのが好きらしく、そのコメント欄から交流を図る事にした。

颯天は紆余曲折を繰り返して彼女の信頼を勝ち取る。颯天の目には、千咲に巣くう悲しみはねずみ色の痩せこけた餓鬼みたいな存在が彼女におぶさり、『……悲しいのは幸せ。だってお母さんやお父さんにかまって貰えるから』と囁いているように視えた。聞けば彼女の両親は仕事でほとんど家にいないのだという。彼女が13歳の頃、三つ年上の兄が不慮の事故で亡くなってから、彼を溺愛していた両親は仕事に没頭するようになってしまったらしい。……3ヶ月ほどかけ、漸く千咲はペットロスを乗り越えた。同時にモグも光と共に虹の橋に消えていくのを千咲と颯天は見送った。モグは颯天自身が抱えた心の闇も浄化してくれたのに気づいた。実は颯天の両親は……全てにおいて秀でた弟ばかりを愛していること。颯天の抱える寂しさ、見捨てられ不安、劣等感、何かを始める前に諦めてしまう傾向など……。

後日、詩織より『千咲の件もそうだが、何よりモグを通して颯天自身の自己受容と自己肯定感をあげる事が目的。そしてスピリチュアル部門に相応しいかのテストだった』と聞く。つまり、カルマの解消らしい。カルマと言っても仰々しいものではなく、ご縁があった人の抱えた闇をを少しでも解放してあげることも指すのだそうだ。その人が生きやすく自分らしく生きていけるきっかけを作って欲しいとの事。

【決】
かくして颯天は正式にスピリチュアル部門の888人目のメンバーとなった。更に、颯天は千咲と付き合うことに。千咲は颯天から占いを習いたいという。颯天はいつの間にか、自分が今まで不満なこと、足りないことばかりに目を向けていた事に気づいた。そうではなく、与えられていたこと、恵まれていたこと、当たり前のことなど何一つなく、生きていることそのものが奇跡であることをしみじみと実感するのだった。こんな自分、悪くないじゃないか、と颯天は密かに微笑んだ。


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