第14話 終章

文字数 1,561文字

「ええ。地球もこの宇宙も、かつては荒い波動の低次元の空間でした。そこに住む地球人も原始的な意識しか使えない状態でした。進化というのは、意識レベルを高次元に上昇させていく事です。私達高級勢力は長い間、地球人の進化を見守り、時にはサポートしてきました。ホロスコープの開示もそのサポートの一つです。人間は生まれる前に魂のレベルで私達と話し合い、次に生まれた時の人生をどう生きるか決めます。ですが大抵はこの三次元空間に生まれると、その記憶を失ってしまうのです。それを防ぎ、もっと意識的に魂の目的通り生きれるように、私達は高度な占星術の知識を地球人に伝えました。人類がホロスコープ通りに生きる事で、宇宙のバランスが取れ、徐々にエネルギーが上がって行くのです。今回の隕石の衝突は貴方が引き起こしたものです。ホロスコープを変えてしまったので」
「そんな……」
俺は自分のしでかした事の重大さに言葉を失った。
「でも、俺のホロスコープが特別だっていうのは?」
「貴方の魂は人類と宇宙が高次元へと進化するために犠牲となる事を決意していました。進化し、次元を上昇させるためには大いなる悲しみ――最高度の純粋な悲しみを経験して、そこから人を許し、宇宙的な愛へと昇華させる事が必要です。未知の度数がありましたね。あれは貴方の悲しみと愛のエネルギーによって、この宇宙が一段階波動を上げ、進化する事を意味していたのです」
俺は絶句した。俺の魂がそんな大それた事を望んでいたとは到底信じられない。
「俺はそんな、進化だの何だのよりも普通に女と幸せになりたい。それに、どうして俺がホロスコープを改ざんした事が分かったんだ? 誰にも話していないのに」
「お入りなさい!」
睡蓮はドアに向かって叫んだ。ドアが開くと、そこには美樹の姿があった。
「彼女が通報したのですよ」
「美樹!? どうしてだ?」
「浮気の仕返しよ……」
「でも、そしたらお前の親父さんだってヤバくなるのに……」
「分かっているわ。でも私、どうしても許せなかったのよ……ご免なさい」
「美樹……。それで、俺はどうなるんです?」
「はい。通常であれば魂の消去なんですが、貴方の場合は元々の魂のレベルが高いのです。その様な高度な魂の持ち主には、やはり本人の意思を確認しなければなりません。どうしますか? 再びホロスコープを戻して、人類のために貢献しますか?」
俺はしばらく考え込んだ。人類の進化……次元上昇……そのための犠牲。

「俺は進化だの何だのはどうでも良い。俺は美樹と幸せになりたいんだ」
「そうですか……」
睡蓮は少しだけ悲しそうな顔をした。
「その望みを叶えるには、現在の時間軸の地球では無理です。過去の、もっと原始的な地球なら可能です」
「……って、どうするんです?」
「お二人の魂を過去の地球へ転送します」
「転送……って、そんな事出来るんですか?」
「出来ますよ。ですが、そこではここの様な快適で文明的な暮らしは出来ませんよ」
「それって、ここでは死ぬっていう事ですか?」
「まあ……肉体レベルではそうとも言えますね。どうしますか?」
俺は美樹を見た。
「美樹、それで良いか?」
美樹は少しだけ考えて、
「ええ。良いわ。二人で幸せになりましょうよ」
と微笑んだ。

「分かりました。では三樹さん。山下さんの隣に座って下さい」
美樹は言われるままに俺の隣に座った。睡蓮は俺達の背後に立つと、両手をそれぞれ俺達の頭の上に置いた。
「では、これより山下海と富永美樹の魂を原始惑星地球へ転送します」
そう睡蓮が告げた途端に、俺は突然眠くなり、意識が薄らいでいくのを感じた。俺は横を向いて美樹の顔を見詰めた。遠退いていく意識の中で段々と美樹の顔がぼやけていき、俺はある事を思い出した。
「美樹って、母さんに似ているな……」
俺の意識は不思議な安らぎの中、消滅した。
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