第3話 神様の御守り

文字数 1,671文字

 ボクはありふれたしがないサラリーマン。
 三年前に念願の一戸建てのマイホームを購入した。共働きの妻が二年前に病死して、残されたのは高額の住宅ローンだけ。そしてボクはその返済のためにだけ働いているような日々だ。
 今日はボクの四十歳の誕生日だけど、祝ってくれる人なんかいない。いつものように仕事を終えて、明かりのついていない真っ暗な家に帰ってきた。習慣で無意識にポストを確認する。たまにチラシが入っている程度で、空っぽのことが多い。
 今日も空っぽかと閉めようとしたら、キラッと何かが光ったような気がした。
 ん?
 よく見ると、ポストの底に何かある。街灯の明かりだけではよく見えなくて、スマホのライトをつけてみる。小さな布?手に取ってみるとそれは御守りだった。
 誕生日のプレゼント?プレゼントをくれそうな人って?いくら考えても思いつかない。誰かが落としたものを通りかかった人がポストに入れてくれた落とし物?ボクにとっては迷惑なことなんだけど・・・。
 
 缶ビールをグビッと一口飲む。この瞬間だけが、ああ、生きていていると実感できる。
 さっきの御守りは銀糸が混ざった青色をしている。表にも裏にも文字や模様がない。何の御守りだろう。開けてみるとmicroSDカードが入っていた。
 近所のスパイが理由(わけ)あってボクに託した?なんてことはあり得ないだろう。新手のダイレクトメール?
 危険なmicroSDカードだったらスマホのセキュリティが作動するだろう、と軽い気持ちで開いてみた。
 直視できない程のまばゆい白光が溢れ出る。
 白光はゆっくりと渦を巻くように動き出し、よく響くバリトンが語り始めた。
『我々は創造主であり、森羅万象を司る者である。当夜、選ばれし者よ。汝に二つの選択肢を与える。』
 画面が変わって、上下に〈甲〉・〈乙〉の選択肢が表示された。
『〈甲〉現在、世界で起きている紛争・戦争・内戦の一つを終結させる。』
『〈乙〉宝くじで一度だけ高額当選する。』

 へ?これって世間で言うところの神様がボクに未来を選ぶ権利を与えてくれたっていうこと?
 もう一回、始めから再生していい?

 〈甲〉を選んだら、まさしくボクが神的な存在に?確かに戦争とかに巻き込まれている人たちは、平穏とは程遠い過酷な生活を強いられていて助けてあげたい。でも、現在、戦争や紛争、どれだけ起きている?一つを終結させても、他では紛争が続くわけだし、新たな紛争が起きる可能性だってあるし・・・。
 そうそう、神様は『当夜』って言ったよね。ということは今までに何人もの人たちがこんな選択をしてきたっていうこと?でも、ニュースで、どこかの紛争が終結をしました、なんてこと言っているの聞いたことないし、誰も〈甲〉を選んだ人がいないっていうこと?
 それにこの御守りそのものが怪しい。誰かのいたずら?どちらを選んでも振り込め詐欺的な?怪しさ満点だが、不審な内容が出てきた時点で、それ以上先に進まなければ問題ないだろう。

 ボクは悩みに悩んだ末、〈乙〉を選んだ。

 次の休みの日にロト7を買ってみたら、神様の言う通り、八億円、当たった。

 家のローンも全部返済して、ちょっといい車を買って、会社を辞めてギャンブルにハマった。
 そして、四ヶ月後に残ったものは、ギャンブルでできた多額の借金と抵当に入った自宅とギャンブル依存症だった。

 バイトから帰ってきていつもの習慣でポストを見る。
 ん? また、御守り?
そう言えば、前回、御守りが入っていたのは、ちょうど一年前のことだったことを思い出した。そうか、今日はボクの誕生日だ。ジェットコースターみたいに、極楽から地獄を目まぐるしく経験したせいか、去年の誕生日がもう十年以上も前のことのような気がする。
 前回と同じ御守り。前回と同じ選択肢。
 今度は迷わずに前回と同じ〈乙〉を選ぶ。

 ロト7を買ったら十億円当たった !!


 そして、その日、

『臨時ニュースです。本日、テロ組織が発射したと思われるミサイルが軌道を外れて国内に着弾しました。ミサイルによる死者は一名で、四十一歳男性・・・。』




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