第4話 空中庭園

文字数 1,282文字

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「はぁ、もう一か月になるのかぁ」
「なにがなのだ? メダカちゃん」
「コノコ姉さんの家に住むようになってから、もう一か月、ってことですよぉ」
「言われてみれば、もうそんなに日が過ぎたんだね。不思議なものなのだ」
「わたしが居候するようになって、ライフスタイルも変化したでしょうに。コノコ姉さんには感謝ですよ。姉さんのお母さんにも」
「朽葉珈琲店の店主にだね、メダカちゃん」
「店主……。そうですね、お母さん、店主ですね」
「さっきの戦闘については、なにか質問はある? メダカちゃん」


「ない、ですね」
「ない?」
「ええ。ないです。だって」
「だって?」


「コノコ姉さんは最強ですから。どんな敵が来ても大丈夫」


「メダカちゃんにそう言われるのは、大変光栄なことなのだ」
「そうですか?」
「慕われることは嬉しいこと、なのだよ」
「そんなもんですかね」
「そんなもん、なのだ」



人の往来は多くなってきている。駅へ向かう人々に逆行して、コノコとメダカは歩く。


「あれなのだ」
 指さすコノコ。
 コノコの指の先をメダカは見る。

「うーん。……島が空中に浮いてる…………。なんてこった」
 おでこに手をあてるメダカ。

「あれが、『空中庭園』なのだ」
「下の方から伸びてるエレベータで上がるんですね」
「そうなのだ。エレベータのところまで行くのだ」
「ここらへん、高いビルが多くて気づかなかった。空中に島が浮いてるのって、異常なことだと今、認識しましたぁ」

「〈研究所〉も、なにをやってるかわからない組織だってのがよくわかるのだ」
 ため息をつく朽葉コノコ。
 空中庭園は〈研究所〉がつくった。
 コノコも、その〈研究所〉の〈被験体〉にされた過去がある。
 冷たい〈コールドスリープ病棟〉で半眠半覚の状態にされて実験の道具にされたことを、コノコはメダカに語らない。
 メダカも知ってはいたが、特に、本人から聞きだそうとは思わなかった。
 だが、この浮いてる島を見ると、〈研究所〉の狂い方が尋常ではないのだけはわかる。
 そりゃ、人体実験も辞さない連中だろう、と思わせるところがある。

「コノコ姉さん。空中に島が浮いてるのって、意味あるんですかね」
「有事の際には、空中空母になるのだ」
「……そんなことだと思ってました。おかしいですもん、あれ」
「〈異形居留館〉の人々がつくらせたのだから、もちろん、政府とはまた違う〈来客〉や〈フィクサー〉さんたちのおもちゃなのだよ」
「この街、ちょっと狂ってますね」
 だから、金糸雀ラズリ、……あの風紀委員のエースは、涙子やコノコと一緒に、この街を抜け出そうとしている。
 メダカは、ラズリがそのことを自分に語った時のことを思い出す。



「うーん。〈研究所〉をぶっ潰せば、それで事件は解決するんじゃないかなぁ」


「なにぼそぼそ独り言してるのだ、メダカちゃん」
「いえ、なんでもありません」
「ふーん。それじゃ、空中庭園にある金糸雀邸に向かうのだ」
「おー!」
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登場人物紹介

佐原メダカ(さはらめだか)

 朽葉珈琲店で働く元気いっぱいの女の子。

金糸雀ラピス(かなりあらぴす)

 ひきこもりにゃーにゃー娘。

御陵初命(みささぎはつめ)

 生徒会長でジャズミュージシャン。

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