14:クエスト4 もしかして……くる?

文字数 2,120文字

 あの大量虐殺(ぎゃくさつ)事件が起こったあと、『オルビス・ナイト』のレビューには星1が大量発生した。

『先日フリーモードで遊んでいたら、なぜか他のプレイヤーに(たお)されました。本来はプレイヤーを倒すことができない場所のはずですが……。かなり不快な思いをしたので星5から星1にします』

『この前フリーのやつでやってた時に、大量殺人が起こって(おれ)も殺された。運営に問い合わせても「原因究明中です」しか返ってこない。無能。チートなら今すぐそいつを消してほしい』

 ……などなど。元々は純粋(じゅんすい)に面白いといったレビューがしっかり見られたが、最近の高評価はただのサクラレビューのみ。

 他のレビューには、私たちが出くわさなかった事件のことも書かれており、私が知らないだけで何件か事件が起きているようである。

「他のプレイヤーに迷惑(めいわく)がかかってる。早く犯人を(つか)まえないと」

 星1のレビューを見るたび、私の心臓はドキドキしていた。





 次の土曜日、今日は私と志音(しおん)の家に、みんなを招くことになった。土曜日だが、お父さんは出張で夕方まで帰ってこない。

「今日みんな集まるし、コートに呼ばれるんじゃね?」
「うん、そんな気がする」

 コートの方からはどうやら、私たちがログインしているか、私たちがどこにいるのかが分かるみたいだ。
 その条件がそろえば、五人は現実世界で同じところにいると判断しているらしい。

 ピーンポーン

 インターホンが鳴ってモニターを見に行くと、琴音(ことね)だけがカメラに映った。

「今開けるねー」

 あまり動きたがらない志音の代わりに、私が琴音を(むか)えに行く。

音葉(おとは)ちゃん()久しぶり。おじゃまします」

 リビングに案内すると、お母さんも「あらこっちゃん、いらっしゃい」と、飲み物を出した。

 五分ほど経って、弦斗(げんと)律歌(りっか)がやはりセットで家に来た。
 たまには自分から意見を出してみる。

「今日はパーティ戦がしたい」
「せやなリーダー、そうしよう」
「律歌、別に今はリーダー呼ばわりしなくていいから」

 改めて言われると、ちょっとドキドキするっていうか、変に意識しちゃうというか。

「この間は五人パーティだったけど、六人パーティでやりたいんだよね」

 最高六人でパーティが組めるので、それでやってみたいのだ。

「あともう一人どうするん?」
「どこか、パーティ募集(ぼしゅう)で一人しかいないところに入ってみる」

 リーダーと言われたものの、私がリーダーをするわけではない。

「まず私が入ったら、フレンド機能を使って呼ぶから」

 そう言って、人数を六人に設定してパーティを探し始めた。三つのパーティが出てきた。私はとりあえず一番上のパーティを選んでみる。

 私が『よろしくお願いします』というスタンプを送った直後、いきなりパーティから除名されたのだ。

『プレイヤー:虎帝(こてい) からパーティを除名されました』

「えっ、何か除名されたんだけど」
「うそやろ、今までそんなことないけど」
「……(だれ)から?」
「虎帝っていう人、あっ、またあの人だ」

 気づいた。この前、私たちの周りをぐるぐる回って、スキンを見せつけてきた人。またあの人だ。

「……あぁ、先週みたいな(いや)がらせの他にも、パーティ戦でSランク未満のプレイヤーを除名するんだ。リーダーならしょうがないけど、リーダーじゃない時には通信エラーを起こす」
「うわぁ、それでやられたのかぁ」
「……しかも、パーティ戦で相手に虎帝がいると、余計厄介(やっかい)。Aランク以下のプレイヤーに目をつけて、散々追いかけまわしてから倒すんだ」
「しかもやっぱり性格わるっ!」

 そんな人にまた当たってしまったのかと、私は自分の運の悪さを(のろ)った。

「もう一回、他のパーティを探してみる」

 改めて募集中のパーティを探した結果、今度はしっかり『普通(ふつう)の』プレイヤーだった。その人は律歌と同じSランクである。
 六人がそろい、パーティ戦が始まった。





 その途中(とちゅう)、お母さんが「ちょっとお買い物行ってくるから、お留守番頼むね」と、いなくなってくれた。
 さすがに六人対六人では、決着がつくのに時間がかかるので、十分以内により多くプレイヤーを倒すか、HPを(けず)った方が勝ちとなるものにしている。

 結果、私たちのパーティが勝った。私はやはり倒されてしまったものの、志音が残り五分くらいまでで、一キルと半分HPを削ってくれた。

「やった、勝った勝った!」
「ナイス志音!」
「久しぶりに活躍(かつやく)できた気がする」

 えへへと、志音が照れ笑いをしたその時。

 ブーッ

「あーきたきたコートからのメール」

 私たちは全員、ほぼ同じタイミングでメールを開いた。

『キミたちをこちらに招集する。このメールを開いた一分後に自動的に召喚(しょうかん)する』

 やっぱり。

「だよねぇ」
「今日やと思ってた」
「……ちょうどいいくらい、前回会ってから空いてるし」

 いきなり心の準備ができていないままで、「今日これから戦うよ」と言われるよりはマシかもしれない。文面を見ても、前回は『伝えたいことがある』だったが、今日はただ『招集する』だけだった。

「それにしても、もし今そっちに行けない時だった場合はどうするんだろ?」
「それな」
「そういうの、全く考えてないやろ」

 と、ブツブツ言っている間に一分が経った。目の前の景色が一瞬(いっしゅん)でどこかの物陰(ものかげ)になった。
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登場人物紹介

名前:音葉(おとは)

コードネーム:メロディー

年齢:11歳(小学6年生)

性格:どんな人とでも対等に話せる、愛情深い

担当:アルトサックス、GROSKのリーダー

ジョブ:スタンダード


一人称は『私』。志音は双子の弟。北小学校。

アルトサックスがメロディーであり、体力テストでAとBの瀬戸際という理由でリーダーになった。

癖の強いメンバーをなんとかまとめている。

名前:志音(しおん)

コードネーム:オブリガート

年齢:11歳(小学6年生)

性格:面倒くさがり屋、大ざっぱ、やるときはやる

担当:テナーサックス

ジョブ:スタンダード→スプリント


一人称は『俺』。音葉の双子の弟。北小学校。

適応能力が高く、反射神経がよい。

面倒くさいものは姉に押しつける。

名前:琴音(ことね)

コードネーム:ハーモニー

年齢:12歳(小学6年生)

性格:おっとり、気が利く

担当:ピアノ

ジョブ:スタンダード→ヒーラー


一人称は『私』。北小学校。

勉強ができて特に暗記が得意。学校1ピアノがうまいのでよく伴奏者になる。

常に周りを見ており、冷静。

名前:弦斗(げんと)

コードネーム:ビート

年齢:11歳(小学6年生)

性格:真面目、ぼんやり、聡明

担当:コントラバス、エレキベース

ジョブ:スタンダード→エイム


一人称は『僕』。西小学校。

学校1の頭脳を持つが、しゃべり始めるまでにラグがある。

ゲームの腕前はピカイチで、上位プレイヤーなら誰もが知っているほど。

名前:律歌(りっか)

コードネーム:リズム

年齢:12歳(小学6年生)

性格:とにかく明るくアネキっぽい、積極的

担当:ドラム

ジョブ:スタンダード→ワイド


一人称は『うち』。西小学校。

好きな芸人に影響され、エセ関西弁をしゃべる。

見境なく誰にでも話しかけるタイプで、GROSKの活気の源。

弦斗のいわば保護者。

名前:ラックス

コードネーム:コート

年齢:?

性格:正義感が強い、忘れっぽい

担当:情報収集、GROSK補佐

ジョブ:案内役(スパイ)


『オルビス・ナイト』をプレイすると一番最初に出会う猫のキャラクター。見た目は白猫でオッドアイ。

普段は案内猫としてプレイヤーをサポートしているが、裏ではスパイをしているという。

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