第1話

文字数 2,053文字

親愛なる君へ


ぼくはきみをどこまでも、いつまでもさがしているよ。


ぼくはきみと一緒にいたはずなのに、気が付けばぼくだけがとりのこされた場所にいて、


いままで君のいた部屋にも君はみあたらなくて、


いままで君といた家にも、君も、君の家族もみあたらなくて、


ぼくは家をよろよろと出て、きみとよく行った公園にも行ってみたよ。


けれど、そこにも君はいなかった。


ぼくは君のよくいっていた学校にもいってみたよ。


けれど、君はいないし、他に人もいなかった。


ぼくは君をさがして、君といった君のおばあちゃんの家へ行ってみたよ。


だけど、やっぱり君も、君のおばあちゃんもいなかったよ。


ぼくはいろんなところにいくことにしたよ。


君はいないけど、空はとても高く青く。


君はいないけど、川はきらきらと流れて。


君はいないけど、海はざぶんざぶんととても広くて。


ぼくは、君に見せたいから、きちんとデータを残しておいたよ。


ぼくは、少しばかりうまく動けなくて、海におっこちて、骨ばかりの魚にあったりしたよ。


ぼくは、その魚につかまってどこかわからない島にたどりついたよ。


ぼくは、君を探しているよ。


ぼくは、ずっと君を探しているよ。


ぼくも、もしかしたらもう動けなくなるかもしれない。


ぼくは、なんども、なんども、なんども、


君にデータを送るけれど、これが最後のレターになってしまうかもしれない。


いつまでたっても、ぼくのレターを読んでくれる気配はなくて、


ぼくは、それでも、


なんども、


なんども、


なんども、


君にデータをおくるんだ。


だって、ぼくが見ている世界のすべては、


君に見せたいほどにとてもきれいだとぼくはおもっているのだから。


もう、君にデータを届けることはできなくなってしまうかもしれないけれど、


君に届かないかもしれないけれど、


どうか、


君の瞳にも、この美しい世界が


輝いてみえますように。


そう、ねがっているよ。


ぼくは、とても君に会いたい。


ぼくは、この景色を君といっしょにみたい。


そう、おもっているよ。


じゃあね。


またね。


どうか、君に会えますように。

データ:高く青い空

    骨だけの鳥が飛んでいる

    ギラギラと太陽は赤く燃えている。

    海はざぶんざぶんと音をたて、そのたびに湯気をあげて蒸発している。

    骨だけの魚が、ぴよんと音をたてて流されてくる。

    ロボットの手元が見える。

    ロボットはその魚を拾い上げ、海に投げて戻す。

君に会いたいなぁ


会いたいなぁ


たのしかったなぁ


小さな場所で、


君だけのために僕は生れて


ぼくは君だけのために生きている。


ぼくは君のお父さんとお母さんからの誕生日プレゼントだった。


だから、ぼくは君がいないととても意味がないんだ。


どんなきれいな世界を見ても、


どんな素敵な世界に出会っても。

データ:ロボットは手で海水をすくい上げる。

    ロボットの手は塩で白くなっている。

    ロボットは水を太陽にかざすと、一瞬で蒸発して、白い気体になるデータを送信する。


    気体は太陽の光で、キラキラときらめき、空気中を漂った。

おかしいな


ぼくはなぜかいろんなデータを回想していないのに、


たしかぼくの大事なデータはもう見えなくなって、ぼくはバックアップを再生できなくて、


とても悲しいとおもっていたはずなのに、


今、僕にはすごく素敵な映像が見えるよ。


これは、もしかしたら、君からの返事のレターなのかな。


データの受信履歴は何度確認しても、「ありません」と答えられるけれど、


だけど、今みえるということは、


みえるということは、


君からの返事だったらいいな。


君と一緒におばあちゃんちに行ったね。


君は電車を乗り継いで僕と手をつないで歩いたんだ。


ぼくはきちんと時間をおしらせしたのに、乗り過ごしてすこし遅くなったりしたね。


駅までおばあちゃんが迎えにきたね。


あのとき、ちょっと泣いてしまったけど、


大丈夫っていう君はとてもえらかったよ。


学校にもいっぱいいったね。


僕は学校には入れないから、学校の前で他のロボットたちとじっと待ったよ。


学校が終わると君はぼくたちのところに来て、


ぼくと見つけて、目を輝かせた。


ぼくは、それがとてもうれしかったよ。


一緒に手をつないで帰って、ぼくは君のご飯を用意したね。


君はそれをおいしいと言ってくれたね。


ぼくは、君がほしいと言ってくれれば、どんなものでも作ろうとおもったよ。


ぼくたちは、いつも一緒に寝たね。


君の小さなふとんにぼくは入る必要はないけど、


君がいっしょがいいっていうから、


ぼくは君が寝るまで歌をうたったね。


君が寝たのを確認してから、ぼくは充電をするんだ。


ああ、そうか。


僕はこれからきちんと目を閉じて、


そして充電をするんだ。


充電機がうまく機能しなくなって、ついに壊れてしまっているけれど、


君にデータを送ることはもうできなくなってしまうけれど、


ぼくには君の笑顔が見えるよ。


ぼくは、とてもしあわせなロボットだったよ。

データ:きらきらと光る海

    きらきらと光る空


    視界が暗くなる。


    少女の笑顔が映し出される。


    電池切れ。

   

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