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文字数 2,576文字
ひとつの物語を終えた僕はプレイヤーである海道さんにたずねる。
笑顔で感想を述べる様子から気遣い込みでの評価ではなさそうだ。
「ファンタジー小説とも、TVゲームともちがうね。どちらよりも臨場感がある。本だと見ていることしかできないけど、自分で考え行動を選択できるのがいい。それに最後の援軍が予想外のところから出てきたのも面白かったよ。少々不本意な理由ではあったがね」
会話しながら時計を確認すると5時を回っていた。下校時刻の30分までに片付けを済ませないと。僕は荷物をカバンにしまうと、動かした机を元の位置に戻す。使用した机は固く絞ったぞうきんでちゃんと拭いておく。
感心したように海道さんは言うけど、別に当たり前のことだし。
試作プレイとしてはダイスの試行回数が少なかったけど、プレイが楽しんでもらえたから結果オーライだろう。残念なのは続きができないことくらいか。
いや、ここで頼めばひょっとすれば。そう考えるのは身の程しらずなことだろうか。
でも、ここで聞かなければ得られるものはない。どうせ失敗してなくすものなどないのだから、聞くにこしたことはない。
そう自分に言い聞かせ、僕はお願いを口にしようとする。
感慨深げにキャラクターシートをながめていた視線が僕に向けられる。
切れ長な瞳でみつめられると、言葉につまってしまう。プレイ中は意識しなかったけど、やっぱり海道さんはとてもキレイだ。
ぞうきんを手にしたまま、言葉をしぼりだす。
その時、不意に教室の扉が開いた。
「コラ、なにをしている!」
突然の声におどろくが、そこに立っていたのは女の子だった。
知り合いではないけれど、二つに結ばれた金髪には見覚えがある。背が低く細身なせいで年下っぽく見えるけど隣のクラスの子だ。海道さんと一緒にいるところを何度か目撃したことも。
たしか、名前は
海道さんは平然としてけど、僕はかなりおどろいた。
空見さんは僕に人差し指を突き付けると、イントネーションにやや難がある口調で責めたてる。
ある意味そうだったけど。話がややこしくなるので黙っておく。
海道さんが助け船をだしてくれる。それを証明するように、シロードのキャラクターシートを空見さんに見せた。
唐突にやってきた空見さんに、海道さんがその理由を問う。
あたりまえだが、海道さんは空見さんの疑念をあっさりと否定する。その通りなんだけど、あまりに平然に答えられるとちょっとさびしい。
澄んだスカイブルーの瞳が僕を値踏みするようにみている。
というか、それって普通に殺されてないですか?
空見さんの追求を海道さんはヤレヤレといった感じでみている。
決して、好んでボッチでいるわけではない。いや、部活がひとりなだけでボッチというほどでもないんだけど。
女の子みたいだから名前で呼ばれるのは好きじゃないんだけど、思わず下手 に答えてしまう。
とってもしたい。
超したい。
資料整理は残ってるけど、実際にプレイするほうがとっても楽しいことを実感したばかりだ。
強引な空見さんの言い分に海道さんは苦笑いをしている。彼女もしっかり巻き込まれているけど異存はなさそうだ。
そんなわけで、ありがたいことに僕のGM業はまだ少し続くことになった。
でも、どんなシナリオを用意すればいいんだろう?
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