第十四曲 黒鳥のグラン・フェッテ (1)
文字数 992文字
あとはハープのパートをポジティフオルガンでカバーすることに専念します。そう、念願のポジティフ、借りられることになったのです! 会場が決まって、けっきょく雨天の場合も考えて野外はやめて、聖トーマス教会。そこでポジティフを貸してもらえることになりました。主任司祭のゲオルク神父さまと、ディーディーに感謝(ロットバルトの本名、ディートリヒ・フォン・ディースカウだから、ディーディーなんだって。みんなそう呼んでいます)。
聖トーマス、大聖堂にくらべたらはるかに小ぶりですが、やはりバロック様式のかわいらしい聖堂で、ドームにくらべて白よりマホガニー色の分量が多いです。ちょっと有名な木彫の《悲しみのマリア像》があって、十字架にかけられたイエスの下に立って嘆く聖母の像(若くて美人だよ)なのですが、心臓に矢がぶすぶす七本刺さっているんですね。それで究極の悲しみをあらわしているわけで、まあバロックってそういうものなのでぼくらは慣れてしまってるんだけど、初めて見たデジレは絶句して、ほんとにこの前で演奏するの?と何度も尋ねていました。あと彼は、イエス様は腰布なのに、マリア様が十七世紀のドレスで着飾っているのも納得できなかったみたい。
天井の高さもちょうどよくて、音がやわらかく回りそうです。ゲオルク神父さまもお日さまみたいな陽気なかたで、ぼくらを歓迎してくれています。それと、クララとオーロラのインスタが功を奏して予約がけっこう来ているらしい。デジレもぼくもあきらめて、期間限定で協力しています。あくまで期間限定だからね。終わったら消去してよね。
オデット? ああ。彼女とはあれ以来、口をきいていません。それが何か?
ぼくだって、傷つく権利くらい、あるでしょう。
本番が本当に楽しみです。