23.探す
文字数 1,681文字
無闇に歩き回っても、まともな情報など手には入らない。小一時間ほど歩き回って、そのことにやっと気がついた。
成瀬は黙ってついてきながら、時折何か言いたげな雰囲気だけれど言葉にする事はない。
何か情報があるなら、もうあそこしか思いつかない。
「ねぇ。あの場所に行ってみてもいいかな」
あの場所とは、彼女が私に絡んできた路上のことだ。
ハットを見ていた私に、彼女は徐に近づき嘲るように怨みをぶつけて来た。
嫌な思いをした場所へ行くのは、気が滅入る。けれど、そんなことを言っていてもしょうがない。
あの場所に彼女がいたということは、近くに征爾がいるかもしれなということだ。
「大丈夫か」
殺してと懇願していたその場所にたどり着くと、成瀬が不安そうな顔を向けてくる。
「平気」
口角を上げると、成瀬の表情も少し緩む。
改めて辺りをキョロキョロと見回してみれば、近くにあるショップは、ハットを置いている古着屋。スイーツショップにレンタルショップ。小さな雑貨屋にシルバーショップ、花屋とパン屋があった。
いくつかの小さなビルには、いくつかの会社がおさまっている。
征爾のことを考えれば、今の私には音楽関係しか当てを思いつかない。そうなるとレンタルショップくらいのものだ。
「ちょっと訊いてくる」
成瀬を置いてレンタルショップへ向かい店内に入る。中の店員に征爾の写真を見せて訊ねるも、知らないと一言。店から出ながら、こちらを見ていた成瀬に向かって首を横に振る。
あの女性はこの町とは言っていたけれど、駅からずっと離れた場所なのかもしれない。
レンタルショップから出て、一階に花屋のあるビルを見上げると、三階には喫茶店がはいっていた。
「疲れたよね。少し休もっか」
何も言わずに付き合ってくれている成瀬を連れ、ビルのエレベーターに乗り込んだ。少し遅く感じられる動きをするエレベーターのドアが開き、三階に降り立つ。目の前にあるガラス張りの自動ドアを抜けて店に入ると、店内は静かでやたらと鉢植えや花が多く飾られていた。店主の趣味なのだろう。一階に花屋が入っているから、付き合いもあるのかもしれない。
好きなテーブルにどうぞと言われ窓際の席に着くと、五十代くらいの女性が注文を訊きにきた。
彼女が店主なら、花好きでも解る気がした。エプロンの柄も花柄で、メニューの縁取りにも花があしらわれていたからだ。極め付けは、メニューを差し出してきた爪にも綺麗な花のネイルが施されている。
「ホットを二つ」
コーヒーを注文して、窓の外に目をやる。
三階からの眺めは別段いいというわけではないけれど、歩いている時よりも空が少しだけ近い。
スッキリとした青がとても綺麗で、少しだけ目を細めた。
青空をこんな風に眺めるのは、いつ以来だろう。
「雲、少ないね」
窓の外に視線をやりながら、目の前に座る成瀬に言えば。
「天気がいいよな」
なんて、井戸端会議のおばちゃんみたいな会話に可笑しくなった。
少し下を見れば、開放的な造りをしている古着屋の中がよく見えて、もしかしたらという思いが浮んだ。
「ねぇ、成瀬……」
話しかけたところで、コーヒーが届いた。カップも花柄だ。
ごゆっくりと笑みを浮かべるおばちゃんに、小さく会釈をして話を戻した。
「ここから、古着屋が見える」
成瀬が視線を外へと向ける。
「もしかしたら、彼女はここから私を見つけたのかも」
成瀬が押し黙る。何か彼女のことで考えているのかもしれないと、表情を窺い見ながらも、そうじゃない何かがあるような気がした。成瀬の顔が思い悩むような、迷いを見せていたからだ。
「成瀬?」
迷いを断ち切れないのか、煮え切らない表情を見て名前を呼ぶと、眉根を下げた。
口を開きかけては閉じる成瀬に、何かじわじわと追い詰められるような感覚に我慢ができなくなってくる。
もしかして……。
「何か……知ってるの……?」
問われた成瀬が、ゴメンと頭を下げる。
成瀬の動きに、花柄のカップがカタリと揺れた。
成瀬は黙ってついてきながら、時折何か言いたげな雰囲気だけれど言葉にする事はない。
何か情報があるなら、もうあそこしか思いつかない。
「ねぇ。あの場所に行ってみてもいいかな」
あの場所とは、彼女が私に絡んできた路上のことだ。
ハットを見ていた私に、彼女は徐に近づき嘲るように怨みをぶつけて来た。
嫌な思いをした場所へ行くのは、気が滅入る。けれど、そんなことを言っていてもしょうがない。
あの場所に彼女がいたということは、近くに征爾がいるかもしれなということだ。
「大丈夫か」
殺してと懇願していたその場所にたどり着くと、成瀬が不安そうな顔を向けてくる。
「平気」
口角を上げると、成瀬の表情も少し緩む。
改めて辺りをキョロキョロと見回してみれば、近くにあるショップは、ハットを置いている古着屋。スイーツショップにレンタルショップ。小さな雑貨屋にシルバーショップ、花屋とパン屋があった。
いくつかの小さなビルには、いくつかの会社がおさまっている。
征爾のことを考えれば、今の私には音楽関係しか当てを思いつかない。そうなるとレンタルショップくらいのものだ。
「ちょっと訊いてくる」
成瀬を置いてレンタルショップへ向かい店内に入る。中の店員に征爾の写真を見せて訊ねるも、知らないと一言。店から出ながら、こちらを見ていた成瀬に向かって首を横に振る。
あの女性はこの町とは言っていたけれど、駅からずっと離れた場所なのかもしれない。
レンタルショップから出て、一階に花屋のあるビルを見上げると、三階には喫茶店がはいっていた。
「疲れたよね。少し休もっか」
何も言わずに付き合ってくれている成瀬を連れ、ビルのエレベーターに乗り込んだ。少し遅く感じられる動きをするエレベーターのドアが開き、三階に降り立つ。目の前にあるガラス張りの自動ドアを抜けて店に入ると、店内は静かでやたらと鉢植えや花が多く飾られていた。店主の趣味なのだろう。一階に花屋が入っているから、付き合いもあるのかもしれない。
好きなテーブルにどうぞと言われ窓際の席に着くと、五十代くらいの女性が注文を訊きにきた。
彼女が店主なら、花好きでも解る気がした。エプロンの柄も花柄で、メニューの縁取りにも花があしらわれていたからだ。極め付けは、メニューを差し出してきた爪にも綺麗な花のネイルが施されている。
「ホットを二つ」
コーヒーを注文して、窓の外に目をやる。
三階からの眺めは別段いいというわけではないけれど、歩いている時よりも空が少しだけ近い。
スッキリとした青がとても綺麗で、少しだけ目を細めた。
青空をこんな風に眺めるのは、いつ以来だろう。
「雲、少ないね」
窓の外に視線をやりながら、目の前に座る成瀬に言えば。
「天気がいいよな」
なんて、井戸端会議のおばちゃんみたいな会話に可笑しくなった。
少し下を見れば、開放的な造りをしている古着屋の中がよく見えて、もしかしたらという思いが浮んだ。
「ねぇ、成瀬……」
話しかけたところで、コーヒーが届いた。カップも花柄だ。
ごゆっくりと笑みを浮かべるおばちゃんに、小さく会釈をして話を戻した。
「ここから、古着屋が見える」
成瀬が視線を外へと向ける。
「もしかしたら、彼女はここから私を見つけたのかも」
成瀬が押し黙る。何か彼女のことで考えているのかもしれないと、表情を窺い見ながらも、そうじゃない何かがあるような気がした。成瀬の顔が思い悩むような、迷いを見せていたからだ。
「成瀬?」
迷いを断ち切れないのか、煮え切らない表情を見て名前を呼ぶと、眉根を下げた。
口を開きかけては閉じる成瀬に、何かじわじわと追い詰められるような感覚に我慢ができなくなってくる。
もしかして……。
「何か……知ってるの……?」
問われた成瀬が、ゴメンと頭を下げる。
成瀬の動きに、花柄のカップがカタリと揺れた。