第11話

文字数 737文字

「待ちなさい! そこの二人」
 大通りを抜け小道を走るアクタガワは、すでに追いかけてくる警官との差を大きく開いていた。腕を引っ張られ泣きそうになりながらヘイジはなにも感じることができなかった。急に温度が下がったことも、急に風が止まったことも、突然の異常なにわか雨にも。感じていたのは、これで自分は前科者確定で、内定は愚か就職浪人を超えて、刑務所行きだ。

「もういいよ、もうたくさんだ!」
 ヘイジは立ち止まり、アクタガワの手を解いてわめいた。

「この人でなし、変人野郎! 何てことしてくれたんだ! 絶交だ訴えてやる! そんでもってぶん殴って、引きずり回して釜でゆでて、そんでもって、そんでもって、七回殺す!」

「心穏やかやないなぁ」

「そのあとでもう一回殴る!」
「止まっててええんかぁ」
「よくない!」
 ヘイジはアクタガワを追い越して走った。飛ぶように走った。
「逃げきったらそのあとで踏んずけてやる!」

 ヘイジは感じてはいなかったが、警察官たちは、みな職務を忘れて逃げ出していた。アクタガワはヘイジを追いかけながら空を見上げて微笑んでいた。
「いつまでも踏んづけてやるぞ!」
 ヘイジはつまづき、派手にぶっ倒れてひっくり返り、地面に仰向けになった。そこでようやく、何が起きているのか身をもって感じることが出来た。零れ落ちる涙を乱暴に拭いで、さっと真上を指さした。
「あれは、いったい?」
「ようやくきたなぁ、同業者」
 そのなんだか分からない黒い物体は、空を覆いつくすほど大きさで東の方角へ過ぎていく。
 気も引けるほどの轟音をあげて、空気を切り裂き、その衝撃音はすさまじく耳が頭がい骨にめり込むが如しだ。

「さぁいくでヘイジ、地球の終わりや」




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登場人物紹介

二方ヘイジ

7月に入っても未だ内定0の就活生。

または、Fラン大学四年生。

これといって特徴もない。

アクタガワ

大学六年生で実は宇宙人。

ヘイジとは、インカレのサークルで知り合った。

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