第204話 見送

文字数 2,094文字

 ケランの荷馬車から荷物がおろされ、その一部が鉄の荷車に積み込まれる。ヨーレンが指揮をとりながら滞りなく作業は行われた。

「よし、これで積み込みは完了だよ」

 ヨーレンの最終確認が終わり出発の準備が整う。

「俺と荷馬車も使って中央へ行けば良かったのにな」

 ケランがどこか不服そうにユウトに話しかけた。

「ケランには引き続き、メルとクロネコテン達のために荷を運んでもらいたいからな。俺の知ってる信用できる運び屋はケランくらいしか知らないからよろしく頼むよ」
「うーむ・・・なら仕方ないか。任せとけ」

 ケランは心残りな表情をしつつもどこか嬉しそうにユウトに返事を返す。それからユウトはモリードとデイタスの方へと足を運んだ。

「二人とも見送りありがとう。デイタスはメルとクロネコテン達の護衛を引き受けてくれて助かるよ」
「なに、気にすることはないぞ。それにこれほどの数の生きたクロネコテンを間近で見れる機会もそうない。役得だ!はっはっは!」

 機嫌よさそうに豪快に笑うデイタスにユウトはほっとする。そしてモリードの方へユウトは視線を向けた。

「モリードも忙しそうだったのに会えてよかった」
「しばらく会えなくなるだろうからね。少しわがままをきいてもらって会いに来たんだ。伝えておきたいこともあって・・・」

 モリードにはどこか緊張感が漂っている。

「伝えたいこと?」
「今、僕はもう一度大魔剣を製造しようとしていることは知っているよね?」
「ああ、知ってる。持って帰れず面倒をかけてしまって申し訳ない」

 ユウトは思い出していた。大魔獣への最後の一撃。大魔剣の暴走をわざと引き起こし、大魔獣の核もろとも消滅させていた。

「気にしないで。武器である限り消耗品なんだから。最後まで使い切ってもらえることが制作者として本望だったし、それがユウトで良かった。それで・・・」

 モリードは口ごもる。漂う緊張感には不安の色が滲みだしていた。

「助言というか、忠告があるんだ」

 悩みながらモリードは落としていた視線を上げ、ユウトをしっかり捉えて言葉を続ける。

「大魔剣は僕の予想通りの性能を発揮することができた。それはうれしかった、けど想定外の能力を持っている事がわかってしまった」

 モリードの語気に重たさが増した。

「最後の一撃、あの威力は控えめに言っても攻城兵器なみの性能があったと思っている」
「攻城兵器?」

 聞きなれない言葉にユウトは聞き返す。

「砦や城壁も破壊可能って意味だけど、もしかしたらそれ以上かもしれない。
 そして、それを今扱う事ができるのはユウトだけだ。その事を、その意味を理解しておいて欲しい。その事実がユウトの助けにも、足かせにもなってしまうかもしれない」

 そう語るモリードの真剣さの圧力にユウトは身体を押される気がした。

「わかった。意識しておくよ。ありがとうモリード」

 ユウトは返事をしながら遠巻きに周辺を警戒する衛兵をちらりと見る。

「僕の思い過ごしで終わればいいんだけど・・・無事に、また大工房に戻ってきてくれよ」
「ああ」

 ユウトはゆっくりと、深く頷いた。

 そして中央へと向かう四姉妹とリナ、レナ、ヨーレンがヴァルの鉄の牛が引く荷台に乗り込む。ユウトはメル、モリード、デイタスにケランと握手を交わし、クロネコテン達を丁寧に撫でてやってから最後に乗り込んだ。

 鉄の牛とその荷台はふわりと低く持ち上がる。そして滑るように徐々に進み始めた。

 セブルはクロネコテン達にいまだ話しかけている。

「いい?みんな、メルとオリオの言うことをちゃんと聞くんだよ!オリオもメルをちゃんと手伝ってね。ボクはもう行くからっ」
「はい!いってらっしゃいねえさま!」

 オリオの元気のいい返事を聞いて、セブルは心配そうに一度振り向きながら駆け出し、動き出した荷台に飛び乗った。

 荷台の上り口に立つユウトへさらに飛び移り、マントに取りつく。

「やっぱり心配か、セブル?」
「はい・・・でも大丈夫です。ちょっとさみしいだけです」
「そっか。セブルがいてくれてオレは助かるよ」

 草原に残されるクロネコテン達は鳴き声を上げる。メルが手を上げて大きく振った。それにならうようにオリオが人型をとって手を振る。そしてそれを他のクロネコテン達がまねて飛び跳ねながら手を振り始めた。

 荷台から乗り出すように四姉妹がそれに答えるように手を振り返し、声を合わせて「いってきます」と声を上げる。ユウトは肩に乗るセブルの毛並みを撫でてやった。

 鉄の牛は丘陵地を上がり街道に出る。そのまま街道にそって進み出した。丘陵地がかげとなって見送る人々を隠しながら荷台に乗り込む乗員はその方向を眺め続ける。

「ソロソロ速度ヲ上ゲル。落チナイヨウニ注意シロ」

 ヴァルの声が響き、鉄の牛とそれに引かれる荷台は速度を増していった。

 その速さは荷馬車とは比べ物にならない。風が吹き込み、四姉妹たちにとって未体験の速度だったらしくはしゃいでいた。

 ユウトも荷台に乗り込み、四姉妹と同じように後方を見渡す。しだいに星の大釜に残された物見矢倉しか見えなくなり、さらに遠くで日に照らされる崩壊塔の輪郭がうっすらと見えた。
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