26、ポエニ戦争(10)
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しかし、ガリア人はローマと敵対していたものの、多くの部族に分かれて長年争いをくりかえしておりまとまりがなく、戦う前から疲弊していたカルタゴ軍に味方しようとする者は少なかった。このためハンニバルはローマ軍を撃破して力を誇示しなければ、ガリア人を味方に引き入れることはできないと判断していた。
スキピオは野営地で兵を集め、演説した。彼は、ローヌ川での前哨戦でローマ軍が大勝利を収めた事、23年前にローマはカルタゴに勝利しているから敵は敗者の残党である事、カルタゴ軍はアルプス越えで3分の2に減り、しかも大きく疲労している事などを挙げ、士気を高めた。
一方ハンニバルは、アルプス山中で捕虜にしたガリア人に、勝てば自由と武器、馬を与えると約束し、互いに決闘をさせた。ガリア人は山越えで非常に衰弱していたが、全員が決闘を希望した。カルタゴ軍は勝った者を讃え、敗れて死んだ者はより大きく讃えた。
ハンニバルは決闘で敗れて死んだ者を勝った者以上に褒め称え名誉を守った。こうすることでガリア人は例え負けて死んでも名誉は守られると考え、進んで決闘を行った。十字軍の戦士は途中で死んでも魂が救われると信じていたが、ハンニバルが行ったことも同じ効果がある。
決闘が終わるとハンニバルは演説を始め、自軍の前には大河、左右に海、後ろにはアルプスと、いま決闘した者たちと同じように逃げ場はなく、勝つか死ぬかしか無いこと、しかし勝てばローマの全てを手に入れられる事、戦争に勝利した暁には子の代まで税を免除し、土地や金貨を与える事などを説いた。さらに兵士付きの奴隷のうち、戦う事を望む者は自由民とし、彼ら1人につき2人のローマ人奴隷を与えると約束した。カルタゴ軍の士気は大いに上がった。