明後日地球滅亡

文字数 3,105文字

 残念ながら明後日地球が滅亡します。これは確定事項なのです。言ってる俺も言いながらあぁ、マジで地球滅亡しちゃうのかとかそういう気持ちもあるけれども、これはほんとに確定してしまっているのである。まるで未来の出来事が、既に今日の時点で決められているのだった。
 んで、一介の地球人の日本人の大阪人のただの俺が、なぜ地球滅亡なんてことを言っているのかというと、これは俺個人が発言していることではなくて、他人の言葉の受け売りなのである。
 んで明後日の地球滅亡論を発している人は誰かと申しますと、それはかの有名な柊敦子(ひいらぎあつこ)氏なのであった。一体誰だそりゃ。俺はまったく知らなかったね件の女史なんて。て言っても、一部のオカルトマニアの間では伝説的な人気を誇るどうやらそういうお人だったらしいが、普通の人は全然しらない。それが、まさかその名を轟かした地球滅亡発言の数日後には、地球そのものが無くなっちゃうだなんて、女史も複雑な思いで変顔しちゃったかもしれない。
 女史が地球滅亡発言をしたのは今から5日前。なので滅亡の日から逆算すると1週間前くらいってことになります。
で、何故に彼女がそんなことを言ったのかと言うと、そういうお告げがある日夢で後光を差した神様から啓示があったってんで、すぐにベッドから飛び起きて自身のユーチューブやインスタグラムやトゥイッター等で発信したのである。んで多いに話題になったのである。
 だがしかしそんなものは、通常ならばただ単なるエンターテイメントの部類の話だったはずだ。所謂テレビ的な演出でいえば。だが、この柊敦子女史がそんな発言を出しちゃったものだから、オカルトマニア界には激震が走ったのだった。というのはこの女史、生まれてこの方預言を外したことがないっていうのだからこれが凄い。すべてというのはどれほどかというと、女史は日本で起こる大きな事件事故のみならず、世界で起こるもの、はたまた、過去に起きた歴史に残っていない史実でさえも見通せたというのだ。まぁ過去のことに関しては、今更確認の余地はないのであるが、少なくとも彼女の名前が世に出てからの発言に関しては、全て雑誌やテレビでの発言等がメディアにしっかりと記録が残っているのであり、それを確認する限りでは恐ろしいことに全て当たっていたのである。そして、女史はそういう確認作業についてはこの上なく協力的なのであった。むしろ、そういった確認をすることによって、預言の現実味を感じてもらい、自身の言葉に世間の人々が耳を傾け、何かの助けになることをこの上なく望んだのだった。
 そして、ここから更に続きがあるのであるが、この女史の能力については、これはオカルトマニア界でも洒落にならないと言われる話なのでこれまで公になってなかったのであるが、実は女史の予知はもはやそのレベルでは収まらないのであった。どういうことかというと、例えば人の次の瞬間を予測できるのだった。いや、意味が分からないが、つまりそういうことだ。
 件の地球滅亡発言を様々なSNSで発表するや否や、世間からは驚きとともに、懐疑の声が瞬く間に上がったし、そもそも誰も柊敦子女史の発言を真に受ける者は居なかった。ざわついたのは一部のオカルトマニアのみであったが、ここで女史は次の一手にでた。
 それはどういうことかというと、あなたの次の瞬間を予知します、というイベントだった。
 何をゆっているのか、一目ではよく分からない文言であるが、つまり内容は書いてある通りのことだ。あなたの次の瞬間の行動を予知してくれるらしい。そういうイベントを大阪のとある占いの館で開催することにした。それがまさしく今日だったのだ。
 イベント会場にはそれこそ物凄い人間の量が押し寄せていた。カップルや学生や社会人やおじいちゃんおばあちゃんまでが、そこに集結していた。どうやら県外からも来る人がいたらしい。そして俺も勿論こういう野次馬根性が発情してしまいすぐに足が向いた。皆が皆、ワイワイガヤガヤの楽しいイベントだった。イベントが開始とともに、一人約5分の持ち時間を与えられた。そこでその人は思いつくとおりの行動や発言等なんらかの行動を起こす。それを女史がすべて言い当てるといった趣旨だった。
 イベントが始まり会場の温度感はこの上なく高まっていった。一人また一人と女史に予知してもらうため、順に占い部屋に入っていったが、そこで何やら奇妙なことに気が付いた。
 会場の全員が全員、勿論何を気にするのかと言えば、その結果だった。つまり、5分間の予知が終わり出てきた客の反応なのであるが、その客たちが皆が皆一様に青ざめた引きつった顔で出てきたのだった。なんだか普通ではない。そして彼らは皆一様に、あれはやばい、と言った。そういう反応を見るにつけ、皆が皆、何か得たいのしれないものを感じてくるのだった。徐々に会場全体が奇妙な緊張感に支配されていた。そして、いよいよ俺の出番となった。
 部屋に通されると俺は挨拶をしようとした。そして名前を言おうとすると、女史がその発声の前に俺の名前を言った。
 「三谷健太郎(みたにけんたろう)、28歳。大阪府大阪市天王寺区出身ですね」
 俺は、突然のことに何も発声できなかった。できなくて、しかも咄嗟のことで頭が真っ白くなりどうしようか分からなかったので、ほとんど無意識的に顔が右に向こうとする前に
 「あなたの顔は右を向く。あなたの口角の右は上がったままです。それから、フラフラと二歩後退して、足がもつれてこけます。それから両手を後ろにつきますが、その両腕も力が入らないため、後方にへたり込みます。そうすると寝転がった頭が丁度、スタッフさんの顔を見上げる形になって、眼が合い、思わずにこっと笑ってしまいます。それから…」
 俺は、その通りの動作をした後、スタッフの顔に向かってニヘラ笑いをしたところで、記憶がなくなった。
頭がパンクしてしまい、気を失ったのだった。その後すぐにスタッフの人に起こされた。このように、女史は会場に来たすべての客に対して件のような予知をし続けた。そして、会場から観客がいなくなるころには、柊敦子女史の予知に関して疑問を呈するものは誰一人いなくなっており、その驚くべき状況は瞬く間にSNSに拡散された。そして、それはつまり明後日地球滅亡することを意味しているのだった。その事実を日本全国民が付きつけられ、全員が全員、真顔になった。
 そういう訳で、明後日が地球が滅亡することは確定事項なのだった。だがしかし、件のイベントのときは、全ての行動が当てられたという衝撃と、地球が滅亡するという衝撃で頭が真っ白になってしまったものだが、よくよく考えてみると、それは何も俺だけの話じゃなく滅亡するのは全員一緒なので、何も俺だけが死んでしまって、残りの人生勿体ないという思いにかられるわけでもない。皆一緒に平等に消えるのなら、それはそれで仕方ないしまいっか、という気持ちに今は思っているのである。そういう境地には世の中の人も既になっていたようで、SNSでは『明後日地球滅亡まじうける』とか『地球滅亡2日前のランチ』だとか、地球滅亡までのカウントダウンに引っかけたタグやトレンド等がネットを賑わす等して、まぁそれはそれで世間はイベント的な気持ちでそれぞれがそれぞれの過ごし方を行っているのだった。とりあえず、俺も最近帰ってない実家に戻ってみようかな、とか、最近結婚した好きだった同級生の子のとこに顔だしてみようかなとか、そういうことを考えていた。
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