Alcest - Délivarance あの時の私へ

文字数 2,704文字

 Alcestを知ったのは、ニコニコ動画だったでしょうか。禍々しく寒々しいブラックメタルの中でも異質な、切なくて泣けるブラックメタルバンドの様にAlcestが紹介されていました。
 ヘヴィメタルかどうかも疑わしい様なふわふわとした夢見心地のサウンドが印象的ですが、何曲か違うアルバムの曲を聴いていくと、トレモロギターや加速する静かなビートはブラックメタルらしいなと思いました。厳密にいうと、ブラックメタルからさらに派生した、ポスト・ブラックメタルという物かもしれませんが。

 そもそも、なんでブラックメタルなんか聴き始めたのかといわれても、それはよく覚えていません。
 元々はHelloweenが好きで、エピックなメタルを紹介するサイトやブログもよく見ていたのですが、気が付くとデプレッシブ・ブラックメタルなんかを時々探して聴いていました。エピックなメタラーからするとまるで意味の分からない世界でしょうけど、個人的には大仰な抑揚のない暗い雰囲気が非常にBGMとして有効で、負の感情からエクストリームメタルを聴き始めた事も有ってか、落ち込むほどに馴染む音楽とも言えます。
 ……その最初のきっかけはチルボド、やってられない事だらけの大学生活で手を出した、最初のメロデスであり、グロウルが聴ける様になったきっかけでした。
 そして、ある時動画共有サイトで見つけたImpavidaなる謎のデプレッシブ・ブラックメタルバンド……最近になって公にYoutubeにも出てきましたが……例えるならマルチクリエイター系のYoutuberが作るホラー系動画のBGMみたいな物が延々と続く、そういうタイプの曲でした。しかし、その暗黒の中に、まるで黒いドレスにたっぷりとあしらわれた同じ色のトーションレースのような美しさを感じる物が有ったりするので、それが非常に印象的だったのです。

 そうして最終的に行き着いたAlcest、洋楽メタルをリアルタイムに追いかけなくなって久しい今でも、ずっと追いかけているバンドのひとつです。勿論、久々に聞くとやっぱりメタルは大好きだし、Judas PriestのHellionからElectric eyeの流れは神がかっていると思うものの、本格的に執筆を始めた五年ほど前から、聴く機会が減った事に加え、日本的な物への回帰が著しくなり少し離れていました。
 そして……Helloweenは伝説を残したヴォーカリストのキスクと、その当時を共にしたカイを迎えたお祭り編成での活動をしていますが、正直デリスの歌うHelloweenが最初の私にはピンと来る物が無く、そちらの勢いでGamma Rayの活動は休止になるし、Dragonforceはメンバーが抜けたかと思ったら、新体制整うどころから世界中が騒動になるし、チルボドもアナウンスは無いものの、体制的に解散したも同然……好きだったバンドをそれ以上追いかける理由が無くなってしまいました。
 ただ、ヘヴィメタルの歴史は長く、その発祥となったハードロックには、まだヒッピーの文化を感じるような時代まで遡る物が有ります。Deep Purpleのベスト盤を聴いていると、ヒッピースタイルのレトロな情景と、怪しげな葉っぱの香りを感じます。そしてそれ以降のヘヴィメタルの中にも、まだ十分に聞けていないバンドが沢山有ります。だから、新しい物を追いかける以外にも、まだ知らない世界は沢山有ると言えるでしょう。

 ……ヘヴィメタルから少し離れて、ボーカロイドや、かつて好きだったバンドのアルバムなど、様々な音楽に触れました。その過程で、私をメタルの世界に進ませたきっかけであるX JAPAN、いや、エックスも聴き返しました。しかし、それでも私が、自分の葬式で流してくれとまで言いたいのは、やはりAlcestの曲です。
 歌詞がフランス語で、日本人的には全く分からないのが良かったのかもしれませんし、そもそもが反キリスト教思想であるブラックメタルで、キリスト教文化的な唯一神的価値観がない事に共鳴したからかもしれませんが、執筆に打ち込んでいる間にも聴いていた唯一のヘヴィメタルが、このバンドでした。
 そして此処で取り上げた『Délivarance』は、一番ヘヴィメタルらしからぬ雰囲気のアルバムの最後を飾る曲です。曲が長すぎて単品で購入出来ないなんて言う悲劇に見舞われておりますが、それでも一番好きなのがこの曲です。タイトルを訳すなら、開放、でしょうか……全てを洗い流す様な清々しさのある曲で、もはやヘヴィメタルのかけらも無い様に聴こえますが、れっきとしたポスト・ブラックメタルバンドの曲です。

 運命の出会いっていうのは、そう何度も無いでしょう。最初の出会いはエックスで、次がラジオから流れていて知ったHelloween……三度目の運命の出会いがあっただけ、幸せかもしれません。

 ただ……私は今でもヘヴィメタルが大好きです。
 十年前に出されたHelloweenの『7sinners』を、多分在庫の最後の一個の所で、殆ど衝動買いに購入したのが今年の事です。勿論、全部聞きましたし、三曲目からの流れが神がかっていて、冒頭の熱の入り切らない微妙な曲や、狙いすぎていてかえって面白くない二曲目が残念に思われたほどです。往々にして、このバンドの名盤はトップにキラーチューンが入るか、初っ端は序曲で二曲目がキラーチューンだと思っていますし、メタルアンセムというのは変に狙ってはいけないと思っている物でしてね……Gamma Rayの『Heavy metal univers』みたいに弾け飛んでいるか、HellionからのElectric eyeの様にただただに名曲か、メタルアンセムというのは大体そのどちらかでこそいい物だと感じるのです。

 ……そう、今でも大好きで、聴かなくてもずっと私に残っている物、それがヘヴィメタル。
 私の牙その物であり、創作の原点。これを失うくらいなら人間やめた方がいいとまで思った反抗の象徴。失う物かと誓った高校を卒業した時の私に伝えるとしたら、こう伝えるでしょう。
 クソみたいな人生だけど、失うまいと思ったその牙は、静かに研がれ続けている、と。

 グレゴリオ暦2020年、和暦令和二年、皇紀にして二六八〇年。星占いとオカルトの方面では、新たな時代が到来すると騒がれているこの年末……あの時失うまいと誓った牙は、また新しい形で研ぎ澄まされていると言える様に、これからも作品を作り続けたい、言葉を綴りたいと思います。
 そして、それを以て、この一連のエッセイを完結させたいと思います。
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