第1幕 Introduction

文字数 982文字

とある事務所内。局長がデスクで新聞を読んでいる。ドアをノックする音。

はい。

制作部の上尾ですが。
(新聞を閉じて)あー、入りたまえ。

失礼します。

おぅ。すまんな、突然呼び出したりして…。

いえ、ちょうどロケが終わったところでしたから。


しかし、局長じきじきに、どーいったご用件でしょうか。

どーいったも、こーいったも……。


実はな、今日ここに呼び出したのは他でもない。あまり大きな声では言えんのだが……。


まぁ、まずはこれを見てくれ。(何枚かの資料を手渡す)

(受け取った資料に目を通して)0.1、0.03、0.01……。


何ですかこのグラフは?

分からんかね。その線と数字が何を意味しているのか…。

まさか……。

そのまさかだよ。ここ数ヶ月の我が「クリスチャンネル」の月間視聴率の推移だ。

はぁ……。

まぁ、君も重々承知のこととは思うが、我が弱小ケーブルテレビ局は、クリスチャン人口が多少なりとも増えたとはいえ、もともと非常に少ない限られた視聴者をターゲットにしているわけで、ある程度の覚悟はできていた。


しかし、しかしだ。


この数字は何だ。ぇえ!? いまどきテレビ〇〇でも取らんぞ、こんな数字。

はぁ……。

はぁ、じゃ済まんのだよ、はぁじゃ!


いいか?


これはこの「クリスチャンネル」にとって、局の存亡がかかった大問題なのだよ。

は、はい……。よく分かっています。

いいや、分かっとらん。局内の誰一人として分かっとらん!

しかし……そうはいっても……。我々に一体どうしろと?

そうだ。そこで、だ。


かつては局内随一の敏腕プロデューサーと呼ばれた君の腕を見込んで、一つお願いしたい。

はい……。

この危機的、末期的状況を打開するために、起死回生、一発逆転ホームランとなるような、特番を撮ってもらいたいのだよ。

特番!?

そうだ。ネタはやはりクリスマスがいい。我々にとっては一番の売りどころだ。

クリスマス? しかし……いきなり言われても。他の番組との兼ね合いもありますし…。


第一、予算の問題も……。

我々も一蓮托生。死なばもろともだ。

局長……。一蓮托生は仏教用語ですが……。

あほぅ!! この期に及んで神も仏もあるか!


我々の運命もそれに託すしかないと、そう言っとるのだ。


いいか? 今年の年末が運命の別れ道だ。


もし仮に、これがコケるようなことがあったら、その時はわしら全員クビだ!

ま、マジすか!? 

マジもマジ、大マジだ。頼んだぞ!


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登場人物紹介

上尾士郎(かみお・しろう)


 テレビ局「クリスチャンネル」のプロデューサー。視聴率が低迷する同局の危機を克服するため局長から特番を任される。

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