第23話 新宿ロケハン紀行(2)幸せの資格
文字数 3,635文字
詩音は高校入学を1年遅らせたほどの虚弱体質で、その上入学後しばらくは保健室登校だった。
その彼女をこの鉄研に招き入れたのが総裁たちであった。
そのようにもともと体の弱い彼女なのだが、鉄研では模型の腕と見識ではリーダー格であり、また総裁たちがなにかするときに強い心の支えとなってくれる。
1年年上なだけにみんなのお姉さんとしての安定感がある。
それゆえ総裁が「癒し系正規空母」を彼女を呼ぶのもたしかにそうなのだ。
その豊かな胸に抱きとめて「充電」するのも今やいつものことなのだが、彼女が豊かなのは胸だけではない。
でも、それがどんなに素晴らしくても、母の代わりにはならない。そのことを感じてしまうことに、わたくしは自分を責めてしまうようになりました。
普通の幸せのなんと尊いことか。きっとわたくしにそれは手に入らない。
模型を作ることの幸せはあるけれど、誰かと愛し合い、普通に子供を授かる幸せはきっと無理なのです。
十分幸せなはずなのに、そう思ってしまう。欲が深いとわたくしは自分が嫌になります。
それぞれの所与にあわせて、それぞれの未来を夢みて、それぞれに手に入れるだけであるのだ。
それゆえに夢も未来も命も、みな尊いのだ。
その目の前の新宿1号踏切を、また電車が車輪をきしらせながら、ゆっくりと通り過ぎていく。