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文字数 14,351文字

 英司と綾美の二人は、国道122号から少し東側草加寄りのそれ程広くない道路を川口方面に向かって進んでいた。周囲にはそれ程大きい建物も無く、また造園業が盛んな地域だったのか、造園業者の看板や、花を育てる為の温室の他、立派な生垣がある家が多かった。少し西側に行けば整備された住宅街が広がっているのに、ここだけ緑が残っているのが不思議だなと二人は思った。
「分かれた三人は大丈夫かな?」
 綾美が小声でそっと小声で英司に囁く。
「敵がこっちに来る事を知らせてくれるんだから大丈夫だろう。とにかく、俺達は前に進もう」
 英司が話を切り上げるように答えると、二人はそのまま前に進んだ。今の所敵の気配は無いが、在らぬ所で敵が待ち伏せしているかもしれない。だから可能な限り慎重に進んだ。
 長い坂を登り終えて下の方の住宅街に目を凝らすと、坂の下の交差点に手回り品を持って逃げてゆく避難民の姿が見えた。きっと何処かの公民館にでも逃げ込むのだろうが、後一時間もすればこの辺りに安全な場所はなくなるだろう。そしてそのまま視線を道路の先に持ってゆくと、澄み切った青空を背景にした川口駅前の高層マンション群が見えた。まだ距離があるが、手が届かないほど遠いという訳ではないようだ。さらに東の方の空へと視線を移すと、陸上自衛隊のヘリコプター編隊がこちらに向かっているのが見えた。
「今なら敵が追いついていない。急ごう」
 英司がそう漏らすと、二人は足早に坂を下った。そして避難民の居た交差点の所まで来ると、突然乾いた音が当たり一面に響いて、何かが弾ける音と共に足元のアスファルトが吹っ飛んだ。英司は咄嗟に綾美の腕を掴むと、そのまま全力疾走で交差点角の潰れた商店のゴミ置き場に隠れた。
「ようやく市街地に入ったと思ったら、敵が撃って来やがった」
「待ち伏せされたの?」
 綾美がやや興奮気味に尋ねると、英司は落ち着いた様子でこう答えた。
「違う。俺達を追ってきた奴が居るんだ。どんな奴かは想像がつくけど」
 英司はM24の安全装置を解除してスコープのレンズ保護キャップを外すと、建物の壁越しにまとわり着くような生暖かい視線を感じた。それは壁や服などの人工物を通り抜けて体内に射精された精液のように形を変えて、彼の周りに粘っこく纏わりつき、内側に侵入しようとしてくる。どうやら最悪のストーカーが自分達を付けねらっているようだが、ここで奴に負けるわけにはいかない。意地でも奴に勝利して、もうすぐ手に入る未来を、自分が変われた証拠を掴み取ってやる。
「英司、大丈夫?」
 綾美が英司の顔を覗きこんで呟いた。どうやら無意識のうちに表情が険しくなって、綾美にあらぬ不安を与えていたらしい。
「なんでもないよ、ちょっと考え事をね」
 ぎこちない言い方で英司が答えると、綾美は少しだけ緊張の糸が解れたような気がした。
 英司はジャケットのポケットから、美鈴から借りたコーナー確認用の手鏡を取り出して、自分達がさっきまでいた辺りを見てみたが、鏡が小さいせいでよく確認できず、人影らしい姿は無かった。可能なら向こうを向いて狙撃銃のスコープでじっくり観察したかったが、姿を見せれば撃たれてしまう。だが幸いにもこの商店から川口方面に伸びる道路沿いには建物が連なっている。逃げるなら敵が移動する今のうちだ。英司は肩から提げていた9mm機関拳銃と予備の弾倉を綾美に手渡した。
「よし、逃げよう!」
 英司は綾美の手を引くように叫ぶと、そのまま一緒に街の中へと消えていった。


 川口市上空を飛行しているOH‐1偵察ヘリコプターの操縦席に座る竹之内清彦一等陸尉は、国道122号川口ジャンクション基点に、川口市西側に展開しつつある敵部隊を視認すると、そこから草加方面へと展開する中隊規模の敵部隊も視認した。
「竹之内一尉、東側にも敵です」
 後部座席に座る西岡健吾三等陸尉が座席越しに叫んだ。
「ああ、こっちも確認した。ちょっと旋回するぞ!」
 竹之内はそう答えると、機体を一気に右旋回させて、機首を草加方面に向かせた。日本の航空技術の粋を集めた初の純国産ヘリは、世界でも指折りの高性能ヘリであったが、機体の整備も満足に行えず、さらには各部への負担を軽減する為に非常時以外の急旋回なども行わないように防衛省から通達が出ているような現在の状況では、折角の高機動ぶりも敵に見せる機会が無かった。竹之内は草加方面に展開する敵部隊の真上に来ると、さらに機体を左旋回させて、敵の上を横切るように飛んだ。規模は一個中隊程度、装甲車が何台か居るものの、重火器は装備していないようだ。地面の豆粒のように小さい敵兵はこちらに向かって銃口から小さい火の花を咲かせているが、こちらへの命中弾は無かった。
「急旋回を繰り返したら、また整備班長に文句言われますよ」
「構うもんか、こっちは防衛出動なんだ」
 竹之内は西岡の文句を軽くあしらうと、無線を中央即応集団司令部に繋いでこう言った。
「木更津12より司令部へ、現在国道122号西側に一個連隊規模の敵が展開中。さらにその反対側草加方面に敵一個中隊が展開し、現在東京に向かって進出中」
「了解木更津12。西側の敵部隊は第一空挺団が相手をする。貴機は上空に待機し、前線航空管制にあたれ」
 無線の相手がそこで切ると、竹之内も無線を切って第一空挺団が展開するまで上空待機に入った。対地攻撃用の兵装が取り付けられれば、挨拶代わりにロケット弾をばら撒いて行きたいのにな、と竹之内が考えていると、突然味方の航空無線が彼の耳元に入ってきた
「ハンマーヘッドより木更津12へ、こちら情報本部の岡谷三佐だ。展開している敵部隊のほかに、武装した人間は見なかったか?」
 突然の質問に竹之内はちょっと驚いたが、彼は慌てずにこう返した。
「こちら木更津12、ハンマーヘッド、そのような人間は確認していない」
「すまないが確認してくれないか、重要な情報を持っているんだ」
 岡谷の要請に竹之内は小さく舌打ちを漏らしたくなったが、それをグッと堪えると高度を少し下げて、機首を再び西側に振った。敵に捕らえなれないように少しずつ速度を上げて、敵の侵攻ルートの先を飛んだ。既に街に人の姿は無く、無人の家とマンションが立ち並んだその様子は、さしずめ墓の上を飛ぶスズメのような気分だった。鳥瞰するとはこの事を言うのだろう。こんな無機質な人工物の集合体に人々が住み込んで社会の歯車を動かしていたと思うと、竹之内は人間なんてちっぽけな存在なのだなと思った。
 すると、真下の道路を複数の人影が道路を横切るのが見えた。が、高速で飛行しているせいか、すぐにマンションの陰に隠れて見えなくなってしまった。敵の斥候班だろうか、しかしそれなら徒歩より車両で移動した方が、道の広いこの辺りではいいのではないだろうか?と竹之内は思った。
「今の見たか?西岡」
「見ました、人影が三人。避難民では無いようです」
 その返事を聞くと、竹之内は岡谷に無線を繋いだ。
「木更津12からハンマーヘッドへ、川口西でそれらしき人物を確認。だが敵か味方か不明」
「ハンマーヘッド了解。木更津12へ、感謝する」
 岡谷はそう無線で答えると、SH‐60Kの機長席に座る嶋野一男三等海佐に向かってこう叫んだ。
「川口西に向かってくれ、敵より先に見つけて保護したい」
「正気か?敵か味方か分からんのだぞ。それにお前さん達を下ろせるような広いスペースもない」
 嶋野が反論したが、岡谷は構わずにこう続けた。
「もし敵ならその場で始末すればいい。街の上を低空飛行するだけで構わんからやってくれ」
 岡谷の言葉に嶋野は渋々承諾すると、機体を左にバンクさせてじわじわと高度を下げていった。ふわっと体が軽くなるような感覚がして、そのまま体が左に傾いたまま下に落ちそうになると、近くのストラップを掴んだ。景色が物凄い勢いで左に流れ、開け放たれた機体側面のドアから風が吹き込んでくる。空挺レンジャー出身の岡谷にとっては懐かしい感覚だったが、一般隊員上がりの中田にはきつそうだった。
 ヘリが高度150メートルまで降下すると、岡谷は双眼鏡を取り出して眼下に広がる街を覗き込んだが、連絡にあったような人影は発見できなかった。魚崎とセンサーマンの鶴野二等海曹も肉眼で捜索を試みたが、やはり見つけることは出来なかった。
「もう少し高度を下げてくれないか?」
「無理だ。これ以上下降したら……」
 そう嶋野が言いかけたその瞬間、副操縦士の遠野二等海尉が九時方向の二車線道路に、重機関銃を搭載したトラックを一台見つけた。本来はこのヘリの搭乗員数は四人だったが、人員不足で偵察員兼センサーマンが一人しか居なかった。
「九時方向の道路に敵車両!」
 遠野の叫び声を聞いて岡谷がその方角に双眼鏡を向けると、白い日産・アトラスの荷台に乗った兵士が、射手に何かを指示しながら旧ソ連製のKPV重機関銃の銃口をこちらに向けているところだった。
「まずい!14・5mm機関銃だ!!こっちに狙いを付けてる」
「鶴野!敵を倒せ!!」
 嶋野が叫ぶと、たった一人のセンサーマンである鶴野三曹はドアガンとして搭載されている74式車載機関銃に着こうとしたが、それよりも早く敵のKPV重機関銃の銃口から火が吹き、シーホークに向かってオレンジ色の曳光弾が飛んできた。何とか鶴野が敵に向かって撃ち返したものの、敵に当たる前に敵の放った14・5mm弾がシーホークの左エンジンと燃料タンクを撃ち抜き、さらにもう一発の弾丸が操縦席に当たって、副操縦士の遠野を上半身ごと吹き飛ばした。操縦席の左半分が遠野の血と肉で真っ赤に染まり、千切れた肝臓と腎臓の一部が宙を舞って、嶋野の膝の上辺りに落ちてくると、鶴野が操縦席の惨状を目にして気違いじみた悲鳴を上げた。
「馬鹿野郎何ビビッってるんだ!撃ち帰さないとお前もああなるぞ」
 岡谷は鶴野に檄を飛ばしたが、初めて人間が粉々になる瞬間を目にした鶴野は顔から血の気が引いて、口を半開きにしたまま震えて答えなかった。
「畜生!使えねえ奴だな!!ヘリはまだ飛べるか?」
「エンジンをやられた。まだ飛べるがそう長くは持たない!」
 激昂する岡谷に対して、嶋野は出来るだけ冷静に答えた。だが、その彼も吹き飛ばされた遠野の死体を見たときの衝撃を抑えるのに精一杯だった。計器板は油圧低下と燃料漏れ、さらにエンジン異常を示す警告灯が点滅し、機内には警告音が引っ切り無しに鳴り響いていた。
 顔面蒼白で震える鶴野に業を煮やした魚崎は、身体を固定していたシートベルトを外してドアガンに取り付こうとした。しかしその瞬間、機体にガンという鈍い音と強い衝撃が加わって、機体が一気に前のめりになった。魚崎は目の前にあるストラップを掴んでどうにか持ちこたえたが、身体を固定していなかった鶴野は何が起こったのかも分からずに、そのまま開け放たれたドアから放り出されてしまった。落ちる瞬間鶴野の最後の叫び声が聞こえたような気がしたが、すぐにその声も異常をきたしたエンジン音と入り込んできた黒煙によってかき消されてしまった。
「テールローターの駆動シャフトをやられた!墜落するぞ!!」
 嶋野がそう叫ぶと、彼らは近くにあった手すりやストラップに捕まり、頭を低くして衝撃に供えた。嶋野が無線で被弾し墜落する事を報告すると、ヘリは近くのアパートの二階付近に機首をぶつけて、そのままテールローター部から尻餅を着くように二車線の道路に落ちた。機内の岡谷達はどうにか無事だったもの、操縦席の嶋野は機首をぶつけたときに身体を押しつぶされて即死したようだった。死体の回収は多分後になるな。と機長席の後ろに居た岡谷は思った。
「みんな無事か!?」
 岡谷は中田と魚崎に向かって叫んだ。
「何とか生きていますよ……ボス」
「俺もだ。この状況で助かったのは奇跡だな」
 岡谷の言葉に、中田と魚崎が苦しそうな声で答えると、岡谷は痛む身体に鞭を入れて機外に出た。中田と魚崎が少し送れて機外に出ると、岡谷はHK416A7の安全装置を解除しながらこう言った。
「とにかく、地上には降りられたな」
「何とかね、でも敵のど真ん中に降りちまった。どうにかして味方の所までたどり着かないと」
 魚崎が続けると、岡谷は彼に向かってこう返した。
「それよりもまず、情報所持者を見つける方が先決だ。山内の命に代えても残した情報を持って帰らないと」
「確かに、でも俺達の安全確保も忘れないでくれよ」
「分かっている。行くぞ!」
 岡谷が威勢よく声を上げると、三人は地獄の中へと駆け出して行った。
 


 なだらかに続く坂道を下り終えて、英司たちが隠れていた商店のゴミ置き場のところまで来ると、海下は持っていた拳銃をホルスターに収めて、川口方面に伸びる道路の先を眺めると、大小の様々な建物が雑草のように密生している。地図によればここから東京まで四キロしかない、海下は身軽になる為に身に着けていたギリースーツを脱いで、狙撃銃と拳銃、それにナイフだけの装備にした。自分を覆い隠していた物がばたりと落ちて心が裸になったような気分だ。
 この向こうにあいつが居る。自分には持っていない物を持っているあいつが。海下はそう胸の中で呟くと、英司への想いが再びこみ上げてきた。それは恋とも憎しみでもない、透明でどんな色にも染まっていない純粋なもので、状況や感情によって憎しみにも愛情にも変わる。人間が生れ落ちた時に動き出す、人間を動かす為ためだけに使われる何かによって、今の彼女は精神と肉体を支配されていた。今の私には守りたい人も居なければ、成し遂げたい使命も、叶えたい夢も無い。ただ命令で動くだけの存在だ。どうして何時もこうなのだろう。普通の人は普通に会話をして自分の気持ちや表現したい事を相手に伝える事ができるのに、私はいつも言葉が形成されずに別の方法でそれを表現しようとする。普通にしたいのに、その方法がどうしても分からない。だから私は未だに仲間と言うものを主観的に認識できないし、愚かで醜い女のままなのだ。そう思うと、自分に対して激しい憎しみの感情がふつふつと沸き上がって来る。殺したいほど憎い。この世の誰よりも、自分が憎い。
 もし英司を殺さずに捕まえたらどうしよう?武器を奪って身体を拘束し、彼が動かなくなるまで執拗に暴行を加えて嬲り殺しにするか、それともあいつの唇を奪って、自分には無い何かを取り込めるまで彼の目を見つめていようか。そうしたらきっとあいつは暴れるだろうが別にそれでも構わない。彼を前にしたら、何をされてもそれでいいような気がする。もうあいつは他人じゃない。突然目の前に現れた自分の半身だ。だからあいつさえ居なくなればもう一人の自分を否定できるし、あいつを捕まえたら足りない部分を補って自分は完全体になれる。あいつさえいなければ、私は自分の存在を肯定できるのだ。もしあいつがそのままでいたら、私はあいつが捨てたものの寄せ集めだ。私には心の奥底で通じ合う仲間も居なければ、掴みたい夢も無い。あいつと私は同じ場所に立っていたはずなのに、どうして……。
 海下は英司に対する気持ちを自分の中で増幅させながら、町の方へ足を進めた。

 寂れた商店街を東京方面に向かって走っていると、突然英司は再び背中に海下の気配を感じた。始めは気のせいだろうかと思ったが、そうとは思えない。吊るされて殴られた時の海下の視線が、今度は背中に張り付いた寄生虫のように不快なものになって自分に注がれている。きっと海下に自分の姿は見えていないだろうが、あいつが自分の事を考えていると言うだけで気分が悪くなりそうだった。
 英司は綾美を連れたまましばらく進むと、敵が追跡してきているかどうかを確認する為、身を隠せそうなボロアパートの階段を上がると、自分達が来た方向を双眼鏡で確認した。細々とした建物が並んでいるせいで何処に何があるのかよく分からなかったが、それは陸路を移動している敵も同じ事だろう。お陰でこっちは身を隠しながら先へ進める。コンクリートジャングルとはまさにこの事だ。西側の方に視線を移すと、さっき自分達の頭の上を通り越していった陸上自衛隊のヘリコプターの群れが川口西部に集まって、開け放たれた後部ランプドアから武装した隊員をロープで下ろしているのが見えた。すると、何処からか白い煙を吐く銀色のミサイルが一発飛んできて、左奥で隊員を下ろしていたヘリに当たると、前半分がぱっと赤い火球と黒煙に包まれて、そのままビルの間に落ちていった。それからしばらくすると黒煙が吹き上がり、遅れて衝撃波と爆発音が二人の所にもやって来た。
「何の音?」
 綾美が怯えたような声で英司に尋ねた。
「ヘリが落ちた。戦闘が始まったみたいだ」
 英司が無味乾燥な口調で答えると、二人の頭上を黒い何かが爆音と高周波音のデスメタルを奏でながら飛び去っていった。二人は一瞬身を竦めた後その黒い何かを改めて見ると、ロケット弾と対戦車ミサイルを搭載した。AH‐1S攻撃ヘリコプターが飛び去っていくのが見えた。いよいよ殺し合いが始まる。英司はそう思った。
「確か、あっちの方は美鈴たちが居るんだよね?」
「そうだよ」
「大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。あいつらとは帰ったら話したい事があるって言ってある。だから平気だよ」
 英司の言葉に、綾美は何も考えずに「そうだね・・・」と呟いた。
 二人が二階から降りると、前の道路から女の話し声が聞こえてきた。英司は綾美にその場に立ち止まるよう手で指示すると、慎重にアパートの影から外の様子を伺った。すると、二人の若い男女がバールを使って前の家のドアをこじ開けようとしていた。どうやら二人は火事場泥棒ならぬ戦場泥棒らしい。緑のジャケットを着た男の方はしゃがんでドアをこじ開けようとしていたが、女の方は手を休めて男の作業を眺めているだけだった。
「早くしなさいよ間抜け、今のうちよ」
「ちょっと待ってくれよ」
 女の方に急かされた男はバールの先でドアの鍵を壊そうとしていたが、中々壊れずにノブの辺りを傷つけるだけで、ドアが開く様子は一向に見られなかった。
「しょうがない。ここは諦めて他に移ろう……」
 と男が言ってドアを離れようとしたその瞬間、遠くでライフルの銃声が響いたかと思うと、緑のジャケットを着た男の胸がぱっと赤く爆発して、男はその場に倒れ込んだ。隣に居た女が金切り声を上げてバールを放り投げると、そのまま走って逃げ出してしまった。
「何!?今のは」
 綾美が悲鳴にも似た声で英司に尋ねると、英司はゆっくり彼女の方を向いて静かにこう答えた
「海下だよ、俺達を追ってきている」
 英司は一言だけそう呟くと、アパート一階の鍵の掛かっていないドアがないか調べ始めた。住人達は避難することで頭が一杯だろうから、恐らく鍵をかけていない部屋があるはずだろうと思ったからだ。そして一番端の部屋の鍵が掛かっていないのが分かると、ドアを開けてそのまま土足で部屋の中に入っていった。綾美もその後に遅れて部屋に入ってくる。
「どうするの?」
「窓から出る。その方が敵に気付かれない」
 英司が突き当たりの窓を開けて外に出ると、綾美も手すりを乗り越えて道路に出た。道路を左右に見渡してみたが、人影が全く見当たらず、古くなった住宅が森林の木々みたいに犇めき合っている。奇妙な感覚が英司は感じると、何故か綾美と一緒に山内の村を出発した頃の事を思い出した。
 綾美を守れるのは自分しかいない。初めて会ったときはそうではなかったかもしれないが、今は違う。彼女を最後まで守る。それが今の自分の全てだ。
 英司は胸の中で誓うと、再び綾美を連れて東京方面に走り出した。


 英司と綾美が海下の追跡に気付いた丁度その頃、川口市西側に自衛隊のヘリが墜落するのを目撃した房人達三人は、足を止めて墜落した方向の空を眺めていた。墜落した辺りには被弾した時の黒煙が尾を引くようにして空から伸びており、ビルの間からは埃が濛々と立ち登っている。
「何だ、今のは?」
 政彦が房人に呟いた。すると敵と自衛隊が交戦状態に入ったのか、銃声が引っ切り無しに聞こえてきた。
「ヘリが落ちたんだ。自衛隊の」
「あの高度じゃ生存者は居ないんじゃない?先を急ごうよ」
 美鈴が漏らすと、彼らは再び南に向かって進みだした。町の中は道路が縦横無尽に張り巡らされ、どこかに有り得ない様な近道が存在して敵に先回りされていないか不安になったが、少なくともこの辺りに敵はいないだろう。彼らを追っている敵部隊はずっと西の方で自衛隊と交戦状態に入っているから、戦力をこちらに割く余裕など無い筈だ。これで勝ちだ、最小限の犠牲で済んだぞと三人が思って交差点に差し掛かった瞬間、突然交差点左のほうからエンジン音が聞こえて、敵の兵士を乗せた73式大型トラックが目の前に現れた。三人は咄嗟に隠れてやり過ごそうと思ったが、トラックの後ろに乗っていた敵の兵士がそれに気付き、三人に向かって銃を撃ってきた。
「反撃しろ!!」
 政彦はそう叫ぶと、そのまま89式小銃の引き金を思いっきり引いて、トラックの荷台に向かって三点バーストで弾丸のシャワーを浴びせた。房人と美鈴も、ワンテンポ送れて弾丸を撃ち込む。反動で銃口が暴れ、まともに照準することさえ難しかったが、放たれた弾丸は荷台の兵士達の身体を打ち抜いて、殆どの敵を戦闘不能にする事ができた。そして房人が手榴弾ポーチからM67破片手榴弾を取り出し、ピンを抜き荷台に投げ込むと、三秒後に爆発して荷台の兵士達を粉々に吹き飛ばした。トラックは近くの電柱にぶつかって停まった。
 これで一安心だ。と政彦が安堵の溜息を小さく漏らしたその瞬間、突然運転席のドアが開いて、中から血まみれの敵兵士がマカロフを持って出てきた。政彦はその出てきた兵士に銃口を向けて引き金を引いたが、弾が出なかった。政彦は心臓が破裂しそうな感覚を味わうと、精神と肉体が完全に分離してしまったかのように体が動かなくなった。何も出来ないというのはこういうのを指すのかと思ったその瞬間、近くに居た房人がレッグホルスターから9mm拳銃を素早く引き抜いて、弾丸を三発敵に撃ち込んだ。倒れた敵兵は頭を吹き飛ばされて、マカロフを握ったままその場に絶命した。政彦は敵が脳味噌と頭蓋骨の破片を巻き散らしながら死んでいるのを目にすると、全身から汗が噴き出すのを感じてようやく落ち着きを取り戻した。火薬と血の臭いが彼らの鼻元に漂ってくると、政彦は自分の心臓がありえないほど早く鼓動している事に気付いた。
「済まない、借りが出来たな」
 政彦が弾倉交換しながら呟く。
「気にするな。今度からは弾切れに注意しろよ」
 政彦の不器用な感謝の言葉に、房人は軽く返した。美鈴はその様子を悔しそうな目で眺めていると、今度は反対側の角からKPV銃機関銃を載せた日産・アトラスが飛び出してきた。「敵襲!」と美鈴が叫んだが、それよりも先に敵のKPV機関銃の銃口が火を吹いて、14・5mm弾が三人の足元に飛んできた。衝撃波が剃刀のように彼らの身体を切りつけ、引き金を引く前に自分の体が粉々に引き裂けてしまうだろうかと思うと、荷台の銃架に乗った男の頭が吹っ飛んで、運転席側の窓ガラスが返り血で真っ赤に染まった。運転者を失い暴走する鉄の塊になったアトラスを三人が間一髪の所で避けると、そのまま73式大型トラックの後ろに激突して止まった。
「何なの一体?」
 美鈴が潰れたアトラスの運転席を眺めながら呟くと、直ぐ左側で何かが動く気配を感じた。慌てて銃を向けると、黒い人影が建物の影に隠れた。美鈴は建物の角に照準を合わせ、セミオートで二発引き金を引くと、弾丸か角に当たって壁のコンクリートを抉った。
「撃つな!俺達は敵じゃない。味方だ!!」
 突然角の向こうから、男の叫び声がした。房人と政彦も慌ててその方向に銃口を向けると、今度は房人が大声で叫んだ。
「誰だ、名前と所属を言え!」
「陸上自衛隊情報本部所属、三等陸佐岡谷一俊。君らは寺田の村から来た部隊だろう?俺達を信用してくれるか?」
 岡谷と名乗った男は淡々と答えた。口調からしてベテラン兵士に違いない。トラックを潰したのは彼だろう。と房人は思った。
「両手を上げて姿を見せろ!そうしないと撃つ」
 房人の言葉に岡谷は一瞬困惑したが、ここまでしつこくするという事は恐らく寺田の村から来た者で間違いないだろう。若いのにしっかりしている。
「分かった。両手を上げてそっちに行くから撃たないでくれ」
 岡谷はそう答えると、抱えていたHK416A7とレッグホルスターに収めていた拳銃を中田に渡した。
「ボス、危険ですよ」
「大丈夫だ」
 岡谷は中田にそう吐き捨てると、まず何も持っていない両手を角から出し、そのままゆっくりと前に出て房人達の前に出た。岡谷は彼ら三人のまだあどけない顔に少し驚きつつも、その目に宿った兵士の眼差しを見て、彼らが本物である事を実感した。
「そのまま前に二歩進んで跪け。美鈴、身体を確認しろ」
 房人が銃を構えたまま言うと、岡谷は黙って前に歩くと跪いた。美鈴が素早く近づいて簡単なボディチェックを行った。武器は左肩に付けたオンタリオ・マリンコンバットナイフと手榴弾以外に武器は持っていないらしい。美鈴がボディチェックを終えると、岡谷は戦闘服左肩に取り付けられた黒い日の丸のワッペンを見せ付けた。
「これで俺らを信用してくれるか?」
「一応は。さっき落ちたヘリに乗っていた人?」
「そうだ。生存者は居ないと思っていたか?」
「まさか本当に助けに来てくれるなんて、思っていませんでしたからね」
 美鈴は岡谷に向かってそう答えると、房人に「大丈夫みたいだよ」と叫んだ。房人は構えていた銃を下ろすと、小走りに彼の元に寄った。
「申し訳ありません。まさかこんな所に味方が居るなんて思わなくて・・・」
「気にするな、若いのにこれだけの事ができれば大したものだよ」
 岡谷は立ち上がりながら呟くと、脇に居た中田と魚崎を呼んだ。
「君らが例の情報を持った部隊か?」
「ええ、そうです。寺田さんの村から来ました」
 魚崎の質問に美鈴が答えた。
「それなら良かった。任務成功まであと一息だな」
 岡谷が中田から銃を受け取ると、後方警戒に就いていた政彦が、東の方から徒歩で移動してくる敵の歩兵小隊を見つけた。数はおよそ二十人、そのうちの一人が84mm無反動砲カールグスタフと弾薬を持っているのが目に入った。
「東から敵部隊!」
 政彦はそう叫ぶと、カールグスタフを担いだ兵士に照準を合わせて引き金を引いた。三点バーストで弾丸が発射されると、敵の胸部が真っ赤に染まって、そのまま前に倒れた。すると敵の銃声が一斉に鳴り響いて、敵の弾丸がこちらの方に飛んできた。
「弾幕を張って後退!移動だ!」
 岡谷が叫ぶと、その場に居た全員が敵に向かって銃を撃ちながら後退を始めた。ちょっとでも味方の銃声が多く聞こえるのは心強いなと思いながら、彼らは物陰に隠れた。
「ここから味方の展開している場所までどれ位ですか?」
 房人が岡谷に尋ねると、岡谷は向かって来る敵に撃ちながらこう答えた。
「ここから何キロも離れては居ないだろう。ナカダ!無線を寄越せ」
 岡谷は魚崎と後退すると、中田が背負っている無線機の受話気を手に取った。
「こちらハンマーヘッドの岡谷。木更津12、聞こえるか」
「木更津12からハンマーヘッドへ、聞こえるぞ、生きていたか」
「一応は、情報保持者と合流し現在敵と交戦中。済まないが敵の居ないルートを指示してくれないか?」
「そのエリアは現在第一空挺団と敵部隊主力が交戦中だ。敵の増援が東部から向かっている」
「俺達は敵に挟まれているって事か?」
「そういうことだ。味方のガンシップは空挺団の援護に一杯で手が回らない、自力で移動しろ」
「畜生!」
 岡谷は小さく漏らした。出来る限り感情を抑えたつもりだったが、それでも頭の中に溢れ出すアドレナリンを押さえる事が出来なかった。
「救出用のヘリを寄越してくれ。このままじゃ助けた奴らの今までが水の泡になっちまう」
「分かった、要請する。こっちは敵の動きをモニターして伝えるから頑張ってくれ。アウト」
 上から目線で勝手な事言いやがってと岡谷は胸の内で毒づくと、受話器を無線に戻してこう口を開いた。
「敵の増援が迫りつつある。俺達はこのまま東京方面に向かって脱出するからそのつもりでいろよ」
「救出のヘリとか車両は?」
 美鈴が尋ねた。
「救出は来るかどうか分からない、だから俺達で敵の包囲を突破する。弾薬は大丈夫だよな?」
「大丈夫。あと半分は残っています!」
「よし、移動だ!指揮は俺が取るから着いて来いよ。お前らさえ連れて帰ることが出来れば、大勝利だぞ!」
 岡谷が顔に笑みを浮かべながら漏らすと、房人はすぐ英司と綾美の事を思い出して、こう言った。
「実は、他にも仲間がいるんです」
 房人の言葉を聞くと、岡谷は体の芯から熱が冷めていくような感覚に襲われて、無心のままこう聞き返した。
「本当か、それは?」
「俺らの仲間が二人東の方から東京に向かっています。名前は神無英司と小林綾美、二人は山内さんの村から来た人間です」
「なんでもっと早くその事を言わない!?」
 岡谷は一瞬取り乱したような口調で叫んだ。彼の記憶が正しければ、あの辺りには装甲車数台からなる敵部隊が展開している。上の連中は側面援護か何かだろうと言っていたが、それにはあまりにも数が少なすぎる。しかし二人の人間を探し出す為の部隊なら、納得が行った。
「彼らと連絡は着くか?」
「分かりません。さっき通信した時は無線に出ましたけれど・・・」
 房人の言葉に岡谷は小さく舌打ちを漏らすと、再び中田の背負っている無線機を手にとってヘリを呼んだ。
「ハンマーヘッドより木更津12へ、東側に展開している敵部隊の様子は分かるか?」
「木更津12よりハンマーヘッドへ、東側の敵はさっき確認したが?」
「もう一度確認してくれ。そっちに情報提供者の仲間がいるらしい。発見しろとまでは言わないから、何か見つけてくれないか?」
 その言葉を聞いた竹之内は「冗談だろ」という言葉を喉の奥でかき消して、こう答えた。
「分かった、やってみる。あまり期待はしないでくれ、こっちは只でさえ忙しいんだからな」
 そこで無線を切ると、房人が岡谷に向かって「ありがとうございます」と小さく礼を述べた。
「礼は後だ。今は自分達の事を優先して……」
と岡谷が言いかけると、突然彼らが身を隠していたビルの壁が爆発音と共に振動し、砕け散った破片と粉塵が彼らを襲った。一瞬耳が何も聞こえなくなって魂が遊離したように前後左右の感覚が分からなくなると、次第に感覚がクリアになってきて、迫り来る敵の銃声が増えている事に気付いた。
「敵の増援がこっちに来るぞ!このままじゃやられる!」
 魚崎がMINIMIを敵に向かって撃ちまくりながら叫んだ。攻撃してくる敵には彼以外にも美鈴と政彦が加わって対応していたが、このままでは敵に押し切られてしまう。岡谷は中田と共に敵を撃ちながらこう叫んだ。
「交互に援護しながら五〇〇メートル後退だ!」
「了解!援護は任せて!!」
 房人が叫ぶと、六人はその場を離れて東京方面に向かった。

 川口市西部にヘリボーン降下した部隊を率いて戦う、陸上自衛隊第一空挺団の木下倫太郎三等陸佐は、敵の攻撃が予想していたよりもはるかに強力かつ組織的な物であることに驚きを隠せなかった。
「片岡二尉の小隊と連絡は付いたか?」
「はい、付きました。片岡二尉はヘリが墜落した時爆発に巻き込まれて戦死。現在の指揮は大山曹長が執っているそうです」
 木下の問いかけに無線手が答えた。木下は舌打ちを小さく漏らし、彼に向かってこう続けた。
「合流して戦闘に加わるよう伝えろ。敵の攻撃が思ったより激しい」
「了解、連絡します」
 無線手がそう答えると、木下は目の前で行われる戦闘に目を向けた。敵味方の銃声が入り混じり、コンクリートの壁に反響して耳が遠くなる。てっきりイラクの民兵組織のようにビルの陰からロケット弾でも撃ち込んでくるかと思っていたが、敵は予想に反して、戦闘車両に歩兵を随伴させて攻撃して来た。こっちには機甲科の支援無しだから、敵と同じ条件で戦闘するのは少々分が悪い。ヘリボーン降下した時はAH‐1Sヘリの援護が受けられたが、ミサイルとロケット弾を数発撃つと早々と引き返してしまった。
「戦闘ヘリは何時戻ってくる?上空の機関銃搭載のUH‐1Jでは支援にならんぞ」
「ヘリは今兵装システムの故障で戻っています。前の戦争で損耗した数も補充されていませんし、整備もまともに受けられませんから稼働率は戦争前の4割以下ですよ」
 副官の糸居明夫二等陸尉が答えた。彼は元々後方部隊の出身で、今回が初の実戦だったが、死の恐怖に怯えている様子は無かった。少年時代を死の恐怖と背中合わせで過ごした彼にとっては、この程度はもう慣れっこなのだろうか。
「ヘリが戻ってくるまで支援は無いか。空挺特科大隊はどうなっている?もう荒川河川敷に配備を終えた頃だろう。重迫の支援砲撃は何時受けられる?」
「配備は終わっている筈ですが、重迫は十二門しかありません、弾薬が不足していますが燃料不足のためヘリによる補給も不可能です」
「畜生、聞きたくねえな!」
木下が漏らすと、突然前方で爆発音が鳴り響き、パラパラと道路の破片や土が彼らの頭上から降ってきた。敵のロケット弾がどこかに当たったのだろう。傷ついた隊員達の断末魔の叫び声が聞こえてくる。
「前方より敵車両!」
 突然何処かの隊員がそう叫んだ。木下が道路の前に目を向けると、二〇〇メートル手前の道路を、周囲を歩兵に固められたMk19グレネードランチャー搭載の元米軍のM1151装甲車が突っ込んでくる。
「反撃しろ!01MAT前へ!」
 木下がそう叫ぶと、角から01式対戦車誘導弾の発射機を担いだ隊員がやって来た。
「装甲ハンビーを狙え、やっつけろよ」
 糸居に言われた隊員は、発射機の安全装置を解除して、ミサイルの弾頭部分に取り付けられた赤外線シーカーが冷却されるのを待つと、照準をM1151装甲車のボンネットにある放熱グリルに合わせた。その間に敵が銃を乱射しながら、道路の脇に沿って突進してくる。
「照準よし!」
「よし撃て!」
 MAT持った隊員が叫ぶと、木下が発射の命令を出した。発射機の後方から激しいブラストが吐き出されてミサイルが飛び出し、そのままロケットモーターに点火すると、ミサイルはそのままハンビーのボンネットに吸い込まれていった。直径3メートル程もある火球がハンビーを包み込み、そのまま腹を見せながらハンビーは轟音と共に仰向けに倒れた。その爆風はハンビーの脇に居た何人かの兵士が体を吹き飛ばし、そのうち一人は火球に飲まれて火だるまになった。
「よし、突撃!奴らを押し返せ!」
 木下が叫ぶと、ビルの陰から銃を撃っていた隊員達が雄たけびを上げながら敵の仲につ込んだ。銃声がより一層激しくなってくると、ハードロックにおけるギターのリフ音みたいに頭の中で反響して、脳味噌の奥からアドレナリンが弾けてくる。これが戦争の醍醐味だ。一度味わったら二度と忘れる事はできない。
 暴力装置の俺達をその気にさせたら、貴様らは有無を言わさず皆殺しだ。と、木下は胸の中で静かに呟いた。
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