第5話 トビーとはぐれる

文字数 1,336文字

 トビーとちいちゃんはドラゴンのいる山へとむかいました。メアリーさんがもたせてくれた靴下で作ったマントのおかげでもう寒くはありません。今は靴下のブーツをはいているので雪の上でもさくさく歩けます。
「トビーはドラゴンが怖くはないの?」
 ちいちゃんはトビーにたずねました。雪をふらせないでくれと頼んでくると大見得を切ったものの、ドラゴンがいるという山に近づくにつれ、ものすごく大きいというドラゴンが怖くなってきたのです。
「もちろん怖いよ」と、トビーは言いました。
「僕、ドラゴンを見たことがあるんだ。その時はドラゴンだってわからなかったけど、山をのぼって行くとげとげした不思議なものを見たことがあって、その時以来、雪が降るようになったから、きっとあれがドラゴンだったんだ」
 とげとげしたものとはドラゴンの背中についているギザギザのことでしょう。絵本で見たドラゴンは鋭い牙があって、とても怖そうでした。本物はずっともっと恐ろしいに違いありません。寒さに加えて、恐怖でちいちゃんは身震いしました。
 二人はなかなか山にたどりつきませんでした。もうずいぶん長いこと雪の中を歩いているのですが、歩いても歩いてもまわりは白い景色なので、ずっと同じ場所にいるような気がします。ちゃんとドラゴンのいる山にむかっているかしらと、ちいちゃんは不安になりました。
 トビーも同じ気持ちでいたようで、ふたりは同時に足をとめました。雪も風もやまず、それどころかどんどん強くなってきているようです。
「私たち、迷ったのかしら」と、ちいちゃんはつぶやきました。
「そんなはずはないんだけどな」
 トビーはピーターさんからもらった地図を取り出してみましたが、なにしろまわりは雪のせいで真っ白なので、地図にかかれた目印など見当たりません。
「雪を降らせているのはドラゴンなんだ。とにかく、雪の吹きつけてくる方向にむかっていこう」
 トビーがそう言うので、ちいちゃんは再び歩き出そうとしました。
 その時です。
 ふたりが立っていた地面がぐらりと揺れました。
 「地震!」と、ちいちゃんは叫びました。地震のときは慌てないで避難するのだと学校で教わりました。しかし、一面の雪野原のどこへ逃げたらいいのでしょう。おろおろしているうちに、ちいちゃんとトビーの体は雪の上にぽんぽんと投げ出されました。地面は揺れているのではなく、回っているのです。
「洗濯機が回りはじめたんだ! 急いでどこかへ隠れないと!」
 トビーは雪をほり、ちいちゃんの手をつかんで雪の下の穴の中へ逃げこもうとしました。
「洗濯機が回る時間だってこと、忘れてたや!」
 どうやらトビーが確認しなくてはいけなかったのは地図ではなく、時計だったようです。しかし、すでに遅く、トビーとちいちゃんの体はぽーんと勢いよく宙に投げ出されてしまいました。
 ぐるぐるぐる……
 お洗濯の間、どうやら洗濯機の中の世界は回り続けるようです。逃げ遅れたトビーとちいちゃんは手をつないだまま、ぐるぐる回り続けました。あまりにも長いこと回っていたので、ちいちゃんは目がまわって気持ち悪くなってしまいました。
 洗濯機の勢いは止まりません。あまりの勢いに、ちいちゃんはつないでいたトビーの手を放してしまいました。
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