第12話 サマーバケーション 前編

文字数 2,690文字

 駅を出ると、目の前は人、人、人。
 輝羅(きら)が強い陽射しを手で(さえぎ)り、細目を開けて商店街にごった返す観光客を見回した。

「あそこ、歩けるのかしら」

 駅前から2つの商店街へ通じているものの、どちらも通行人や食べ歩きの人たちでそこそこ広い道がしっかりと埋まっている。
 じゃんけんの結果、ミイナと一子(かずこ)が先頭に立ち、後ろを史緒里(しおり)(れい)、輝羅がついて行くことになった。

「混んでるのは店の前だけね。下村、どの店に寄るか決めてあるの?」
「暑いからねぇ。かき氷を食べて、あと有名なプリン食べて、じゃがバターと温泉まんじゅうと……」
「よし、じゃあ突入ね。店選びは任せるから」

 史緒里がミイナの肩を指でトントンと叩く。

「ひ、干物(ひもの)も見たいんだけど、いいかな」
「帰りにもう一回通るから、その時でも大丈夫? まさかここで食べるわけじゃないよね」
「ああ、うん。家族にお土産頼まれててね。父さんのビールのつまみになるんじゃないかと思ってさ」

 麗はいつの間にか道を()れて、甘い匂いのする店に吸い込まれていた。

「お姉ちゃん、シュークリームあるよ! すごく美味しそう!」
「麗、とりあえず戻ってきなさい。まずは下村の指示に従うの」
「はい……」

 まずはかき氷を頼んで……と思っていたミイナだが、暑いせいか店の前の道にはびっしりと、かき氷を食べる人たちの群れ。行列もできていて相当のタイムロスが予想された。

「えと、(みんな)、まずはプリンにしようか。結構並ばなきゃいけないから、大変なのは最初に行っておこう。ね」

 輝羅が含み笑いしながらスタスタと歩いて、迷いなくプリン専門店へ向かって行く。

「そうね。熱海のプリンは前から食べてみたかったの」

 並び順が変わって、輝羅を先頭にドラクエみたいな隊列で進む。プリン専門店に着くと、行列の後ろに警備員が看板を持って立っていた。

「あちらの建物に並んでお待ちください」

 道路を挟んで反対側に待機所が設けられていた。5人は横断歩道を渡り、待機所の中でじわじわと進む行列に加わる。

「下村、大丈夫なの?」
「仕方ないよね。熱海に来てこのプリンを食べないわけにはいかないから」
「そうじゃなくて、この調子じゃ字数が足りなくなるでしょ」
「なんの心配してるの……。どうせ後編に続くよ」

 そんなくだらない会話をしながら待つこと20分。ようやく店のカウンターで、ひとりひとつずつプリンを注文する。横の受け渡し口で受け取り、少し離れた場所で立って食べる。
 一子が恍惚(こうこつ)とした表情で声を上げる。

「うんまっ! 抹茶の味が濃くて……黒豆? も入ってる!」

 麗も史緒里もそれぞれ持ったいちごのプリンをスプーンですくい、笑顔で口に運ぶ。

「輝羅は何にしたの?」

 ミイナが(のぞ)き込むと、輝羅はスプーンですくったプリンをミイナの口に突っ込んだ。悪戯(いたずら)な笑みを浮かべて、輝羅はミイナの反応を楽しもうとする。

「これは……みかん?」
「オレンジって書いてあった気がするけど。なーんだ、もうちょっとビックリするかと思ったのに」

 輝羅が一転つまらなそうな顔をしたので、ミイナは自分のプリンをすくって輝羅の口元へ持っていく。

「モグ……これはコーヒーかな? そういえばミイナ、カフェオレ好きだったわね」
「うん。並んだ甲斐があったよ。すごく美味しい」

 一子がふたりの様子を見て目を見開き口をあんぐりさせていることに気付き、史緒里はフォローに入る。

「あのふたりは変な関係なんだよ。あまり気にしないことだね」
「そ、そう。き、きき気にしてないからダダダ大丈夫よ」

 麗は吹き出しそうになるのを(こら)えて、自分はこの三角関係みたいなのに関わらず過ごそうと心に誓った。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 その(あと)も商店街でじゃがバター天や温泉まんじゅうを食べて、腹5分目くらいになったところでビーチへ向かう。
 坂を(くだ)り長い階段を()りると、眼前に広く(あお)い海が現れた。遠くに見える水平線からは真っ白な夏雲がモコモコと生えている。

(みんな)、ビーチサンダルは持ってきた?」

 ミイナが()くと、一子以外の全員がビーチサンダルをカバンから取り出した。

「イッチー、忘れたの?」
「あれぇ、入れたはずなんだけどな。私が忘れ物をするわけ……」
「お姉ちゃん、自分のカバンに入らないからって、わたしに押し付けたじゃない。はい、これ」
「あー、そうだった。ありがと麗」
「けっこう嵩張(かさば)るんだから。お土産は自分で持って帰ってよね」

 一子は頬をぷっくりと膨らませ、礼儀を尽くしたのに小言を言う妹を牽制した。そのやり取りを眺めていた輝羅が笑いだす。

「仲が()いね。羨ましいわ」

 輝羅の言葉を聞いて、ミイナがすぐ一子に耳打ちする。

「イッチー、輝羅のお姉さんのことは聞いちゃダメだよ」
「そうなの? 分かった。何か事情があるのね……」

 うん、と(うなず)いたミイナの真剣な表情に、一子は口を(つぐ)む。

 5人はサンダルに履き替えて砂浜を歩き始める。不規則な波が押し寄せ、砂に水気を与えて引いていく。いち早く波の到達する場所に立った麗の足を濡らし、海水が通り過ぎていった。

「一瞬ひんやりするけど、ぬるい? って感じですね。ミイナ先輩もこっち来てくださいよ」
「ホントだね。きゃっ冷たい、ってなるかと思ってた」

 一子は仁王立ちで足に波を受け、鼻を鳴らした。

「当たり前じゃない。そんなに冷たかったら、海水浴中のカップルとかカップルとかカップルが凍えちゃうわよ」

 言われてみるとカップルが多い……、いや。家族連れや大学生のサークルみたいなのも相当いる。一子の視線フィルターはカップルしか通していないようだ。

 ミイナは思い切り空へ向かって両腕を伸ばす。大きく息を吸いこむと、潮の匂いが鼻から入ってきた。陽射しが強くてかなり暑いけれど、風は気持ち()いし気分は最高だ!

「よっし。イッチー、歩くよ」

 右手を取られて驚いた一子を引っ張り、ミイナは輝羅に近付く。

「輝羅も、ほら」

 差し出されたミイナの右手を、輝羅は左手で(つか)む。
 3人で一緒に砂浜の上、波を受けながら歩いて行く。ミイナが流行りのポップ曲を鼻歌で鳴らすと、輝羅も合わせて歌い出した。

 麗が3人を冷淡な表情で「何してるんだ……」と(つぶや)きながら見る。

「麗くん、ボクたちもアレ、やろうか」
「えっ?!」

 史緒里が麗の左手を取る。恥ずかしさで赤面する麗を、史緒里が手を握ったままエスコートして歩く。史緒里の悪戯(いたずら)の真意を測りかね、困った様子でついて行くが、なぜか麗の胸の鼓動は高鳴っていた。

「あら、こんなトコに紙が落ちてるわ」

 輝羅が砂浜に打ち上げられた紙の切れ端を拾う。ミイナと一子も紙を(のぞ)く。そこにはこう書かれていた。

『後編へ続く』
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