第1話

文字数 1,539文字

「こんにちは!本日は〝強面生徒を笑わせろ!選手権〟の現場、日本一の強面学園に来ております、アナウンサーの梶です」

「さすがの強面学園ですね。学園全体がすでに怖い空気を醸し出しています。廊下もギシギシと音を立て、怖さを増しております。この学園の中でもナンバーワン強面の3年D組へと入ります。今日はここで選手権が開催されますよ。ワクワクが止まりませんね」


ガラリ……


「さすがの雰囲気に体が震えております。どの生徒も、ザ・強面。1ミリも笑う感じがしません。私までも強面になってしまいそうです。あー、説明が遅くなりましたね。この選手権は挑戦者が登場して、この強面生徒を1人でも笑わす事が出来たら一億円が貰えるという選手権。いいですよね、一億円。私が獲得したら、浮気相手と宇宙旅行にでも……。そんな事はどうでもいいですね、ははは」


ガラリ……


「さぁ、1人目の挑戦者です。彼は何で勝負をするのでしょうか?」


男は教卓の前に立ち、深呼吸をした。
一発ギャグでもかますのか?
ドキドキ……


男はお歯黒の歯をいーっと出し、白目をむいてゲッツ!のポーズを決めた。

「ぶはっ!」

僕は絶えきれず吹き出した。
しかし、強面生徒たちは微動だにせず、余計強面になったみたいに感じた。


「はい、残念!また来年お待ちしていますね。はい、次の挑戦者の方どうぞ」


次の挑戦者はサングラスをはめた、いかにも怪しそうな男だ。
黒い服を纏い、マジシャンか何かに見えた。
男はある生徒を手招きし、教卓横の椅子に座らせた。
「ハンドパワーでこの生徒を浮かせます」
そう言って、まくった両手を前に出した。

念力を使って生徒を浮かす?
そんな事が出来るのか?いや、そんなんで笑わせれるのだろうか。
ドキドキ……


生徒は1ミリも浮いていないが、男のカツラが3ミリ程、浮いた。段々と上へと上がっていく。
え?カツラが浮いてるよ?
気付いているのか?

「ぶはっはっはっ!!」

僕は男の頭部を指差しながら、笑い転げた。
生徒たちを見ると、誰もまた微動だにしていない。すげぇな、こいつら。
ピキッと青筋を立てている生徒もいる様だ。

マジシャンの男のカツラは窓からやってきた風により、ふわりと舞って廊下へと逃げて行った。
「ま、待ってくれ〜!!」
男は必死に廊下を駆け抜けて行った。

「わはははっ!あー、面白い!はい、残念でしたね。次で最後の挑戦者です。どうぞ!」


次の挑戦者はなぜか、箸と小豆が入ったお椀を持って登場した。
それを教卓の上へとドン!置く。

「私は今から箸でつまんだ小豆を鼻の穴へと詰めていきます」

は?それだけ?
その詰めた小豆を一斉に飛ばすとか?
この生徒たちの前でそれは、やばいでしょう?
ドキドキ……


男は次から次へと小豆を鼻の穴へと詰めていく。限界が来たのか、必死で鼻息で飛ばそうとしても小豆は一向に出てこない。
「大丈夫ですか?」
僕はニヤケながら助けに行った。

その時、男が持っていた箸が教卓の上を転がった。



コロコロコロリ……



「わはははっ!」
「きゃはははっ!」
「箸が転がってるぜ!面白っ!」
「すげー転げてる!笑える!」


教室中から生徒たちの笑い声が響いてきた。腹を抱えて笑う者もいれば、涙を流しながら笑っている者もいる。暗かった空間が一気に色鮮やかな空間へと生まれ変わる。


…え?箸が転がっただけで?
今の若い子たちのツボって何?
こんな事で笑えちゃうわけ?


小豆男は救急車で運ばれ、一命を取り留めたみたいだ。良かった。


生徒たちは気が狂うかの様に笑っている。


ビミョーな空気のまま、選手権は終わりを告げたのだった。


「はい!今回は残念でしたね。と言う事で、賞金は来年に持ち越しとなりました。次回はどんな大会になるのでしょうか。挑戦者お待ちしております。来年の〝強面生徒を笑わせろ!選手権〟をお楽しみに!」


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