第15話 うまくいく/いかない

文字数 784文字

「長い呼吸」がどうもうまくいかず、「ただ呼吸を追う、見守る」を続ける。しかし、これにも飽き足らなくなってくる。何か落ち着きがない。
 2、3日前はとてもうまくいった意識があったのに。どうも、この意識に引きずられているようだ。その時はそうだったからといって、それが恒常的に続くわけがない。その時その時で「私」は変化している。昨日は昨日、今日は今日。いい時もわるい時も受け入れて、その自分をじっと見つめる。

 マインドフルネスを行なう環境として、ブッダダーサは「静かな環境」を推しているが、昨日から道路工事の音がよく聞こえる。しかしこれを言い訳にしてはならないだろう。むしろこの音さえ瞑想の対象に、呼吸とともにあてがえばいい。
 いつか、「あ、無我だ…これが無我か…」瞑想中、そんな「気づき」も感じたが、あれ以来、あの感覚とは遠ざかっている。

 過去に体験したことに囚われて、今、このひと呼吸ひと呼吸に集中できていないのだ、きっと。自分自身が雑念固執の権化になっている。これでは静かな呼吸どころではない。
 もう一度原点に戻ろう、というのもいい。しかし基本は何も考えず、何も思わず、ただただ自分の呼吸、いきのねを感じ、この自分自身を観じるだけである。

 1日は24時間ある。そのうちの、たった1時間。一生のうちの、ただのこの時。地球が生まれて、何千億年のうちの、一瞬。
 宇宙の法則は、ある。ソクラテスもそれは感じていた。思考の法則、自然の理法、まことのことわりというものは、ある。
 この身体も、宇宙のようなものだ。ある法則に従って、息を吸い吐き、血が巡り、心臓が動いている。これは、私の意思ではない。私はドキドキする心臓を感じ、明日への不安を感じている。時間が、明日へ向かって止まらない。
 それでも、私が生きているのは今なのだ。この今に集中すること。今以外に、私はどこにもいないのだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み