第17話「自爆は男のロマン」
文字数 5,030文字
ただでさえ閉塞感のある室内が更に息苦しくなる中、エルメルの無邪気な声が響いた。
「おまたせー」
トレイにカップと砂糖壺を載せたエルメルが、ドアを開けて入ってくる。
カップは三つで、デザインはバラバラだ。
「来客を想定していないシェルターなんでね」
裕太の微妙な表情変化に気付いたのか、ヴァルが言い添える。
「あたしらの方には、コブールが刺客として送り込まれてきた。連中としては、まず真っ先に自壊プログラムを解除したいんだろう」
「その前には、ゆぅ君もユカリちゃんに拉致されそうになってたしねぇ」
ルナが砂糖を少し入れながら言い、伊織が砂糖とクリームをたっぷり入れながら続ける。
ヴァルは顎を撫でながら、軽く唸りの入った溜息を吐いて言う。
「ふむ……逆に利用できそうな状況ではあるが」
「向こうもそんなに余裕ないんだろうけど、こっちも似たり寄ったりだな」
ルナが苦々しい表情を浮かべるが、その理由はコーヒーの味ではないだろう。
エルメルの淹れてくれたコーヒーは豆が良いのか腕が良いのか、専門店で出てきても納得の味わいだ。
魚偏の漢字がいっぱい書いてある湯呑みに入っているせいで、気を抜くと何を飲んでいるのかわからなくなりそうだったが。
そんなことを裕太が考えていると、エルメルが話に混ざってくる。
「なになに? ルナは誰かと戦ってんの?」
「ん、悪の秘密結社だ」
「すげー! 敵はどんな奴?」
「ナイショ。秘密結社だし」
「……そうだな! それは秘密にしとかないと」
それでいいのか、とツッコミたくなる裕太だったが、その前にヴァルが止めに入った。
「エルメル。話は後にして、食料庫の整理と残量チェックを頼む」
「わかったー」
部屋を出て行くエルメルを見送ったヴァルは、ルナの方へと向き直る。
「悪の秘密組織――ね。そういう単純な相手だったら楽なんだが」
「全くだ」
「そうだねぇ」
三者三様の表情を浮かべているが、根本にあるのは全て苦笑いだった。
そんな中、急に口元を引き締めてヴァルが言う。
「それで、私はどうすればいい。セイとの対決に参加しろと?」
「突き詰めればそうなる。でも、アンタを前線に引っ張り出そうって気はないよ」
ルナの言葉に頷きながら、伊織も続ける。
「明確な敵対行動をとらなければぁ、セイ君からばるばるにアプローチがあった場合ぃ、こっちで罠を仕掛けるって手もあるしねぇ」
「攻勢に出るには情報が足りない。情報を集めるには人手が足りない。だから今は下準備をするしかない、ってワケだ。そんな状況であたしらがココが来たってのはつまり?」
ルナが水を向けると、ヴァルは重々しく頷き返してきた。
「わかってる……次の学長選挙では、前田教授を推せばいいんだな?」
「誰だよ前田教授! ドコの大学で派閥抗争に巻き込まれてんだ? 武器だよ、ブーキー!」
「ああ、そっちか。あるにはあるんだが……」
「何だよ、歯切れ悪いな」
「まぁ、実際に見て貰うのが早いか」
ヴァルに案内され、三人は更に地下にある武器庫へと向かう。
普段は殆ど出入りしていないのか、粘つくような重たい空気が澱んでいる。
八畳くらいの室内には、小さな机が一つとスチール製のロッカーが三つ。
部屋の隅には木箱が積んであり、壁にはショットガンらしき銃が二挺掛けられていた。
「んー、想像以上に少ないねぇ」
「こんな場所だしな。持ち込む資材にも限界がある」
「それに何と言うか……アンタにしては品揃えが普通過ぎるような」
ロッカーを漁っていたルナが、銀色にメッキされた拳銃を握りながら言う。
二十世紀中盤のソヴィエト軍や中国軍の制式拳銃として採用され、二十世紀後半には日本ヤクザの主力兵器として有名になったトカレフだ。
「ホントだぁ」
伊織が構えているのは、高い殺傷能力と信頼性と生産性から億単位の数が製造され、現在も世界中で人を殺している、アサルトライフルの古典的名作AK47。
大量生産品を手にして戸惑う二人に、ヴァルは口元を歪めながら言う。
「そいつは中々の威力だぞ。実際に撃ってみれば痛感できるだろうが、試してみるか?」
「何だよ、思わせぶりに」
ルナはトカレフを片手で構えると、土が剥き出しの床に銃口を向けて銃爪 を引く。
狭い空間に、非常識な音量が立て続けに響き渡る。
バンッ――バンッ――バガンッ!
立て続けに二発の銃声が響くが、三発目は発射音ではなく爆発音だった。
「……成程。ブービートラップね」
半ば吹き飛ばされた右の掌から噴き出す血を眺めながら、ルナは感心した風に呟く。
足下には、焦げてひしゃげたトカレフの残骸が、何本かの指と共に転がっている。
「ん……いや、大したことないから」
ショッキングな光景を眼にして固まっている裕太に笑いかけたルナは、散らばった指を拾い上げて元あった場所へと持って行く。
すると自動的に骨の修復と接合が始まり、焼け崩れた傷口も速やかに再生されていった。
「わかっちゃいるんだが、心臓に悪い絵面だな……」
「心配してくれるのは嬉しいけど、頭部がコナゴナとか全身がバラバラとか、そんなんでなけりゃ気にするだけ無駄だぞ。ちなみに、戦闘モードなら回復速度は更に上がる」
実際、話をしている内に、ルナの右手はみるみる元通りになってゆく。
「どうやら、試算通りの威力が発揮できるようだな」
血と煤 に塗れて転がる壊れた銃を見ながら、ヴァルは満足気だ。
「こっちのはどんな感じなのぉ?」
「そのAKはセミオートでは使えないようにして、ついでにフルオート時の反動を従来の数倍に調整してある。伊織やルナなら扱えるだろうが、普通の人間じゃ命中率はゼロに近いし、周りの味方を薙ぎ倒すのがオチだ」
小説だったかマンガだったかで、古いAKはフルオート射撃だと銃身の跳ね上がりが酷くてまず当たらない、みたいなセリフがあったのを裕太は思い出す。
「……しかし、こんなんばっかりか?」
「他には、ピンを抜いた瞬間に爆発する手榴弾、グリップに毒針が仕込んであるナイフ、高出力のレーザーで射手の視力を奪うライフルスコープ、装填した十秒後に全弾暴発する弾倉、弾がマトモに飛ばず射手の足下に落ちて炸裂するグレネードランチャー、とかだ」
「相変わらず、素敵な性格してるねぇ」
伊織はヴァルの説明に呆れ半分の反応を見せる。
「いやがらせ兵器もいいけど、ノーマルなのもいくつか欲しいな。特に、対集団戦闘用」
「何かあったかな。あ、そういえば――」
話の途中で、エルメルが大慌てで飛び込んでくる。
「ヴァルー! 何だ? 何が爆発した!」
「ああ、トラップ用のトカレフが作動しただけだ。撃ったのはルナだから大丈夫」
「そうか! じゃあどうでもいいな!」
「それよりエルメル、寝室に置いてあるゴルフバッグを持って来てくれ」
「あれな。わかった!」
部屋を飛び出したエルメルは、すぐに黒いバッグを担いで戻ってくる。
ヴァルを経由してバッグを渡された裕太がチャックを下ろすと、中には様々な色と長さの鉄パイプがぎっしり詰まっていた。
ルナは明らかに失望した表情で、その一本を取り出して眺めながら言う。
「……なぁヴァルよ。相手が相手だし、こういう昭和のヤンキー御用達アイテムじゃなくて、せめて近代兵器をだな」
「そこが狙いだ。これらは一見ただの鉄パイプだが、全てに別の機能が搭載してある。例えばこの黒いのは、ステッキ銃と同様の細工がしてあって、大口径散弾を撃てる。単発使い捨てで射程も短いが、接近戦では有効だろう。その錆び止めペンキで赤茶に塗ってあるのは、先端部に衝撃に反応する爆薬が詰めてあって、人の頭部を殴れば一撃でダイストマト風味に変換できる」
「この一杯ある、短めで白っぽいパイプは何かなぁ?」
「それは簡易パイプ爆弾だな。着火方法は黄燐 マッチと同じだから、ちょっと危なっかしい2B弾感覚で気軽に使ってくれ」
「へぇ、投げやすいサイズだねぇ。にしても、鉄パイプもどきオンリーなのぉ?」
「そうだが? ああ、ついでにこんなのも」
伊織に訊かれたヴァルは、バッグの脇にあるポケットから手袋を取り出す。
「カモフラージュ用のゴルフバッグに合わせて、改造ゴルフグローブも作ってみた。ナックル部分に赤茶パイプと同じ爆薬を詰めてあるから、文字通りのダイナマイトパンチが放てる。しかし、使用者へのダメージは全く考慮されてないのと、一撃のみの使い捨てだから要注意だ」
コンセプトは統一されている感じだが、そもそものコンセプト自体に莫大な疑問がある。
そんな思いでパイプの山を眺めていた裕太は、誰かに背中をポンと叩かれて振り返った。
「なぁなぁ、ユウタはあんまり強そうじゃないけど、大丈夫か? やってけんのか?」
「どうだろう……ちょっとダメかもな」
「それじゃあ、ユウタには特別にコレをやる」
エルメルの質問に冗談めかして答えると、ズッシリ重い何かを手渡された。
細くて長い鎖の先に、直径八センチ程の金属球が付いているそれは、見た目のシンプルさとは裏腹に、不自然な重量感を発揮していて裕太を困惑させる。
「うわ、重っ! 何だ?」
「流星錘 って中国の武器だ! 映画で見てカッコ良かったから、ヴァルに作ってもらった」
「そういや、三国志にも出てきたな……しかし、この重さは普通じゃないな」
「重い方が早いし、硬い方が強いじゃん? だから球も鎖もタングステン鋼にした」
言わんとしている事はわかるが、そのシンプルな思考はきっと間違っている。
タングステンは鉛よりもずっと重くて硬い、釣りの錘 とかに使われてる金属だ。
「知り合ったばっかりなのに、死なれてもイヤだしな。もってけ!」
「……ありがと。でも、いいのか? ワザワザ作ってもらったんだろ?」
「構わないさ。どうせ重過ぎてエルメルには使いこなせなかった」
横からのヴァルの言葉に、エルメルが「シィーッ」という感じで口の前に指を立てる。
細かい理由はどうあれ、心遣いは有難い――しかしこれ、どうやって使うんだろうか。
「使い方だったら、帰ってから教えるよぉ」
裕太の困惑を察したのか、伊織がそう声をかけてくる。
戦闘術の師匠として、これまでも色々な武器の使い方を教えてくれた伊織だが、こんな地味なものまでマスターしているとは流石だ。
「じゃあヴァル、この鉄パイプと銃を何挺か、それとトラップ用のも幾つか貰ってくな」
「いるだけ持っていけ。それと、ついでにこいつも」
ヴァルは、机の脇に掛けてあった小さなリュックをルナに放り投げる。
「っと、重たいな。中身は何だ?」
「C‐4を独自にカスタムした爆薬だ。威力はかなり強烈なんだが、専用の信管を起爆させるリモコンが、爆薬の半径一メートル以内でしか作動しない、という欠点があってな」
「作動した瞬間オンザ爆心地じゃねぇか! リモコンの長所をシカトした理由は?」
「その昔、高名なマッドサイエンティストが言っていた……自爆は男のロマン、と」
「マッドが付く時点で、世間一般のヒエラルキーからハミ出してんだよ!」
「まぁ、何かの役に立つかも知れんから、一応持ってけ」
ルナは若干納得し切れていない様子でプラスチック爆弾入りのリュックを背負い、伊織は鉄パイプの詰まったゴルフバッグを担ぎ、裕太は拳銃や手榴弾が入ったスーツケースを持つ。
「さて、と。貰うモンは貰ったし、そろそろ帰るわ。落ち着いたらまた顔出すよ」
「わかってるとは思うが、今回の騒動は何かが――いや、何もかもが不可解だ。状況は慎重に見極めた方がいい」
地上に向かう三人を見送りながら、ヴァルは深刻なトーンで告げる。
「ヴァルからそんな発言が出てくる、ってだけで気を付ける理由には十分だな」
「だねぇ。でも、きっと多分どうにか大丈夫に違いないよぉ」
微妙に若干ほんのり少々ちょっと頼りない感じだな、などと考えながら裕太もヴァルとエルメルに礼を述べてアジトを後にした。
「おまたせー」
トレイにカップと砂糖壺を載せたエルメルが、ドアを開けて入ってくる。
カップは三つで、デザインはバラバラだ。
「来客を想定していないシェルターなんでね」
裕太の微妙な表情変化に気付いたのか、ヴァルが言い添える。
「あたしらの方には、コブールが刺客として送り込まれてきた。連中としては、まず真っ先に自壊プログラムを解除したいんだろう」
「その前には、ゆぅ君もユカリちゃんに拉致されそうになってたしねぇ」
ルナが砂糖を少し入れながら言い、伊織が砂糖とクリームをたっぷり入れながら続ける。
ヴァルは顎を撫でながら、軽く唸りの入った溜息を吐いて言う。
「ふむ……逆に利用できそうな状況ではあるが」
「向こうもそんなに余裕ないんだろうけど、こっちも似たり寄ったりだな」
ルナが苦々しい表情を浮かべるが、その理由はコーヒーの味ではないだろう。
エルメルの淹れてくれたコーヒーは豆が良いのか腕が良いのか、専門店で出てきても納得の味わいだ。
魚偏の漢字がいっぱい書いてある湯呑みに入っているせいで、気を抜くと何を飲んでいるのかわからなくなりそうだったが。
そんなことを裕太が考えていると、エルメルが話に混ざってくる。
「なになに? ルナは誰かと戦ってんの?」
「ん、悪の秘密結社だ」
「すげー! 敵はどんな奴?」
「ナイショ。秘密結社だし」
「……そうだな! それは秘密にしとかないと」
それでいいのか、とツッコミたくなる裕太だったが、その前にヴァルが止めに入った。
「エルメル。話は後にして、食料庫の整理と残量チェックを頼む」
「わかったー」
部屋を出て行くエルメルを見送ったヴァルは、ルナの方へと向き直る。
「悪の秘密組織――ね。そういう単純な相手だったら楽なんだが」
「全くだ」
「そうだねぇ」
三者三様の表情を浮かべているが、根本にあるのは全て苦笑いだった。
そんな中、急に口元を引き締めてヴァルが言う。
「それで、私はどうすればいい。セイとの対決に参加しろと?」
「突き詰めればそうなる。でも、アンタを前線に引っ張り出そうって気はないよ」
ルナの言葉に頷きながら、伊織も続ける。
「明確な敵対行動をとらなければぁ、セイ君からばるばるにアプローチがあった場合ぃ、こっちで罠を仕掛けるって手もあるしねぇ」
「攻勢に出るには情報が足りない。情報を集めるには人手が足りない。だから今は下準備をするしかない、ってワケだ。そんな状況であたしらがココが来たってのはつまり?」
ルナが水を向けると、ヴァルは重々しく頷き返してきた。
「わかってる……次の学長選挙では、前田教授を推せばいいんだな?」
「誰だよ前田教授! ドコの大学で派閥抗争に巻き込まれてんだ? 武器だよ、ブーキー!」
「ああ、そっちか。あるにはあるんだが……」
「何だよ、歯切れ悪いな」
「まぁ、実際に見て貰うのが早いか」
ヴァルに案内され、三人は更に地下にある武器庫へと向かう。
普段は殆ど出入りしていないのか、粘つくような重たい空気が澱んでいる。
八畳くらいの室内には、小さな机が一つとスチール製のロッカーが三つ。
部屋の隅には木箱が積んであり、壁にはショットガンらしき銃が二挺掛けられていた。
「んー、想像以上に少ないねぇ」
「こんな場所だしな。持ち込む資材にも限界がある」
「それに何と言うか……アンタにしては品揃えが普通過ぎるような」
ロッカーを漁っていたルナが、銀色にメッキされた拳銃を握りながら言う。
二十世紀中盤のソヴィエト軍や中国軍の制式拳銃として採用され、二十世紀後半には日本ヤクザの主力兵器として有名になったトカレフだ。
「ホントだぁ」
伊織が構えているのは、高い殺傷能力と信頼性と生産性から億単位の数が製造され、現在も世界中で人を殺している、アサルトライフルの古典的名作AK47。
大量生産品を手にして戸惑う二人に、ヴァルは口元を歪めながら言う。
「そいつは中々の威力だぞ。実際に撃ってみれば痛感できるだろうが、試してみるか?」
「何だよ、思わせぶりに」
ルナはトカレフを片手で構えると、土が剥き出しの床に銃口を向けて
狭い空間に、非常識な音量が立て続けに響き渡る。
バンッ――バンッ――バガンッ!
立て続けに二発の銃声が響くが、三発目は発射音ではなく爆発音だった。
「……成程。ブービートラップね」
半ば吹き飛ばされた右の掌から噴き出す血を眺めながら、ルナは感心した風に呟く。
足下には、焦げてひしゃげたトカレフの残骸が、何本かの指と共に転がっている。
「ん……いや、大したことないから」
ショッキングな光景を眼にして固まっている裕太に笑いかけたルナは、散らばった指を拾い上げて元あった場所へと持って行く。
すると自動的に骨の修復と接合が始まり、焼け崩れた傷口も速やかに再生されていった。
「わかっちゃいるんだが、心臓に悪い絵面だな……」
「心配してくれるのは嬉しいけど、頭部がコナゴナとか全身がバラバラとか、そんなんでなけりゃ気にするだけ無駄だぞ。ちなみに、戦闘モードなら回復速度は更に上がる」
実際、話をしている内に、ルナの右手はみるみる元通りになってゆく。
「どうやら、試算通りの威力が発揮できるようだな」
血と
「こっちのはどんな感じなのぉ?」
「そのAKはセミオートでは使えないようにして、ついでにフルオート時の反動を従来の数倍に調整してある。伊織やルナなら扱えるだろうが、普通の人間じゃ命中率はゼロに近いし、周りの味方を薙ぎ倒すのがオチだ」
小説だったかマンガだったかで、古いAKはフルオート射撃だと銃身の跳ね上がりが酷くてまず当たらない、みたいなセリフがあったのを裕太は思い出す。
「……しかし、こんなんばっかりか?」
「他には、ピンを抜いた瞬間に爆発する手榴弾、グリップに毒針が仕込んであるナイフ、高出力のレーザーで射手の視力を奪うライフルスコープ、装填した十秒後に全弾暴発する弾倉、弾がマトモに飛ばず射手の足下に落ちて炸裂するグレネードランチャー、とかだ」
「相変わらず、素敵な性格してるねぇ」
伊織はヴァルの説明に呆れ半分の反応を見せる。
「いやがらせ兵器もいいけど、ノーマルなのもいくつか欲しいな。特に、対集団戦闘用」
「何かあったかな。あ、そういえば――」
話の途中で、エルメルが大慌てで飛び込んでくる。
「ヴァルー! 何だ? 何が爆発した!」
「ああ、トラップ用のトカレフが作動しただけだ。撃ったのはルナだから大丈夫」
「そうか! じゃあどうでもいいな!」
「それよりエルメル、寝室に置いてあるゴルフバッグを持って来てくれ」
「あれな。わかった!」
部屋を飛び出したエルメルは、すぐに黒いバッグを担いで戻ってくる。
ヴァルを経由してバッグを渡された裕太がチャックを下ろすと、中には様々な色と長さの鉄パイプがぎっしり詰まっていた。
ルナは明らかに失望した表情で、その一本を取り出して眺めながら言う。
「……なぁヴァルよ。相手が相手だし、こういう昭和のヤンキー御用達アイテムじゃなくて、せめて近代兵器をだな」
「そこが狙いだ。これらは一見ただの鉄パイプだが、全てに別の機能が搭載してある。例えばこの黒いのは、ステッキ銃と同様の細工がしてあって、大口径散弾を撃てる。単発使い捨てで射程も短いが、接近戦では有効だろう。その錆び止めペンキで赤茶に塗ってあるのは、先端部に衝撃に反応する爆薬が詰めてあって、人の頭部を殴れば一撃でダイストマト風味に変換できる」
「この一杯ある、短めで白っぽいパイプは何かなぁ?」
「それは簡易パイプ爆弾だな。着火方法は
「へぇ、投げやすいサイズだねぇ。にしても、鉄パイプもどきオンリーなのぉ?」
「そうだが? ああ、ついでにこんなのも」
伊織に訊かれたヴァルは、バッグの脇にあるポケットから手袋を取り出す。
「カモフラージュ用のゴルフバッグに合わせて、改造ゴルフグローブも作ってみた。ナックル部分に赤茶パイプと同じ爆薬を詰めてあるから、文字通りのダイナマイトパンチが放てる。しかし、使用者へのダメージは全く考慮されてないのと、一撃のみの使い捨てだから要注意だ」
コンセプトは統一されている感じだが、そもそものコンセプト自体に莫大な疑問がある。
そんな思いでパイプの山を眺めていた裕太は、誰かに背中をポンと叩かれて振り返った。
「なぁなぁ、ユウタはあんまり強そうじゃないけど、大丈夫か? やってけんのか?」
「どうだろう……ちょっとダメかもな」
「それじゃあ、ユウタには特別にコレをやる」
エルメルの質問に冗談めかして答えると、ズッシリ重い何かを手渡された。
細くて長い鎖の先に、直径八センチ程の金属球が付いているそれは、見た目のシンプルさとは裏腹に、不自然な重量感を発揮していて裕太を困惑させる。
「うわ、重っ! 何だ?」
「
「そういや、三国志にも出てきたな……しかし、この重さは普通じゃないな」
「重い方が早いし、硬い方が強いじゃん? だから球も鎖もタングステン鋼にした」
言わんとしている事はわかるが、そのシンプルな思考はきっと間違っている。
タングステンは鉛よりもずっと重くて硬い、釣りの
「知り合ったばっかりなのに、死なれてもイヤだしな。もってけ!」
「……ありがと。でも、いいのか? ワザワザ作ってもらったんだろ?」
「構わないさ。どうせ重過ぎてエルメルには使いこなせなかった」
横からのヴァルの言葉に、エルメルが「シィーッ」という感じで口の前に指を立てる。
細かい理由はどうあれ、心遣いは有難い――しかしこれ、どうやって使うんだろうか。
「使い方だったら、帰ってから教えるよぉ」
裕太の困惑を察したのか、伊織がそう声をかけてくる。
戦闘術の師匠として、これまでも色々な武器の使い方を教えてくれた伊織だが、こんな地味なものまでマスターしているとは流石だ。
「じゃあヴァル、この鉄パイプと銃を何挺か、それとトラップ用のも幾つか貰ってくな」
「いるだけ持っていけ。それと、ついでにこいつも」
ヴァルは、机の脇に掛けてあった小さなリュックをルナに放り投げる。
「っと、重たいな。中身は何だ?」
「C‐4を独自にカスタムした爆薬だ。威力はかなり強烈なんだが、専用の信管を起爆させるリモコンが、爆薬の半径一メートル以内でしか作動しない、という欠点があってな」
「作動した瞬間オンザ爆心地じゃねぇか! リモコンの長所をシカトした理由は?」
「その昔、高名なマッドサイエンティストが言っていた……自爆は男のロマン、と」
「マッドが付く時点で、世間一般のヒエラルキーからハミ出してんだよ!」
「まぁ、何かの役に立つかも知れんから、一応持ってけ」
ルナは若干納得し切れていない様子でプラスチック爆弾入りのリュックを背負い、伊織は鉄パイプの詰まったゴルフバッグを担ぎ、裕太は拳銃や手榴弾が入ったスーツケースを持つ。
「さて、と。貰うモンは貰ったし、そろそろ帰るわ。落ち着いたらまた顔出すよ」
「わかってるとは思うが、今回の騒動は何かが――いや、何もかもが不可解だ。状況は慎重に見極めた方がいい」
地上に向かう三人を見送りながら、ヴァルは深刻なトーンで告げる。
「ヴァルからそんな発言が出てくる、ってだけで気を付ける理由には十分だな」
「だねぇ。でも、きっと多分どうにか大丈夫に違いないよぉ」
微妙に若干ほんのり少々ちょっと頼りない感じだな、などと考えながら裕太もヴァルとエルメルに礼を述べてアジトを後にした。