第20話「時代が産んだ天才美少女魔法使い、ドカベンこと山田太郎や!」

文字数 3,656文字

~前回からのあらすじ~

ギルドのリーダーに危険な魔導書を渡した山田だが、

魔導書の暗号にはとある秘密が隠されているらしい。その秘密とはいかに。

今回が一応最終話なので、どう考えてもあらすじ見るより話を読み返したほうがよい。

ヨミドにはな、魔導書をパッと見せた上で

「この魔導書には暗号がある」って言うてある

暗号?
そう。暗号を解読すれば強力な魔法が手に入る。

コレをやるからウチらを見逃せって言う条件にしたんや

うん。でもそれって解読されたら結局悪用されかねないよな
そう。カイカが心配しとんのはその辺やね?
そうだよ
ま、たしかにそう思うやろうな。でもウチの師匠は一味違うで~
すごい難解な暗号でも使ったのか?
ちゃうちゃう
違う……?
師匠はな、暗号なんか書いたつもりないねん
?……??……どういうこと?
師匠はあの本を、メモくらいの気持ちで書いたんやわ。

作業のついでに書いたから悪筆も悪筆、読めたもんやない。

本人も「何を書いてるのか全く分からないけど、あげるね」って

本人読めないんじゃメモになってねえじゃん
本人に読まれへんもんをどう読めばええねん! って思ったわ。

「魔導書でなければ次元変化のメモかな」なおさら分かるか! って

本人に「こんなの読めるか」ってそう言ったのか?
言えるわけないやん。厚意でくれてんから。

か細い声で頑張って解読しますって言うのが精一杯や

大変だな、お前も
……解読できへん理由はそれだけちゃうねん。

ただ字が汚いだけやったらウチやなくても解読できるわ

俺でも?
それは無理。文章の上に別の文章上書きしてたりすんねんで?

最初落書き帳でも渡されたんかと思たわ。えげつないで~

そこまで言うなら無理か……
でな、仮に文字が読めるようになってもそっからが問題や。

本には師匠が勝手に作った造語がビッシリ並んどる

造語って?
師匠が考えた魔法に関する専門用語。

「電話交換局的脳髄論」とか

どういう意味なんだ……?
知らんわ、んなもん
分かってねーのかよ
そんな感じの、師匠にしか分からんような専門用語が大半や。

ウチも普段師匠の用語ばっかしな話を聞いてたから読めるだけやねん。

この造語のせいで解読もより難しくなるやろな

それじゃあお前しか読めないってことになるのか……?

でも、万が一それも解読されたら?

その時は、最後の関門が解読者に襲いかかるやろうな
最後の関門って?
「読めても高度すぎて使われへん」っていう……
最後の最後で致命的すぎる欠点が
解読する頭脳と、理解する頭脳と、実践する魔力。

こんな3つの要素を兼ね揃えた奴はおらん。ヨミドはまず無理。

天才のウチかて書いた本人と一緒におったから解読できただけや

うーん、それじゃあ悪用はされそうにないかな?
ウチが保証する。解読される前にあの本がボロボロになるやろな
解読に何千年かかるんだよ
ぶっちゃけ、最悪何かあったらウチが奪い返せば済むかなってね~
なるほどね……




話はこれで終わりでええかな?
ああ。とりあえず悪用されそうになくて何より
んじゃあウチはとっとと師匠んトコ行こっかな!

そっから商売も再開せなアカンな。有り金が底をつきそう……

あ! そういえばカイカ

ん?
約束の宿代芋代薬代と診察代、現金でよろしく
覚えてやがったか……
物覚えはええ方やねん。お金は超大事やしな。はよはよ~!
分かった分かった。ほらよ、これくらいでいいか?
おおきに~♪
俺のほうが有り金尽きそうだよ、まったく
ふふん、そんなカイカにええ話があるで
ん? いい話?
実はヨミドの奴がな、割のいい仕事がある言うてんねん。

強い奴に頼むような仕事やから大変やろうけど、その分金は出すて

へえ
その仕事にカイカも連れていったろか?

ホンマは断るつもりやってんけど、カイカも金無いみたいやし。

報酬を2人で分けてもかなりの金額になるはずや

俺が?
うん。まあカイカの実力で大丈夫なんかは知らんけど、

もし危なくなってもウチがどうにかしたるわ

うーん……
……なんや、悩むようなこと?
だって、お前に悪いだろ。

足を引っ張るかもしれないのに金はもらうだけもらうんだぜ。

それなら凄腕のお前が1人でやれば、報酬は全部お前のものじゃないか

まあせやな
そこを俺が割って入って報酬を持っていくなんてな。

確かに有り金は少ないけど、そんなに気を遣わなくてもいいんだぞ?

んーまあ、ウチとしてはカイカが攻めてウチが守る戦い方、

結構やりやすかってんけどな?

ハイロさんと戦った時、すごい攻撃魔法だったじゃないか。

1人でも余裕なんじゃないか?

んんまあ、そらねぇ? そうよ
だったら俺が出るまでもないよ。受けるならお前だけで十分。

1人で報酬を独占できるし、断るなら断るでいいじゃないか。

大事な金をわざわざ俺に回すことないさ。全部お前の物にしちまえ

……っかー! せっかく金をもらうチャンスやったのになあ!

カイカときたら遠慮の権化みたいな奴やなー!

権化て
ま、それやったらしゃーないな。

カイカはどこぞのダンジョンに行くんやもんね。じゃあお別れやな

ああ。またどこかで会えるといいな
どっかで会っても割引はせんからな
しろよ、そこは
んじゃね~! バイバーイ!
おう、達者でな





……(トコトコトコ)
(……ん?)
……(トコトコトコ)
(……いや、待て。ひょっとすると……いや、ひょっとしなくても)
……(トコトコトコ)
(……必要が……とすると……なら……。

 ……なるほど。そういう……)

……(トコトコトコ)
山田!
えっ!? なにっ?
(チョイチョイ)
手招き? なんやねんいったい……(タッタッタッ)
……ごほん
どしたん? いきなり呼び戻して
山田、旅の途中で「副都の辺りで暴れてる魔物がいるらしい」っていう噂を聞いたろ?
聞いたな。それも何回か
その魔物がすごく価値の高いお宝を守っているらしいという噂も
聞いたねえ
俺はその辺りに行って、宝を探そうと思う
そうなんや
しかしだ、国中で噂されるような魔物が番人ときた。

さぞかし強力な魔物に違いない。とすると俺1人で大丈夫か不安だ

……ほー
しかし俺の目の前にいるのは、何と偶然にも?
時代が産んだ天才美少女魔法使い、ドカベンこと山田太郎や!
そう。山田がついてくれれば怖い物なしだ。

山田がひとたび魔法を唱えれば、前に立つ者は皆消えてなくなる

ふっふーん、ウチの事よう分かってるやないの~
しかし、山田は金の入る仕事を依頼されてる。

商売もしたいらしいし、師匠の所に帰る用事もある

せやねえ?
しかしこの仕事、俺は絶対に受けさせる4つの秘策がある
ほほーう。ウチが絶対受ける秘策とな
まずその1。自由な労働環境だ。

移動中は自由にネタをやりゃいいし、戦闘中も好きにやれ。

料理も俺が作る。まあ、お前は変な薬入れるから調理場出禁だけど

これはホワイト企業やなあ。応募者殺到やでえ
で、その2。これは料理は俺がやるっていう条件についてくる

オプションみたいなもんだけど……ちょっと待ってろ

……?
……
……
ぷぷっ
ぷっ、ふふふ……
ほらよ。料理は毎回お前の好きな物を作ってやる。

でも無い物は注文すんなよ

ふふふ。やからわざわざ芋買ってきたん?

別にそこまで芋が好きなわけでもないんやけどな

知らん。今日は芋食え
芋の出店なんかようあったな。でも旅の途中やったら

食えるもんも限られる。注文できる幅も狭くなるばっかりやから、

ものすごい好条件ってわけでもない。他にもなんかあるんやろ?

その3。旅の途中で手に入れた物は基本的に利益を分割。

もしお宝があったらそれも2人で半分といこうじゃないか

自由にやるだけやってお宝は山分けか。破格やねえ。

でもお宝はあるか分からんし、これだけじゃあウチは受けへんかもよ?

そこで、最後の秘策だ……
ん? なに……
(バッ)よいしょっと
えっホンマになに? 急にどうしたん?




受けるって言うまでおんぶしてやる。これじゃお前も逃げらんねえだろ
……








ははははははは!! なにそれ! あっはっはははは!!

いやーこれは確かに逃げられへん! 逃げられへんでえ!!

だろ? 俺の背は高いからな。

下手に逃げようとしたら落ちてケガするよ

いや~まんまとしてやられたわ。

しゃーないこの仕事受けたろ! その代わりしっかりやってや~?

努力する。それにしても悪いな。

本当はギルドの仕事を受けたほうが割が良いだろ?

師匠の所に行く用事もあるはずだし、商売もしたいはずだ

いや~お金は惜しいけどね~? まあホンマに金は惜しいけど、

可哀想なカイカにそこまで頼み込まれたら断られへんしぃ~?

条件もこっちに譲歩してくれてるから今回だけ特別? みたいな?

師匠はもうちょい待ってくれるやろ! 商売は旅しながらでも!

そうか。ありがとな。じゃ、さっそく情報でも集めに行くか?

モンスターはこの近くに出るらしいから、この辺は情報が多いはずだ

せやな! さっそく行こか!
ああ!
(まったく遠回しな奴だ。おかげで見過ごす所だったぞ。

 でも、またしばらくは退屈しないで済みそうだな)



――よっしゃ! せっかくおんぶしたんやから走れー!

この体勢のままモンスターのとこまで突入やー!!

出来るか! もう降りろー!!








ひとまず、おわり!



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登場人物紹介

山田太郎

元道具屋の店主。高レベルな魔法の腕を持っているが、

なぜか関西弁の守銭奴とやけに現代的な性格。

「ドカベンって呼んでもええで」と言ったり、

偽名で岩鬼正美を名乗るなど、某野球漫画に謎のこだわりあり。

カイカ

冒険者の戦士。腕前に自信があったので難関ダンジョンに挑戦してみたものの、準備不足で傷薬がなくなりピンチに陥るちょっとしたマヌケ。腕は確からしいが、コミュ力がないと山田にディスられている。

ハイロ・アナグレタ

第3話より登場。酒場の看板娘らしい。

たちの悪い冒険者に絡まれていたところを山田たちに助けてもらう。

美人さんだが、なぜか「~っす」という語調で話す。

師匠(アネア・エアクオウ)

第9話より登場。凄腕の魔法使いで、山田の師匠。

100年以上生きているらしいが若々しく、「魔女」らしい風貌。

しかし魔法以外の事は99%忘れてしまうらしく、100年前どころか

昨日のことすら記憶が怪しい。山田いわく「後期高齢者」

ヨミド

第19話より登場。ギルドのリーダーで、魔法使い。

厳格な性格で、プライドが高いような発言が見受けられる。

第一章の山田とカイカはヨミドと会うために旅をしているが、

その役割を考えると、たぶん彼がメインヒロインなんだと思います。

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