第1話 一緒に暮らす動物のこと

文字数 1,326文字

 去年の6月の終わりに譲り受けたから、もうすぐ1年になる。
 私が猫を飼おうと思ったのは、猫とつきあってみたかったからである。

 犬は飼ったことがある。病気ひとつしない、健康で心のやさしい犬だった。
 母が雪の日に散歩をしていて、滑って転んだことがあった。綱が母の手から離れ、クロ(犬の名です)は自由の身になった。
 で、クロは転んだ母を尻目に、綱の束縛から解放されて、喜び勇んでどこかへ走っていこうとしたらしい。(実際彼は何メートルか先へ走っていった)
 だがクロは後ろを振り向き、母が転んでいるのを見た。そして母のところに走って戻ってきたのだ。
「転んじゃったよ、クロ」と母が立ち上がりながら言うと、クロは心配そうに母を見上げていたという。

 クロを飼う前は、小学生の時分、「モル」という名のモルモットを飼っていた。(もう1匹飼ったら、「モット」という名をつける予定だった)
 このモルも、賢いやつだった。野菜が好きで、冷蔵庫の野菜室が開く音、閉まる音を聞くと、「野菜がもらえる!」と思うらしく、そのたびにピーピー鳴くのだ。
 彼の住居であるカゴは、出入り口の所(エサ箱を引っ掛ける所)をいつも開けておいた。その出入り口の外に台を置き、その上に水とごはん皿を置く。すると彼は手をチョコンとかけて、首だけ出してごはんを食べ、水を飲むのだ。
 家がイヤになって、いつでも出ていこうと思えば出ていけるのに、モルは出ていこうとしなかった。

 モルが亡くなる時のことを、よく覚えている。元気がなくて、弱っていることがよく分かった。私は、巣鴨のとげぬき地蔵まで自転車で走った。(おじいちゃんおばあちゃんの原宿、とよくテレビで紹介される場所だ)
 モルを助けてください、と祈りに行ったのだ。
 家に戻り、モルのカゴの前に行った。モルはやはりじっとしていた。しばらく私が見ていると、ごそごそ、とモルが私のほうにやって来た。
 そして、私の顔を、じっと見つめたのだ。それは、野菜ちょうだい、でも、お水ちょうだい、でもなく、ただ、私の顔を見ているだけのようだった。「今まで、どうもありがとう」とでも言っているかのようだった。
 モルは、じっと私を見つめた後、急にごそごそと後ろを向いて、ゆっくりゆっくり、カゴの奥の、隅のほうへ行ってしまった。
「あ、モル、死んじゃう!」なぜだか、私にはわかった。その数日前、獣医に連れていっても病気ではなかったので、寿命だったのだろう。6、7年、モルと暮らした。

 クロが亡くなった時、私は結婚して実家を出ていたので、その最期を看取ってはいない。突然実家から、「クロが死んだ」との報せを受けた。
 16、7年実家で暮らし、だが病気ではなかったそうなので、やはり寿命だったようだ。一緒に、とにかく一緒に、同じ時間を過ごした相手が、いなくなってしまうのは、ほんとうに悲しい。それが長ければ長いほどに。

 今、フクと一緒にいる。
 よく走って、畳はボロボロになりそうな勢いだし、一緒に遊んでいると私の腕も傷だらけになる。
 でも、許せてしまう。
 おそらく、平均寿命的に考えると、私より早く亡くなるのかもしれない。それまで、元気で長生きしてほしい。
 生命って、素敵なものであるようだ。
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