第6話
文字数 1,275文字
「…あずみ、行こう!類を助けに!」
後ろから、大声で言ったのは怜奈だ。
「えっ…」
振り返ると、怜奈はなっちゃんを押し退けて私のすぐ後ろに来た。
「行こう、早い方がいいでしょ!二人で行けば、どっちかに何かあったら戻ってくればいい!みんなここで待ってて!あたしたちが戻ってくるまで!」
けれど、そこには大人さえ一人では入ってはいけないと言われている。ましてや子どもだけでなんて、絶対に許されることではない。
「何やってんの!?類に何かあってもいいの!?」
「…待って、大人を呼んできた方がいいよ…類が本当にいるのかもわからないし…」
私は正しいことを言った。
けれど、それが言い訳であることもわかっていた。
怖くて、足が動かない。
暗い森も怖い。
類に何かあるのも怖い。
それが本当の気持ちだ。
「もういい、あたし一人で行く!」
「怜奈!」
怜奈は勢いよく森の中に入っていった。
「私、誰か大人を呼んでくる!」と、誰かが言った。
私は、ただ立ち尽くしていた。
怖くて、立っているのが精一杯だった。
日が傾きかけてきた頃、大人たちが集まり始めた。
森の奥から人影が出てきたのはそのすぐ後だ。
「怜奈!」
「…類!」
怜奈のお母さんと類のおばあちゃんが同時に叫んだ。
類は少しふらついていたけれど、二人とも無事だった。
私は涙が止まらなかった。
泣く資格なんかないのに。
類が私の方へ歩いてきた。
「…ごめん、心配かけて」
そう言って、ちょっとだけ微笑んだ。
私は声も出なくて、首をふるだけしかできなかった。
怜奈が、こっちをにらみつけていた。
類を助けたことで、怜奈は人望を得始めた。
真面目だけが取り柄の私よりも、判断力、行動力があることを示した怜奈は、もともとの綺麗な顔が、みんなから認められたことで一層輝いて見えた。
認められたことで自信がついたのか、嫌味も言わない『いい子』になり始めた。
相変わらず私への敵対心は感じられたけれど、それはきっと、類が以前と変わらず私といたからだった。
怜奈は類だから助けたのだ。
私はそう思っていた。
後から類に聞いた話では、私への誕生日プレゼントに渡す花を探しに山へ入ったということだった。
大きな虹を見たいと言った私に、せめて虹のようにカラフルな花を、と思ったけれど、花屋さんの花は高くて買えなかった。
それなら、類が虹を見たひまわり畑のようなたくさんの花をプレゼントしたいと考えたそうだ。
けれど、花はないし、山の中で迷ってしまって動けないでいた。
そこへ突然、怜奈の声が聞こえたのだという。
あの次の日の誕生会は、類は風邪をひいてしまって結局来られなかった。
私は、類を探しに行かなかったことを後ろめたく思っていた。
怜奈が類を助けたことさえ、良かったことのはずなのに、なぜ助けたのが私ではないんだろうと、心の中がグルグルと渦巻いていた。
このまま類をとられてしまったらどうしよう。
人魚姫に出てくるバカな王子様が、隣の国のお姫様を好きになったみたいに、類も怜奈を好きになってしまったら。
そうしたら。
類を失ったら、私も、人魚姫のように泡になって消えてしまうのだろうか。
そんなことをずっと考えていた。
★
後ろから、大声で言ったのは怜奈だ。
「えっ…」
振り返ると、怜奈はなっちゃんを押し退けて私のすぐ後ろに来た。
「行こう、早い方がいいでしょ!二人で行けば、どっちかに何かあったら戻ってくればいい!みんなここで待ってて!あたしたちが戻ってくるまで!」
けれど、そこには大人さえ一人では入ってはいけないと言われている。ましてや子どもだけでなんて、絶対に許されることではない。
「何やってんの!?類に何かあってもいいの!?」
「…待って、大人を呼んできた方がいいよ…類が本当にいるのかもわからないし…」
私は正しいことを言った。
けれど、それが言い訳であることもわかっていた。
怖くて、足が動かない。
暗い森も怖い。
類に何かあるのも怖い。
それが本当の気持ちだ。
「もういい、あたし一人で行く!」
「怜奈!」
怜奈は勢いよく森の中に入っていった。
「私、誰か大人を呼んでくる!」と、誰かが言った。
私は、ただ立ち尽くしていた。
怖くて、立っているのが精一杯だった。
日が傾きかけてきた頃、大人たちが集まり始めた。
森の奥から人影が出てきたのはそのすぐ後だ。
「怜奈!」
「…類!」
怜奈のお母さんと類のおばあちゃんが同時に叫んだ。
類は少しふらついていたけれど、二人とも無事だった。
私は涙が止まらなかった。
泣く資格なんかないのに。
類が私の方へ歩いてきた。
「…ごめん、心配かけて」
そう言って、ちょっとだけ微笑んだ。
私は声も出なくて、首をふるだけしかできなかった。
怜奈が、こっちをにらみつけていた。
類を助けたことで、怜奈は人望を得始めた。
真面目だけが取り柄の私よりも、判断力、行動力があることを示した怜奈は、もともとの綺麗な顔が、みんなから認められたことで一層輝いて見えた。
認められたことで自信がついたのか、嫌味も言わない『いい子』になり始めた。
相変わらず私への敵対心は感じられたけれど、それはきっと、類が以前と変わらず私といたからだった。
怜奈は類だから助けたのだ。
私はそう思っていた。
後から類に聞いた話では、私への誕生日プレゼントに渡す花を探しに山へ入ったということだった。
大きな虹を見たいと言った私に、せめて虹のようにカラフルな花を、と思ったけれど、花屋さんの花は高くて買えなかった。
それなら、類が虹を見たひまわり畑のようなたくさんの花をプレゼントしたいと考えたそうだ。
けれど、花はないし、山の中で迷ってしまって動けないでいた。
そこへ突然、怜奈の声が聞こえたのだという。
あの次の日の誕生会は、類は風邪をひいてしまって結局来られなかった。
私は、類を探しに行かなかったことを後ろめたく思っていた。
怜奈が類を助けたことさえ、良かったことのはずなのに、なぜ助けたのが私ではないんだろうと、心の中がグルグルと渦巻いていた。
このまま類をとられてしまったらどうしよう。
人魚姫に出てくるバカな王子様が、隣の国のお姫様を好きになったみたいに、類も怜奈を好きになってしまったら。
そうしたら。
類を失ったら、私も、人魚姫のように泡になって消えてしまうのだろうか。
そんなことをずっと考えていた。
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