第20話 『フランスの輝かしい歴史』
文字数 1,332文字
次にフォレスチは、彼の祖父、オーストリア皇帝の偉大さに話を移そうとした。
君のお祖父さまが、長い旅から帰ってくると、民衆はみんな、自分の父親が家に帰ってきたように、歓呼して出迎えるだろう?
君のお祖父さまはね。戦争に負けたことだってある。でも、国民はみな、皇帝を慕っている。なぜだと思う?
それはね。きみのお祖父様は、国を守る為に戦ったからさ。決して、よその国を侵略しに行ったわけじゃない。
つまりね。戦争というものは、自分の国を守る為にだけ行うべきで……、
[コリン先生]
(部屋をひょいと覗く)
今日は、熱心に勉強しているね?
あのね、コリン先生! 僕ね、フォレスチ先生と、フランスについて話し合っていたんだ!
(フォレスチにアイコンタクト)
……ナポレオンの話をしたんですね?
(アイコンタクト)
……父親への憧ればかりが強くて、なかなかこちらの意図が伝わりません。もう少し、頑張ってみます。
ねえねえ、フォレスチ先生。ナポレオンは、偉大な将軍だから、王様になれたの?
(おっ! 堂々とその名を出してきたな)
いいや。ナポレオンという人は、王様じゃなかった。
ナポレオンというひと?
僕が生まれる1年前に、僕のママが結婚した人でしょ? ナポレオンだよ! 僕のパパは、フランスの偉大な皇帝だったんだ!
ねえ、フォレスチ先生。今のフランス王は、ルイ18世だよね。なぜパパは、もう皇帝じゃないの?
いいこと考えた!
あのね、フォレスチ先生。僕が前に読んで、すごく感動した本があるんだ! その本を、教えてあげる!
そうだよ。
あの本を読めば、フォレスチ先生だって、パパのことを、カッコいい、って思うはず!
『フランスの輝かしい歴史』、ね……。
(傍白)
フランスの付き人達を帰国させてから、プリンスの目に触れないよう、隠した本だ……。
(偽善的な気分で)
別にその本じゃなくても、ここにあるどの本だって、君は、自由に読んでいいんだよ?
ううん。あの本でないと!
(自分でも、本棚の下の段を引っ掻き回す)
『フランスの輝かしい歴史』には、戦争の、サイコーな話が書いてあるんだ!
だから、フランツ君。戦争は悲惨なものなんだ。君のお祖父さんの皇帝が、民から慕われるのは、無益な戦いをしないからで……、
(聞いてない)
その戦争ではね。パパが、大活躍してるんだ! もちろん、パパが勝った!
ああ、もっとちゃんと読んで、覚えておけばよかった……。
あれは、もう、私のことなんか、忘れてしまったに違いない。
オーストリアのハプスブルグ宮廷は、全力で、私のことを忘れさせようとしただろうから。
その嗅ぎ煙草入れを片付けてくれ! 細密画が張り付けてある! 私はもう、あの子を見るのが耐えられない!
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