第09話
文字数 2,393文字
「ほんじゃあこれはありがたぁく使わせてもらうぜ。お前らに運があったらまぁた会おう。んじゃまぁ~たな~」
「すまんな。しかしこれも世の常だ」
セイテンとケンレンは意気揚々とキャリアに乗り込む。
その後をついて一緒に乗り込もうとしたテンポウは、少し考えて駆け戻ると、ウィルのナイフを足元に放り投げた。
「わるいなボウズたち。恨まないでくれよ。おいらたちも生きていかなきゃいけないからさ」
「お~いテンポウ! おいてっちまうぞ~!」
セイテンに呼ばれ、テンポウはウィンクをして走り去る。
砂煙をあげて走り去るグランドキャリアを見送ると、ウィルは大きくため息をついた。
「ウィル……ごめん……ぼく……」
「ふぅ。あまい奴らで助かったぜ」
自分の不見識を素直に謝るクロエを無視して、ウィルは器用にブーツを脱ぎ、足でナイフを拾って縛られていたロープを切る。
ブーツを履き直し、クロエのロープも切ったウィルは、クロエの手首と足首の怪我が大したことがないことを確認して、そこで初めて笑顔を見せる。
「だから言ったろ。あんなのは賊の常とう手段だぜ? まぁこれからは気を付けんだな」
「あ、うん」
モーターガンとグランドブレイカー、言ってみれば全財産を奪われたに等しいはずなのに、ウィルはそれを気にした様子もない。
ロープに擦れて赤くなった手首をさすりながら、不思議そうにクロエが見ていると、ウィルは腰の端末を取り出し指を走らせた。
「お、まだ10キロも離れてねぇな。よし」
『生体認証』……『完了』
『操縦席固定』……『完了』
『現在地情報送信』……『完了』
『自動走行』……『開始』
次々と画面を操作し、面白そうに笑うウィル。
その後10分も経たずに、ポケットに手を突っ込んだまま待っているウィルたちのもとへ、もうもうと砂煙をあげたグランドキャリアが戻って来た。
元あった場所へとドリフトして止まったキャリアの操縦席には、セイテン、ケンレン、テンポウの三人がパニックになって転げまわっているのがよく見える。
ウィルは澄ました顔でまた端末を操作すると、グランドキャリアのハッチを開き、グイベルへと乗り込んだ。
テンポウが乗り込んだ時には動くことはなかったグイベルは、エンジンの唸りを上げて立ち上がる。
また端末を操作して操縦席のロックを外そうとしたウィルは、少し考えてグイベルを片膝立ちの姿勢にし、コクピットを開いた。
「あいつらクロエのモーターガン持ってるからよ、一応クロエもコクピットに乗れよ」
コクピットから伸ばされたウィルの手につかまり、クロエは狭いコクピットに滑り込む。
クロエはウィルの膝の上にちょこんと座り、ウィルの首につかまった。
「さすがにせめぇな……ちょっとの間、我慢だぜ」
「うん、大丈夫」
ただぎゅうぎゅうと小さなコクピットに乗り込むだけのことがさも面白いことのように、二人は笑う。
ウィルはコクピットのハッチを閉じると、満を持してキャリアの操縦席のロックを外した。
解除と同時に、慌てた様子でセイテンたち三人が転げ落ちる。
いち早く立ち上がったセイテンは、グイベルのコクピットに向けてモーターガンを構え、小さなエンジン音を響かせた。
『無駄だぜ。グランドブレイカー相手じゃさすがのモーターガンも効き目はねぇさ』
グイベルのスピーカーから、余裕に満ちたウィルの声が流れる。
しばらく銃を構えていたセイテンは、現状を整理し、自分の負けを理解して、ゆっくりと銃を下ろした。
「よーし、じゃあクロエのモーターガンと、有り金全部置いてさっさと消えろ」
「こンのガキ~! 盗賊から金をとる気かよ!」
「そっちのデブの情けに免じて命は助けてやるんだ。ありがたく思えよ!」
「兄貴~、命は助けてくれるって! よかったよね~」
「う~るせぇうるせぇ! おめぇは黙ってろってんだこのぉ~!」
「セイテン、ここらが潮時だ」
ケンレンたちになだめられ、セイテンは腰につけていたクロエのホルスターごとモーターガンを地面に置き、ケンレンは懐の貨幣 袋をその隣に置く。
ウィルの指示で三人を岩場に追いやり、警戒しながらグランドブレイカーを降りたクロエがモーターガンを確認してキャリアに乗り込むと、ウィルはキャリアの荷台にグイベルごと乗り込んだ。
『じゃあな。次からは相手を選べよ!』
「セイテンさん、ケンレンさん、テンポウさん! もう盗賊なんてやめてくださいね!」
「うっせぇちっくしょ~! こんにゃろぉ! 覚えてやがれ!」
手も足も出せずに砂煙をあげるグランドキャリアを三人は見送る。
赤い砂漠を走るキャリアからは、ウィルとクロエの笑い声が聞こえていた。
◇ ◇ ◇
夕刻。
キャリアの巻き上げた砂煙が収まった岩場に、エンジン音が鳴り響いた。
岩の陰から真っ黒に塗られたバギーが姿を現す。
整備はあまりされておらず、エンジンの回転も不安定なそのバギーは、まるで子供が好むおもちゃのように、あちこちに不必要なギザギザのパーツが張り付けられていた。
サイドには金一色で描かれた円形の龍と猿・豚・河童のシルエットがデザインされたエンブレムが輝いている。
断続的にマフラーから黒煙を吐き出すそのバギーは、あちこちの部品を軋ませながら砂漠を走り始めた。
「あんにゃろ~! モーターガンもグランドブレイカーも、俺様はぜってぇぜってぇ手に入れてやっかんなぁ~!」
「……ふん。懲りん奴だな」
「いいねぇ兄貴~! かっこいい~!」
バギーの上でセイテンたちがときの声を上げる。
その声は銀と蒼の月が照らす紫色の砂漠の夜空に、こだまのように鳴り響いた。
「すまんな。しかしこれも世の常だ」
セイテンとケンレンは意気揚々とキャリアに乗り込む。
その後をついて一緒に乗り込もうとしたテンポウは、少し考えて駆け戻ると、ウィルのナイフを足元に放り投げた。
「わるいなボウズたち。恨まないでくれよ。おいらたちも生きていかなきゃいけないからさ」
「お~いテンポウ! おいてっちまうぞ~!」
セイテンに呼ばれ、テンポウはウィンクをして走り去る。
砂煙をあげて走り去るグランドキャリアを見送ると、ウィルは大きくため息をついた。
「ウィル……ごめん……ぼく……」
「ふぅ。あまい奴らで助かったぜ」
自分の不見識を素直に謝るクロエを無視して、ウィルは器用にブーツを脱ぎ、足でナイフを拾って縛られていたロープを切る。
ブーツを履き直し、クロエのロープも切ったウィルは、クロエの手首と足首の怪我が大したことがないことを確認して、そこで初めて笑顔を見せる。
「だから言ったろ。あんなのは賊の常とう手段だぜ? まぁこれからは気を付けんだな」
「あ、うん」
モーターガンとグランドブレイカー、言ってみれば全財産を奪われたに等しいはずなのに、ウィルはそれを気にした様子もない。
ロープに擦れて赤くなった手首をさすりながら、不思議そうにクロエが見ていると、ウィルは腰の端末を取り出し指を走らせた。
「お、まだ10キロも離れてねぇな。よし」
『生体認証』……『完了』
『操縦席固定』……『完了』
『現在地情報送信』……『完了』
『自動走行』……『開始』
次々と画面を操作し、面白そうに笑うウィル。
その後10分も経たずに、ポケットに手を突っ込んだまま待っているウィルたちのもとへ、もうもうと砂煙をあげたグランドキャリアが戻って来た。
元あった場所へとドリフトして止まったキャリアの操縦席には、セイテン、ケンレン、テンポウの三人がパニックになって転げまわっているのがよく見える。
ウィルは澄ました顔でまた端末を操作すると、グランドキャリアのハッチを開き、グイベルへと乗り込んだ。
テンポウが乗り込んだ時には動くことはなかったグイベルは、エンジンの唸りを上げて立ち上がる。
また端末を操作して操縦席のロックを外そうとしたウィルは、少し考えてグイベルを片膝立ちの姿勢にし、コクピットを開いた。
「あいつらクロエのモーターガン持ってるからよ、一応クロエもコクピットに乗れよ」
コクピットから伸ばされたウィルの手につかまり、クロエは狭いコクピットに滑り込む。
クロエはウィルの膝の上にちょこんと座り、ウィルの首につかまった。
「さすがにせめぇな……ちょっとの間、我慢だぜ」
「うん、大丈夫」
ただぎゅうぎゅうと小さなコクピットに乗り込むだけのことがさも面白いことのように、二人は笑う。
ウィルはコクピットのハッチを閉じると、満を持してキャリアの操縦席のロックを外した。
解除と同時に、慌てた様子でセイテンたち三人が転げ落ちる。
いち早く立ち上がったセイテンは、グイベルのコクピットに向けてモーターガンを構え、小さなエンジン音を響かせた。
『無駄だぜ。グランドブレイカー相手じゃさすがのモーターガンも効き目はねぇさ』
グイベルのスピーカーから、余裕に満ちたウィルの声が流れる。
しばらく銃を構えていたセイテンは、現状を整理し、自分の負けを理解して、ゆっくりと銃を下ろした。
「よーし、じゃあクロエのモーターガンと、有り金全部置いてさっさと消えろ」
「こンのガキ~! 盗賊から金をとる気かよ!」
「そっちのデブの情けに免じて命は助けてやるんだ。ありがたく思えよ!」
「兄貴~、命は助けてくれるって! よかったよね~」
「う~るせぇうるせぇ! おめぇは黙ってろってんだこのぉ~!」
「セイテン、ここらが潮時だ」
ケンレンたちになだめられ、セイテンは腰につけていたクロエのホルスターごとモーターガンを地面に置き、ケンレンは懐の
ウィルの指示で三人を岩場に追いやり、警戒しながらグランドブレイカーを降りたクロエがモーターガンを確認してキャリアに乗り込むと、ウィルはキャリアの荷台にグイベルごと乗り込んだ。
『じゃあな。次からは相手を選べよ!』
「セイテンさん、ケンレンさん、テンポウさん! もう盗賊なんてやめてくださいね!」
「うっせぇちっくしょ~! こんにゃろぉ! 覚えてやがれ!」
手も足も出せずに砂煙をあげるグランドキャリアを三人は見送る。
赤い砂漠を走るキャリアからは、ウィルとクロエの笑い声が聞こえていた。
◇ ◇ ◇
夕刻。
キャリアの巻き上げた砂煙が収まった岩場に、エンジン音が鳴り響いた。
岩の陰から真っ黒に塗られたバギーが姿を現す。
整備はあまりされておらず、エンジンの回転も不安定なそのバギーは、まるで子供が好むおもちゃのように、あちこちに不必要なギザギザのパーツが張り付けられていた。
サイドには金一色で描かれた円形の龍と猿・豚・河童のシルエットがデザインされたエンブレムが輝いている。
断続的にマフラーから黒煙を吐き出すそのバギーは、あちこちの部品を軋ませながら砂漠を走り始めた。
「あんにゃろ~! モーターガンもグランドブレイカーも、俺様はぜってぇぜってぇ手に入れてやっかんなぁ~!」
「……ふん。懲りん奴だな」
「いいねぇ兄貴~! かっこいい~!」
バギーの上でセイテンたちがときの声を上げる。
その声は銀と蒼の月が照らす紫色の砂漠の夜空に、こだまのように鳴り響いた。