第二章 45

文字数 1,681文字

「銃は持っているかい?」
「え? ええ……」

 ジョンの問いかけにわたしは一瞬きょとんとしたが、すぐにそう返事をした。実際、官給品のグロックと私物のコルトがホルスターにささっている。

 いいだろう、とジョンは言うと、わたしの横を通って廊下に通じるドアへと歩いていった。

「場所を移して気分を変えよう」ジョンはそう言って廊下へ出ていった。わたしが椅子に腰をおろしたまま動かずにいると、「なにしてる、さあ早く」と引き返してドア枠から顔を覗かせた。

 わたしは飲みさしのカップを事務机の端に置くと、ジョンについていった。

 一階のエントランスまでおりたわたしたちを出迎えたランプは、相変わらずステンドグラスの笠ごしに美しい輝きを投げかけていた。

「こっちだ」

 呼びかけたジョンが立っていたのはエントランスの一角にある木製ドアの前だった。二度目にここを訪れたとき、彼が出てきたドアだ。そのときはマーク・ハニーボールの命を奪うライフルを片手にしていた。
 招じられるまま奥へ進むと、打ちっぱなしのコンクリート壁で覆われた階段室が地下へとのびていた。

「ドアを閉めてくれ」

 天井からぶらさがる白熱球が光を照らすなか、階段を途中までおりたジョンが言う。
 わたしはドアを閉めると、階段に足をかけた。ジョンはすでに階段をおりきっており、地下にあるもう一枚のドアに鍵をさしこんでいるところだった。
 それは分厚い鉄のドアで、ジョンが両手をかけて押すと重々しい軋みをあげながら開いた。

「さあどうぞ」

 二枚目のドアをくぐって奥へと進んだわたしは、目の前の光景に息をのんだ。

 そこは屋内の射撃場だった。
 広さは階上のエントランスより二回り以上大きく、正面にパーテーションで区切られた五つのブースと、その先には同じ数だけ的を設置できる全長五十ヤードほどのレーンが伸びていた。
 右手のカウンターはガラスのショウケースも兼ねており、クッション材を敷いた中には様々な銃器が置かれている。

「なかなかのものだろう」ジョンが重たいドアを閉ざしながら言う。「わたしのお気に入りの場所さ。普段は誰も入れないがね」
「この建物って中古よね?」
「ああ。きっと前の持ち主が道楽で作ったんだろう。古いが手入れは行き届いている。違法か合法かはこの際言いっこなしだ」

 たしかにわたしが訓練で使う射撃場よりも手狭だが、設備環境や状態はずっといい……いや、正直嫉妬をおぼえるほどだ。ここを警察関係者が使うことができたら、どれほど有益だろうか。

「銃はなにを使っているんだ?」カウンターの裏にまわったジョンが、ベテランのバーテンのようにガラスケースに両手を置いてわたしに訊ねる。「九ミリ? それとも四十五口径?」
「四十五口径よ」
「結構」言いながらジョンはケースをさぐりだした。「気にすることはない。どうせ警察のおごりだ」
「警察のおごりって……税金ってこと?」
「わたしのポケットマネーから捻出しているところもあるにはあるが、その給料も警察が支払っているからね。結局は同じことさ」

 さあ、どうぞ。と、ジョンは弾丸が詰まった箱とイヤーマフ、それからゴーグルをカウンターの上に並べた。
 その口元に浮かんでいる笑みのせいで、彼が心なしか子供のようにはしゃいで見える。

 わたしはそれ以上追求するのを諦め、道具を持ってブースまで移動した。レーンにはすでに人型のシルエットが印刷されたターゲットペーパーが吊り下がっている。
 的との標的をひとまず十ヤードに設定すると、的がレールを滑るように遠ざかっていくのを見据えながら腰のコルトを抜いた。

 ゴーグルとイヤーマフをつけ、銃を構える。
 照門と照星、それから的が直線になるよう狙いを定め、重い引き金をしぼっていく。
 イヤーマフのおかげで銃声はくぐもって聞こえたが、それでも室内を反響する音は身体に強く響いた。

 弾倉の中身を七発をすべて撃ちきると、わたしは少し考え、ジョンに渡された箱を開けた。真鍮の尻を整然と並べた弾丸をいくつかつまみあげ、弾倉にこめなおしていく。
 二回目も撃ち終えたところで、わたしは的を手元に戻した。
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